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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    晶くんオンリー4展示です。
    晶くん×ヒースクリフ片思いからのハプニング。おしゃべりなローズネタです(お察し)
    双子も出る。

    そんなところもだいすきです きっと一目惚れだったと思う。同時に、一目惚れ、とあまりにも簡単な一言で表してしまっていいものか、と頭を悩ませてもしまうけれど。

     猫が騒ぐ、明るい満月の夜に、俺はこの世界にやってきた。夢みたいな出来事の連続で、そんな状況だったから余計に目に焼き付いたとも言える。初めて出会った魔法使いは二人だった。どちらにも目を奪われたけど、俺の腕を引いた冷たい指の感触を、俺の視線から逃げるように俯いたヒースクリフの綺麗な横顔を、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せる。もちろん、その時は彼の顔をじっくり見るような余裕も図々しさもなかったけれど、映画の一コマ一コマのように、脳裏に焼き付いているのだ。美術品のように整った横顔、明かりに照らされてうっすらと輝く髪、宝石みたいな美しい瞳。初めて会った時、その肌は作りもののように青白く、だから余計に美術品みたいだと思ったけれど、魔法舎で生活するようになってからは、彼の年相応の純朴さだとか、控えめな性格だとか、かと思えば大胆な行動に出るところもあるのだとか、頬に赤みがさしている時の方が人らしくて可愛いとか、そういうことを知っていった。それからやっぱり、何をしていても綺麗で、でも彼は美術品ではないから、ふとした瞬間にこちらを向いてはにかんだり、声をあげて笑ったりするので、その度に心臓はドキドキとうるさくなる。
     彼に一目惚れするのは自分だけじゃないだろうな、とも思う。ヒースクリフは誰が見ても綺麗で、あの夜じゃなくても、俺が賢者じゃなくても、きっと恋に落ちていたに違いない。特別なことじゃない、と思うと、残念なような、誇らしいような複雑な気持ちになった。でも事実だ。ヒースクリフ・ブランシェットは誰が見ても綺麗で美しくて、もちろんその魅力は見た目だけに留まらず、透き通るような耳に心地よい声も魅力的だし、穏やかだけど芯があって、かと思えば情熱的で優しいところもあって、俺は何度も彼に救われた。救われた分だけ、俺も彼の力になりたいと思う。賢者の俺にできることが何なのか、今はまだわからないのがもどかしい。けれど、賢者でなくても、俺は彼の力になりたい。それを伝えれば、彼はきっと困った顔をするだろうけれど、そういうところも含めて、俺は、





    「け、賢者様、あの、分かりました、から」
     か細い声に、はっとして顔を上げた。浮かんだ言葉をつらつらと声に出してしまって、気付けば息切れするほどだ。そんな俺の目の前には、首から耳まで真っ赤になったヒースクリフがいる。
    「だ、」
     手遅れだ、と思いながらも、俺は言わずにはいられなかった。
    「だから、言ったじゃないですか…!」
     そんな俺の声も、ヒースクリフと同じ位か細く、掠れていたけれど。


    ***


     おしゃべりなローズ。それが全ての元凶だった。
     口にすると愛を伝えずにいられなくなる、という特徴を知った時は震えたけれど、分量を間違えなければローズクレープの良いアクセントになる。実際、俺が作った時は万が一にも入れすぎてしまわないように気を付けたし、食べてくれた魔法使い達も別段変わった様子はなかったので完全に油断していた。魔法使い全員に行き渡るように作ったローズクレープ。バラの香りがするお菓子なんて食べたことがなかったので、少し多めに作って、自分用にも取り分けておいたものを口にしたはずだった。
    「「賢者ちゃん、賢者ちゃん」」
     クレープを少しずつ食べているスノウとホワイトが、それぞれにっこりと首を傾げながらこちらに微笑みかける。あまずっぱいクリームがのったクレープを飲み込んでから、なんですか、と俺も首を傾げた。
    「賢者ちゃんに質問!」
    「賢者ちゃんは、スノウと~」
    「ホワイト、どっちが、どれくらい~」
    「「好き?」」
     お茶を口に含む前でよかった。二人の脈絡のない発言には随分慣れたつもりだけど、それでもよく似た美少年が顔を並べて「ねえねえ」と迫ってくればびっくりするし、ドキドキもする。ただ、今日が初めてでもないので、躱し方もそれなりに分かってきたつもりだった。だから、俺はスノウのこともホワイトのことも、言葉で言い表すのはむずかしいくらい、好きですよ、と、そう伝えるつもりで口を開いたのに。
    「どのくらい、だなんて俺が自分で判断するのは難しいですよ。二人のこと、どちらも同じくらい素敵だと思ってるし可愛いと思ってるしかっこいいと思っています。あ、俺よりずっと年上だということはもちろん分かっていますけど、分かった上で可愛い、って思っていますよ。どんな服も着こなしていていつも見惚れちゃいますし、大人の姿もかっこよくて、でも子供の姿の時にも、傍にいて貰えると安心感があるし、だからどっちがどのくらい、とかじゃないんですよね……スノウがいれば安心、ともホワイトがいれば安心、とも感じるし、二人が揃っていると安心感が二倍です、し」
     おかしい、と思って口元を押さえたものの、時既に遅し。自分の口から出る言葉が自分のものではないみたいで、頭の中で反芻すればするほどに頬が熱くなっていく。なんだこれ。
    「わー! 嬉しい!」
    「どっちか選ぶとか、賢者ちゃんなら、ないかな~と思ったけど、これはこれで、じゃな!」
     きゃっきゃと手を叩いて喜ぶ双子に、失言はしていないらしい、と思うものの、確実に様子がおかしい。もちろん、俺の。
    「ど、どうして」
     おそるおそる声を出す。思い当たるのはもちろん今食べたばかりのローズクレープだ。でも、分量は間違えなかったはず。間違えていたら、他の魔法使いに影響があったはずだし、そもそも口にする前に誰かしら気付いたはず。あ、西の魔法使いだったら気付いてもそのまま食べてしまうかも…。そんなことを考えていたけど、二人はあっさりネタばらしをしてくれた。
    「賢者ちゃん、味見してたでしょ」
    「……あっ」
    「一皿分なら全く効果はないんだけどね~」
    「賢者ちゃん、結構しっかり味見してたからね~」
    「ああ……」
     言われてみれば当たり前のことだけど、どうして気付かなかったんだろう。一人分の容量にはあんなに気を付けたのに。でも、普段から料理が得意というわけでもないし、ネロの腕には及ばないにしても、魔法使い達においしくないものを食べさせたくないという気持ちでいっぱいで、そういえば味見の段階でとっくに一人分の量は口に入れていたかもしれない。
    「そういうところあるよね、賢者ちゃん」
    「まあ我らも分かってて止めなかったし」
    「「ごめんね?」」
    「……二人とも、顔が笑ってます……」
     謝っている割に嬉しそうな双子にもごもごと言いつつも、俺は立ち上がった。一度口にしてしまえば、勢いがついたみたいに言葉が漏れそうになって、ぎゅっと唇を引き結ぶ。おしゃべりなローズの効果は長くなかったはずだけれど、それでもこれ以上誰かに、特にヒースクリフに会ってしまう前に食堂を離れなければ。もう行っちゃうの~?と相変わらず楽しそうな二人を置いて、俺はひとまずお茶を口に流し込み、空のお皿を流しに下げに行く。これを片付けて、元々そうだったように部屋にこもって夕飯の時間まで書類仕事を片付けることにしよう。双子に言ってしまった言葉を反芻するに、友人相手であっても感じている”愛”の部分を正直に伝えてしまう、という効果のようだと身をもって知った。正直、恥ずかしくて仕方がないけど、これがヒースクリフだったらと思うと恥ずかしいだとかそういう問題ではない。だって、俺がヒースクリフに抱いている思いは友人に対しての情ではないから。友人に対して相手の好ましいと思っている部分を全て言ってしまうのと、片思いをしている友人に対して言ってしまうのでは全然わけが違う。前者も恥ずかしすぎて避けるにこしたことはないけれど、ヒースクリフだけは、
    「賢者様?」
    「わあ!」
     突然背後から聞こえてきた声に、思わず飛び上がった。振り返ればそこには、まさに今思い浮かべていたその人の姿があって、俺は咄嗟に口を押さえた。
    「な、な、んでしょう」
     ローズの効果に抗えているのか、意識して慎重に声を出すとどうにか普通の返事を口に出来たけど、正直喉元まで「好きです」が出かけてる。それなのに、ヒースクリフに話しかけられたのが嬉しくて、つい返してしまった。ヒースクリフは挙動不審な俺を不思議そうに見ながらも、花が綻ぶような尊い笑顔を俺に向けてくれる。
    「あの、ローズクレープ、おいしかったです。さっきもお伝えしたんですけど……賢者様、すごく真剣に作って下さったって双子先生に聞いて……改めてきちんと御礼が言いたくて」
    「そ、そんな、いえ、あの、わざわざいいのに、その……ありがとうございます……す、んんん」
    「?」
     気を抜くと本当にまずい。俺は誤魔化すように咳払いをして、それじゃあ俺はこのへんで、とヒースクリフの横をすり抜けようとした、が、しっかりと腕を掴まれて、それはかなわなかった。見れば、さっきまでの笑顔が消えて、うっすらと翳ってすらいる表情で、ヒースクリフは真っ直ぐに俺を見つめていた。そんな顔も綺麗だ、と思ってしまって慌てて目を逸らす。
    「賢者様、俺、何かしましたか……?」
    「えっ、なん、」
    「さっきから、目が合わないので……」
     それはあなたの目をしっかりと見たら絶対にその美しさについて言及した後告白してしまいそうだからです、とは言えない。
    「い、まは無理なんです……ヒースクリフの、こと、っ、見られないので」
     言ってから、いやこんな傷つけるような言い方よくない、と思うものの、限界だった。
    「あ、あとで、後で話しますから、今は勘弁してください」
     目を逸らしたまま、そう言うのが精いっぱいだ。けれど、今日に限ってヒースクリフは譲ってくれなかった。
    「いやです」
    「え?」
     反射的に、声の方へ顔を向けてしまう。本当に、宝石みたいに綺麗で、けれどしっかりと意志を感じさせるような強い眼差しが俺を射抜くようだった。
    「後回しにして、後悔したくありません。賢者様、俺が何か、賢者様を傷つけるようなことをしてしまっていて、それに俺自身が気付いていないのなら、教えて欲しいんです。身勝手なのは分かっています。でも、俺は賢者様に、その、嫌われたくない、ので」
    「嫌いになったりしません!」
     思わず大きめの声を出してしまって、それで、びっくりしたように怯んだヒースクリフの顔を正面から見据えて、それでもう、だめだった。
    「だ、だって、ヒースクリフのことが、大好きですから……! きっと、俺……!」
     一目惚れだったと思うんです、と続けてしまって、そこからはもう、言葉が後から後から溢れてくるのを止められず――


    ***


    「……」
    「……」

     そうして、今に至るのだった。
     俺が息切れしたから、というわけでも、ヒースクリフに止められたから、というわけでもなく、単純にローズの効果が切れたのだろう。意識しなくても言葉が溢れてしまう、ということはなかったけれど、もう少し早く効果が切れていれば、と思わずにはいられない。
    「……おしゃべりなローズ」
    「あ、ああ……あれ? でも、俺達はなんとも……」
    「味見で……食べすぎて……」
    「なるほど……」
     伝えた言葉は最低限だったものの、ヒースクリフはそれで理解してくれたようだった。思えば、「おしゃべりなローズ」とだけ言えば事情は全部伝わったかもしれないのに、本当に色々と手遅れだ。
    「忘れて下さい……」
     掠れた声でそう言うのが精いっぱいだった。さっきとは別の意味で、ヒースクリフの顔を真っ直ぐに見られない。
    「……わ、忘れません」
    「そこを、なんとか……」
    「いやです」
     今度も、ヒースクリフは頑なだった。たまに、そういう頑固な部分を見ると、なんだか微笑ましい気持ちになってしまうけれど、今はそうなっている場合ではない。泣きそうだけど、そもそもヒースクリフが手を離してくれないので部屋にも帰れない。
    「……賢者様、ローズの効果は、もう……?」
    「はい、多分……すみません、へんなこと言って……」
    「へん、なんかじゃ、ないです! あの、」
     ヒースクリフの言葉が途切れる。顔を上げてちらりと見ると、真っ赤になったままの顔で、やっぱり俺を真っ直ぐに見つめていた。
    「さっきの言葉、ローズの効果抜きで、もう一度、聞きたいです」
    「……えっ」
     気付けば、俺の腕を掴むヒースの手はじんわりと熱い。
    「そうしたら、俺も、賢者様の、……あなたのどこが好きか、伝えます。……あっ、ずるい、ですか?」
     眉尻を下げて、困ったように笑うヒースクリフにそんな風に言われて、俺はまた、思わず大きめの声を出してしまったのだった。




    おしまい 
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    ちょもさんが女体化したけど動じない主と前例があると知ってちょっと勘ぐるちょもさん
    滅茶苦茶短い
    「おお、美人じゃん」
    「呑気だな、君は……」

     ある日、目覚めたら女の形になっていた。

    「まぁ、初めてじゃないしな。これまでも何振りか女になってるし、毎回ちゃんと戻ってるし」
    「ほう」

     気にすんな、といつものように書類に視線を落とした主に、地面を震わせるような声が出た。身体が変化して、それが戻ったことを実際に確認したのだろうかと考えが巡ってしまったのだ。

    「変な勘ぐりすんなよ」
    「変とは?」
    「いくら男所帯だからって女になった奴に手出したりなんかしてねーよ。だから殺気出して睨んでくんな」

     そこまで言われてしまえば渋々でも引き下がるしかない。以前初期刀からも山鳥毛が来るまでどの刀とも懇ろな関係になってはいないと聞いている。
     それにしても、やけにあっさりしていて面白くない。主が言ったように、人の美醜には詳しくはないがそこそこな見目だと思ったのだ。

    「あぁでも今回は別な」
    「何が別なんだ」
    「今晩はお前に手を出すってこと。隅々まで可愛がらせてくれよ」

     折角だからなと頬杖をつきながらにやりとこちらを見る主に、できたばかりの腹の奥が疼いた。たった一言で舞い上がってしまったこ 530