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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    このへんのやつ消化
    まだデキてはいないけど主肥

    実質舌打ちもファンサみたいなものだよね それはもう、癖みたいなものだった。
     度々指摘されてはいたけれど、政府所属で先行調査員をやっていた頃も、この本丸にきてからも、苛立つとつい出てしまう癖。本丸に来てからはむしろ増えたくらいだ。この場所では、人斬りの刀である肥前にはどうにもやりにくいことばかりやらされている気がしてならない。

    「ちっ」

     またやっちまった、とはいつも思っていた。
     同室の刀の前であれば「おやおや」「まあた悪い癖が出ちゅう」とは言われるものの強く咎められることはない。初期刀兼近侍あたりだともう少しうるさく、「何だいその態度は」などと眉を顰められるが、それで終わりだ。多分、肥前の苛立ちを多少なりとも理解しているのと、この本丸の主である審神者の目がなければ、窘めこそすれ、矯正しようとまでは思わないのだろう。つまり、なんだかんだと肥前の癖は直ることなく、とうとう目の前にいる審神者に対しても出るようになってしまったわけだが。
     出てしまったものはしょうがない。咎められるかと思いきや、顔を上げると、ぱちぱちと瞬きする審神者と目が合った。
    「今、投げキッスした?」
    「は?」
     言葉の意味を理解するのに時間がかかった。審神者は頬をだらしなく緩ませてにやけている。
    「ファンサってやつ? 肥前もそういうのしてくれるんだね」
    「はあ?」
     二回目の怪訝な声が出て、頭がようやく言葉の意味を理解する。投げキッス。ファンサ。そういったものを得意とする本丸が存在すると聞いたことがある。
    「でもした瞬間見損ねたな。もう一回!」
    「しねえよ!」
     思わず言い返してから、そもそも、ともう一度声を張った。
    「なげきっすもふぁんさもしてねえ!」
     審神者は「またまたあ」とへらへら笑っていた。


     癖なので、すぐに直るものでもない。その上、審神者は肥前に向いていないことばかり頼んでくるのでつい舌打ちする機会も多いのだ。
    「ちっ」
     あ、と思うともう審神者のにやけ顔が視界に入って心底うんざりする。
    「投げキッスサンキュー」
     この審神者はポジティブなのか何なのか、もう幾度となく肥前の舌打ちを正面から食らっているはずなのに、その度笑顔を返してきた。肥前もその度に訂正する。
    「してねえよ」
     審神者は耳に入らなかったかのようににこにこしている。
    「ファンサうれしいなあ」
    「してねえんだって」
    「でもまた見逃したから、モーション付きでもう一回!」
    「してねえって言ってんだろ!」
     思わず強めに怒鳴ると、審神者は「ケチ」と拗ねた。


     そんなことが続き、部屋でつい「なんなんだあいつ」と愚痴ると、陸奥守は声をあげて笑った。
    「大俱利伽羅んことを思い出すのう」
    「ああ?」
    「おんしみたいに舌打ちして、主に『小鳥のさえずりが聞こえたな~』言われちょった。さすがの大俱利伽羅も、それからはいっくら気の進まんこと頼まれても、黙ってやり過ごしてたのう」
    「……ちっ」
    「おお、投げキッスじゃ」
    「やめろ……」
     散々審神者を怒鳴ってきた後なのでもう声を張る気力もない。
    「ふむ」
     黙り込んで長いこと手元を見ていたので聞いていないと思っていた南海が、手にしていた電子端末の画面をこちらに向けた。
    「投げキッスというのは、これのことかね」
    「……なんだこれ」
    「おお、らいぶ、っちゅうやつじゃな。篭手切に見してもろうたことがある」
    「そう、ふぁんさ、が何か僕も気になってね。詳しそうだったから尋ねたのだが、丁寧に参考映像まで貰ったよ」
     映し出された映像は、噂には聞いていた本丸のものだ。耳馴染みのない音楽に合わせて踊っていた一振りがこちら側、カメラに気付くと、器用に片目を瞑り、口元に手を当てると、「ちゅっ」というリップ音と共に指先をこちらに向けた。確かに、舌打ちに聞こえないこともないが。
    「……全然違うだろ」
     映像の中のその刀は楽しそうに歌い、踊り、カメラに向かって手を振ってまた笑う。よくやるよ、と思う反面、眩しくもある。そうなりたいとは思わないが、戦場以外に活躍の場所があり、それを心から楽しんでいるらしい刀剣男士達を、不思議な気持ちで眺めた。


     癖は直らないまま、今日も仕方なく審神者の部屋を訪れている。必要以上に顔を合わせたくはなかったが、台所でつまみ食いを見つかり、見逃される代わりに審神者の昼食を運ぶように頼まれてしまったのだった。渡された盆には握り飯が五つ載っている。多いな、と思うと同時に見透かされたように「二つまでなら君も食べていいよ」と言われたので、廊下を来る途中で既に一つ腹に納めた後だ。
    「おい、めしだってよ」
    「あー、ありがと。そこ置いといて……おっかしいな……ここにしまっといたのに……」
     審神者は食事を摂りに部屋から出る暇もないらしく、机には書類が散乱したままで、本人は本棚をひっかきまわしている。書類を適当に端へ寄せて盆を置く。審神者の視線がこちらに向いていなかったのもあって、肥前はふと、口元に手を当てた。指先を口元から、前へ。ちゅ、と舌を鳴らしてみる。意味があったわけではなかった。意識してやってみたところで、やはり自分がやるのでは舌打ち以外の何でもないだろう、と思う。
    (……馬鹿らしい)
     盆の上から二つ目の握り飯を取ると、あ、と口を開けたところで、いつの間にかこちらを凝視していた審神者と目が合う。
    「……んだよ。これはおれのだからな」
    「ち、ちがくて」
     審神者の声は震えていた。
    「いま、いま……ガチで投げキッスしたよね???」
    「は、はあ?」
     してない、と言おうとして、けれど実際してしまった後なので、とりあえず握り飯を齧り、口を動かして時間を稼ぐ。しかしその間に審神者は本棚から出しかけの資料やらファイルやらが落ちるのも構わず駆け寄ってきて、肥前の肩を掴んだ。
    「今の! マジの投げキッスじゃん!! えっ? なんで?」
    「ち、ちげえよ!」
    「嘘だー! 俺見たもん!! 今のは絶対投げキッスだもん!!!」
    「うるせえ!!!!……おい待てよ」
     手に力が入り、握り飯がひしゃげる。零れそうになった一角を齧り、もぐもぐと口を動かす間にも審神者は肥前の肩をしっかり掴んだままだ。
    「……舌打ちだって、分かってたってことかよ」
    「え?」
     途端に、やべ、みたいな顔をされて、露骨に目を逸らされる。
    「じゃあ、今まで、わざと……」
    「……だってさあ」
     じろりと睨むと、肩を竦めた審神者は肥前から手を離して言った。
    「肥前、舌打ちしたとき、しまった、って顔したじゃん?」
    「……」
    「俺は別に気にしてないのに、肥前が気にしてるのはなんか可哀想だなと思って、試しに投げキッスってことにしてみたんだけど」
    「してみるんじゃねえよ」
    「そしたら、言い返してきて、前より俺に構ってくれるようになったじゃん」
    「構ってるわけじゃ……」
     しかし、事実その通りだった。必要以上に関わりを持たないようにしていたのに、投げキッスだのファンサだのと言うからそれを逐一訂正する分、言葉を交わす回数は増えている。語気はどんどん弱まり、とりあえず手の中に残っていた握り飯を三口で片付けた。食べている間はしゃべらなくて済む。
    「俺は肥前と、もう少し仲良くなりたかっただけだよ」
    「……」
    「それにまあ、舌打ちも一部の業界ではご褒美みたいなもんだからさ。そういう意味じゃー―」
    「……」
     口の中のものを全て飲み込んでしまっても、返事をする気になれなかった。



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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
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    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
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    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

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    そんな主だから普段から睦言めいたものはなかなか頂けなくて少しばかりつまらない。そこでちょっとこのうさぎを使って可愛いとか言わせてみようと思ったわけさ。
    主に手渡すと胴を両手で持ちながらしげしげと眺めている。耳を触ったり目元の装飾をいじったり。予想よりだいぶ興味を示してるなぁと見ているときだった。
    「ああ、可愛いな」
    主が力を抜くように息を吐く。
    あ、これは思ったより面白くないかもしれない。そ 874

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    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    緑の下で昼寝する主くり
    極の彼は適度に甘やかしてくれそう
    新緑の昼寝


     今日は久々の非番だ。どこか静かに休めるところで思う存分昼寝でもするかと、赤い方の腰布を持って裏山の大桜に脚を伸ばす。
     とうに花の盛りは過ぎていて目にも鮮やかな新緑がほどよく日光を遮ってまどろむにはもってこいの場所だ。
     若草の生い茂るふかふかとした地面に寝転がり腰布を適当に身体の上に掛け、手を頭の後ろで組んでゆっくりと瞼を下ろす。
     山の中にいる鳥の鳴き声や風に吹かれてこすれる木の葉の音。自然の子守歌に本格的にうとうとしていると、その旋律に音が増えた。
    「おおくりからぁ~……」
     草葉の上を歩き慣れていない足音と情けない声にため息つき起き上がると背を丸めた主がこちらへと歩いてくる。
     のろのろと歩いてくるのを黙って見ていると、近くにしゃがみ込み頬を挟み込まれ唐突に口づけられた。かさついた唇が刺さって気分のいいものではない。
    「……おい」
    「ははは、ごめんて」
     ヘラヘラと笑いあっさりと離れていく。言動は普段と差して変わらないが覇気が無い。観察すれば顔色も悪い。目の下に隈まで作っている。
    「悪かったな、あとでずんだかなんか持って行くから」
     用は済んだとばかりに立ち上 780

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    花火景趣出たときにハイになってかいた。
    花火見ながら軽装姿の嫁といちゃつくだけ
    いつもの執務室とは違う、高い場所から夜空を見上げる。
    遠くでひゅるる、と音がしたあと心臓を叩かれたような衝撃とともに豪快な花が咲く。
    真っ暗だった部屋が花の明かりで色とりどりに輝く。それはとても一瞬でまた暗闇に戻るがまたひゅるる、と花の芽が音をなし、どんと花開く。
    「おお、綺麗だな」
    「悪くない」
    隣で一緒に胡座をかく大倶利伽羅は軽装だ。特に指定はしていなかったのだが、今夜一緒にどうだと言ったら渡したとき以来見ていなかったそれを着て来てくれた。
    普段の穏やかな表情がことさら緩んでいるようにも見える。
    横顔を眺めているとまたひゅる、どんと花の咲く音ときらきらと色があたりを染めては消える。
    大倶利伽羅の金色がそれを反射して瞳の中にも咲いたように見える。ああ。
    「綺麗だな」
    「そうだな、見事だ」
    夜空に視線を向けたままの大倶利伽羅がゆるりと口角を上げた。それもあるんだが、俺の心の中を占めたのは花火ではないんだけどな。
    「大倶利伽羅」
    「なんだ」
    呼び掛ければすっとこちらを見てくれる。
    ぶっきらぼうに聞こえる言葉よりも瞳のほうが雄弁だと気づいたのは付き合い始めてからだったかなと懐かしみながら、 843

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です
    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗 3117