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    なつのおれんじ

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    なつのおれんじ

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    そねさに
    2020-05-17

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    16.約束のティータイム 
    そよ風 / 安らかな寝顔 / 甘い

    穏やかな午後の昼下がり──食堂の隣にある談話室からは、焼きたてのパウンドケーキの甘い香りが漂っている。
    「主、遅いね。何かあったのかな?」
     割烹着姿の燭台切光忠がドアを開けて、心配そうに廊下を見渡した。
    「普段ならいの一番にやって来るはずなんだがなぁ」
    「お菓子好きなあの子が遅刻なんて珍しいね。いつも楽しみにしているのに」
     三日月宗近と歌仙兼定が目を合わせて、不思議そうな表情を浮かべている。
    「仕事に集中でもしてんじゃねーの?」
    「ご主人様に限ってそれはないと思うよ、豊前くん」
     亀甲貞宗の言葉に、一期一振が小さく笑い声を上げた。
    「主殿は休むときにはとことん休みますからな。一体何をしておられるのやら……今日は"刀派長の会"、山鳥毛殿初参加の日だと言うのに」

     今日は月に一度の本丸全体の休日である。馬当番と畑当番の刀剣男士を除いたほぼ全員が非番になるため、暇を持て余した刀派の長たちがこうして談話室を訪れるようになったのが、"刀派長の会"の始まりだ。いつ頃からか審神者も参加し、仰々しい名前で呼ばれ始めたお茶会は、今ではこの本丸の恒例行事となっている。
     そんな名だたる名刀の長が集まる華やかな場所で、長曽祢虎徹はひとり黙々とパウンドケーキを頬張っていた。
    (いつまで経ってもこの雰囲気には慣れんな……)
     ここにいる刀たちと仲が悪い訳ではない。この居心地の悪さは、虎徹の贋作という立場でありながらこの場にいる事が原因だ。
     蜂須賀虎徹からは"虎徹の兄を名乗るなら出席しろ"と叱咤され、源清麿からは"こういうのは柄ではないから代わりに出て欲しい"と頼まれている。断り切ることができず、長曽祢は仕方なくこの会に出席していた。
     その時、借りてきた猫のように大人しくしている長曽祢を、山鳥毛が一瞥した。
    「私の為に、というわけではないが……茶会は皆で楽しむべきものだろう。悪いが長曽祢虎徹よ、小鳥を呼んできて貰えるか」
     山鳥毛からの突然の指名に驚いた長曽祢が、飲み込もうとしていたパウンドケーキを喉に詰まらせた。
    「ん"っ……ど、どうしておれが」
    「貴殿は小鳥の親鳥のようなものだろう?」
     その一言に、長曽祢は苦々しく笑った。
    「……はは。新入りのあんたにもそう思われているのか、おれは」
     この本丸の審神者は、非常にマイペースな人物である。長らく近侍を務める長曽祢が世話を焼き続けた結果、周囲から二人は親子のようだと言われるようになった。しかしそれは、長曽祢にとって本意な事ではない。
    (おれが主に惚れているとは、誰も想像すらしていないんだろうな)
     誰かに口外したことも無いのだから仕方が無いが、と長曽祢は心の中でため息をついた。
     長曽祢が審神者に世話を焼くのは、他の刀剣男士に付け入る隙を与えない為である。今のところ地道な努力のおかげか、審神者に手を出そうとする者は見当たらない。しかし審神者本人にまで自分が保護者だと思われてしまっては、元も子もないというのが長曽祢の悩みだった。周囲に向かって、"親だなんだともてはやすのは止めてくれ"と心の中で呟き、長曽祢は重い腰を上げた。
    「仕方ない。燭台切の入れた紅茶が冷める前に呼んでくるとするか」
    「ありがとう長曽祢くん。主をよろしく頼むよ」
    「ああ、任せろ」
     長曽祢は立ち上がったついでに、口の中のパウンドケーキを紅茶で押し流すと、足早に談話室を後にした。親代わりにされたのは不服だったが、あの煌びやかな空間から離れることが出来るのは、少しだけ有り難かった。

     どうすれば審神者に男として見てもらえるのか……そんな事を考えながら長い廊下を進み、いくつか角を曲がると審神者の私室に辿り着いた。軽くドアをノックするが、中から反応は無い。
    (ここにいると思ったんだが……当てが外れたか?)
     長曽祢は怪訝な表情を浮かべながらその場を立ち去ろうとしたが、気がつけば自身の手はドアノブに触れていた。
     ガチャリ、と小さな音を立ててドアが開く。無意識のうちにドアを開けてしまった事──その次に部屋に鍵がかかっていない事に長曽祢は驚いた。
    「……主、いるのか? 入るぞ?」
     小さく声を掛けてゆっくりとドアを開けると、部屋の奥から爽やかな風が吹き抜けていった。おそらく窓が開けっ放しになっているのだろう。差し込んだ光に目が眩んだが、長曽袮は審神者の私室へ恐る恐る足を踏み入れた。

     短い廊下を抜けた先の部屋は、暖かな光に包まれていた。カーテンがそよ風に揺られ、ゆらゆらと踊っている。その隙間から審神者の服の一部が見えた瞬間、長曽祢は小さくため息をついた。
     審神者は窓の横にあるロッキングチェアに腰を掛けて、すやすやと眠っていた。手元には読みかけの本が開かれ、風でページがパラパラとめくられている。太陽の光と風が心地良いのか、審神者は安らかな寝顔を浮かべていた。
    (寝ているのか……)
     長曽祢は審神者の近くに腰を下ろすと、その寝顔をまじまじと見つめた。審神者の寝顔を明るい場所で見たのは、これが初めてだった。元々童顔な人物だが、寝息をたてて眠る姿はさらに幼く見え、さながら小動物のようだ。
    (愛らしいとはこの事だな)
     審神者の前髪が風に吹かれ、鼻のあたりを掠めた。それがくすぐったかったのか、審神者はくぐもったを漏らしながら身をよじった。その様子を見た長曽祢は小さく笑うと、審神者の前髪を掬い耳にかけてやった。色素の薄い淡い髪。自分より遥かに小さな身体。桜色に染まった唇──その気になれば、どれも今すぐに奪うことができるだろう。
    (無防備、だな)
     甘美な誘惑に思わず喉が鳴った。
    「……ながそね、さん?」
     その時、審神者の瞼がゆっくりと開いた。
    「ん、起きたか」
     先ほどまで抱いていた欲望を隠して優しく微笑む。長曽祢は審神者の頭を優しく撫でると、早く起きるよう促した。
    「あんたが茶会前に昼寝とは珍しいな」
    「この場所が気持ち良すぎて……ふあぁ。それに長曽祢さんが起こしに来てくれると思ったから、寝ちゃいました」
     ぼうっとした口調でそう答え、審神者はふにゃりと笑う。
    ──その瞬間、長曽祢の中で何かが弾けた。

    「あんたは何か勘違いをしているようだな」
     長曽祢は審神者の腕を掴み、腰に手を回すと、そのまま勢いよく自分の元へ抱き寄せた。
    「な、長曽祢さん⁉︎」
    「悪いが、おれはあんたの保護者になるつもりはないぞ」
     そう告げながら、強く抱きしめる。陽だまりの中にいた審神者の身体はとても暖かく、太陽を抱いているようだった。審神者は離してくれと訴えたが、長曽祢はそれを聞き入れようとしない。
    「普段のおれなら離してやっただろうが……今は止められそうにない。今日のおれは気が立っているんでな」
    「なんでっ……ながそねさんっ、苦しい、です」
    「おれだって苦しいさ。いつになったらあんたはおれを男として見てくれるんだ?」
     もう保護者はうんざりなんだ──そう吐き捨てながら、長曽祢は審神者を抱きしめる腕を解いた。その瞬間、審神者は力が抜けたように床へへたり込んだ。後を追うように長曽祢がしゃがみこむ。
     審神者の顔は、まるで紅をさしたように真っ赤に染まっていた。小さく唇を震わせながら、長曽祢のことを見つめている。
     そんな審神者の姿を見て、長曽祢は思わず息を飲んだ。長く審神者と共にいて、一度も見た事が無い表情──それを引き出せた事に、自分でも驚いたからだ。長曽祢はこの時、ようやく気付く事ができた。初めからこうすればよかったのだと。
    「べ、別に男として見てないわけじゃ」
    「じゃあどんな風に見ているんだ?」
    「そ、それは……」
     審神者が目線を逸らした瞬間を、長曽祢は見逃さなかった。審神者の肩を掴むと、そっと床に押し倒して覆い被さる。
    「今までは優しくしていたが……それではあんたを勘違いさせてしまう。だからこれからはもう、容赦は無しだ」
     審神者の頰を指先でなぞる。その行為は、まるで獲物に狙いを定める獣のようだった。
    「おれが男だということを、その身体で理解して貰おうか」

     理不尽なキスは、酷く甘い香りがした。
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    これは開き直ったエメトセルク

    いつものミコッテ♀ヒカセンだよ
    ※謎時系列イマジナリーラザハンにいる
    ※実際のラザハン風は多分違うと思う

     まだ土地勘のないラザハンで、ほとんど拉致されるように連れ込まれた店にはウルダハでもなかなかお目にかからないような服や宝飾品が並んでいた。
     彼が選んだ数着のドレスごと店員に任せられたかと思ったら試着ファッションショーの開催となり、頭に疑問符を浮かべたままサベネアンダンサー仕込みのターンを彼の前で決めること数度。
     そういえばこのひと皇帝やってたんだっけと思い出すような審美眼で二着が選ばれ、それぞれに合わせた靴とアクセサリーが選ばれる。繊細な金の鎖のネックレスを彼に手ずからつけてもらったところで我に返ると、既に会計が済んでいた。
     当然のような顔をして荷物を持ってエスコートしてくれるまま店を出たところで代金についてきけば、何故か呆れたように、プレゼントだと言われてしまった。
    「今日なんかの記念日とかだっけ……?」
     さすがに世間一般的に重要だとされるような、そういうものは忘れていない、はずだ。そう思いながらおそるおそる問いかける。
    「私にとっては、ある意味で毎日そうだがな。まあ、奢られっぱなしは気がひけるという 1255

    riza

    PROGRESS【エメ光♀】おっぱい揉む?の言語化

    頭割りのなんかになるかもしれない
    なったらいいね なったらいいな
    これはいずれ自分のために成すとは決めてるものなんだけどいかんせんファンフェスの内容次第で気が狂ったら全く別の何かを成す可能性もあるからな…
    いつものミコッテヒカセン
    ※※※


     うなだれたエメトセルクからはどことなく潮の香りがして、濡れてもいないのに海の気配がした。
     だから、潮溜まりにでもうっかり浸かってへこんでいるのかなと一瞬考えて、そんなことはないだろうと思い直す。わたしじゃあるまいし、このアシエンが自らあてもなく海辺をうろつくところからして想像するのがむずかしい。それにきっと海に落ちて濡れたって、彼ならパチンとやってすぐさま乾かしてしまえる。
     なのに、ぽとりとひとしずく、水の粒が落ちたのだ。
     やっぱりびしょ濡れになるような何かがあったのかもしれない。少ししっとりしているように見えなくもない、一房だけ白いその髪から水気の名残が落ちたのかもしれない。下から覗き込んだ顔の表情はほとんど無に近くて、白っぽい金色の瞳が潤んでいる様子もない。
     それなのに、泣いているのかなと、思ってしまった。
     泣くような何かがあったんだろうか。
     泣くような何かを、わたしがしたんだろうか。
     どうしてきみがそんな顔するんだ。
    「困ったな」
     思わず──そう、思わず、無意識に。
    「どうしてきみがそんな顔するんだ」
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