社畜審神者と近侍の長谷部社畜審神者と近侍の長谷部
今日という今日はやめてやるぞと思ったんだよ。いや会社じゃなくて、人生のほうね。
現世と本丸をある程度自由に行き来するには現世で就労している必要があるのはもう仕方ないから受け入れたけど、それにしたってもうちょっとホワイトな会社を紹介してくれないもんかね。終電手前どころか終わってんだよな。仮眠室に泊まればいいって話じゃねえんだよ。カスみたいな提案してくる上司のせいで後輩を育てても潰されるし、だから俺の仕事は一生減らないし、「辞めても意外と残った人間が何とかするもんだ」つって同期も皆やめたな。逃げられる人間は簡単に言うよ。担当がころころ変わって客先に嫌味を言われるのはいつも俺だった。逃げたかった。けど、逃げられなかった。忙しすぎると逃げる元気もないんだよな。今日も施設から父親が暴れたって連絡と着信で履歴が埋まってる。朝も昼も夜も色んな人に謝って、月に一日二日とはいえ、本丸にいる時だけが俺の安寧だった。戦ってるのに、不謹慎だよな。
でも今日という今日はもうやってらんねえと思って、コンビニで普段は飲まない酒を買って、ほろ酔い気分で会社の近くの踏切まで来た。会社辞めるより死ぬほうが楽で簡単だからね。でも、そこで思っちゃったんだよ。死ぬ前にお前の顔が見たいって。
本当は所定の場所以外で通過許可書切るのは禁止なんだけどさ、まあ別にいっか、怒られる前に死ぬんだしと思って。緊急用許可書切って、来ちゃった。ふふ、ははは! はあー。好きだよ、長谷部。これが最後なのはちょっと惜しいから、もう少し、頑張ろうかな。明日、6時に起こしてくれる?
おわり
【蛇足】
審神者(アラサー)
会社員。本当は審神者だけやっていたいが本丸に住み込みになると現世との行き来がとんでもなく面倒になるため、施設に入所済の高齢の父親のために兼業している。親子仲が特別良い訳では無い。
現世で週に5日以上一日8時間以上の就労があれば本丸へ通じるゲート通過許可書を常備できるという規則がある。審神者専業へ誘導するための規則だったが自殺者と行方不明者が多発したため、この規則は現在では廃止されている。