Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 50

    いなばリチウム

    ☆quiet follow

    晶くんオンリー4展示です。
    晶くん×ヒースクリフ片思いからのハプニング。おしゃべりなローズネタです(お察し)
    双子も出る。

    そんなところもだいすきです きっと一目惚れだったと思う。同時に、一目惚れ、とあまりにも簡単な一言で表してしまっていいものか、と頭を悩ませてもしまうけれど。

     猫が騒ぐ、明るい満月の夜に、俺はこの世界にやってきた。夢みたいな出来事の連続で、そんな状況だったから余計に目に焼き付いたとも言える。初めて出会った魔法使いは二人だった。どちらにも目を奪われたけど、俺の腕を引いた冷たい指の感触を、俺の視線から逃げるように俯いたヒースクリフの綺麗な横顔を、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せる。もちろん、その時は彼の顔をじっくり見るような余裕も図々しさもなかったけれど、映画の一コマ一コマのように、脳裏に焼き付いているのだ。美術品のように整った横顔、明かりに照らされてうっすらと輝く髪、宝石みたいな美しい瞳。初めて会った時、その肌は作りもののように青白く、だから余計に美術品みたいだと思ったけれど、魔法舎で生活するようになってからは、彼の年相応の純朴さだとか、控えめな性格だとか、かと思えば大胆な行動に出るところもあるのだとか、頬に赤みがさしている時の方が人らしくて可愛いとか、そういうことを知っていった。それからやっぱり、何をしていても綺麗で、でも彼は美術品ではないから、ふとした瞬間にこちらを向いてはにかんだり、声をあげて笑ったりするので、その度に心臓はドキドキとうるさくなる。
     彼に一目惚れするのは自分だけじゃないだろうな、とも思う。ヒースクリフは誰が見ても綺麗で、あの夜じゃなくても、俺が賢者じゃなくても、きっと恋に落ちていたに違いない。特別なことじゃない、と思うと、残念なような、誇らしいような複雑な気持ちになった。でも事実だ。ヒースクリフ・ブランシェットは誰が見ても綺麗で美しくて、もちろんその魅力は見た目だけに留まらず、透き通るような耳に心地よい声も魅力的だし、穏やかだけど芯があって、かと思えば情熱的で優しいところもあって、俺は何度も彼に救われた。救われた分だけ、俺も彼の力になりたいと思う。賢者の俺にできることが何なのか、今はまだわからないのがもどかしい。けれど、賢者でなくても、俺は彼の力になりたい。それを伝えれば、彼はきっと困った顔をするだろうけれど、そういうところも含めて、俺は、





    「け、賢者様、あの、分かりました、から」
     か細い声に、はっとして顔を上げた。浮かんだ言葉をつらつらと声に出してしまって、気付けば息切れするほどだ。そんな俺の目の前には、首から耳まで真っ赤になったヒースクリフがいる。
    「だ、」
     手遅れだ、と思いながらも、俺は言わずにはいられなかった。
    「だから、言ったじゃないですか…!」
     そんな俺の声も、ヒースクリフと同じ位か細く、掠れていたけれど。


    ***


     おしゃべりなローズ。それが全ての元凶だった。
     口にすると愛を伝えずにいられなくなる、という特徴を知った時は震えたけれど、分量を間違えなければローズクレープの良いアクセントになる。実際、俺が作った時は万が一にも入れすぎてしまわないように気を付けたし、食べてくれた魔法使い達も別段変わった様子はなかったので完全に油断していた。魔法使い全員に行き渡るように作ったローズクレープ。バラの香りがするお菓子なんて食べたことがなかったので、少し多めに作って、自分用にも取り分けておいたものを口にしたはずだった。
    「「賢者ちゃん、賢者ちゃん」」
     クレープを少しずつ食べているスノウとホワイトが、それぞれにっこりと首を傾げながらこちらに微笑みかける。あまずっぱいクリームがのったクレープを飲み込んでから、なんですか、と俺も首を傾げた。
    「賢者ちゃんに質問!」
    「賢者ちゃんは、スノウと~」
    「ホワイト、どっちが、どれくらい~」
    「「好き?」」
     お茶を口に含む前でよかった。二人の脈絡のない発言には随分慣れたつもりだけど、それでもよく似た美少年が顔を並べて「ねえねえ」と迫ってくればびっくりするし、ドキドキもする。ただ、今日が初めてでもないので、躱し方もそれなりに分かってきたつもりだった。だから、俺はスノウのこともホワイトのことも、言葉で言い表すのはむずかしいくらい、好きですよ、と、そう伝えるつもりで口を開いたのに。
    「どのくらい、だなんて俺が自分で判断するのは難しいですよ。二人のこと、どちらも同じくらい素敵だと思ってるし可愛いと思ってるしかっこいいと思っています。あ、俺よりずっと年上だということはもちろん分かっていますけど、分かった上で可愛い、って思っていますよ。どんな服も着こなしていていつも見惚れちゃいますし、大人の姿もかっこよくて、でも子供の姿の時にも、傍にいて貰えると安心感があるし、だからどっちがどのくらい、とかじゃないんですよね……スノウがいれば安心、ともホワイトがいれば安心、とも感じるし、二人が揃っていると安心感が二倍です、し」
     おかしい、と思って口元を押さえたものの、時既に遅し。自分の口から出る言葉が自分のものではないみたいで、頭の中で反芻すればするほどに頬が熱くなっていく。なんだこれ。
    「わー! 嬉しい!」
    「どっちか選ぶとか、賢者ちゃんなら、ないかな~と思ったけど、これはこれで、じゃな!」
     きゃっきゃと手を叩いて喜ぶ双子に、失言はしていないらしい、と思うものの、確実に様子がおかしい。もちろん、俺の。
    「ど、どうして」
     おそるおそる声を出す。思い当たるのはもちろん今食べたばかりのローズクレープだ。でも、分量は間違えなかったはず。間違えていたら、他の魔法使いに影響があったはずだし、そもそも口にする前に誰かしら気付いたはず。あ、西の魔法使いだったら気付いてもそのまま食べてしまうかも…。そんなことを考えていたけど、二人はあっさりネタばらしをしてくれた。
    「賢者ちゃん、味見してたでしょ」
    「……あっ」
    「一皿分なら全く効果はないんだけどね~」
    「賢者ちゃん、結構しっかり味見してたからね~」
    「ああ……」
     言われてみれば当たり前のことだけど、どうして気付かなかったんだろう。一人分の容量にはあんなに気を付けたのに。でも、普段から料理が得意というわけでもないし、ネロの腕には及ばないにしても、魔法使い達においしくないものを食べさせたくないという気持ちでいっぱいで、そういえば味見の段階でとっくに一人分の量は口に入れていたかもしれない。
    「そういうところあるよね、賢者ちゃん」
    「まあ我らも分かってて止めなかったし」
    「「ごめんね?」」
    「……二人とも、顔が笑ってます……」
     謝っている割に嬉しそうな双子にもごもごと言いつつも、俺は立ち上がった。一度口にしてしまえば、勢いがついたみたいに言葉が漏れそうになって、ぎゅっと唇を引き結ぶ。おしゃべりなローズの効果は長くなかったはずだけれど、それでもこれ以上誰かに、特にヒースクリフに会ってしまう前に食堂を離れなければ。もう行っちゃうの~?と相変わらず楽しそうな二人を置いて、俺はひとまずお茶を口に流し込み、空のお皿を流しに下げに行く。これを片付けて、元々そうだったように部屋にこもって夕飯の時間まで書類仕事を片付けることにしよう。双子に言ってしまった言葉を反芻するに、友人相手であっても感じている”愛”の部分を正直に伝えてしまう、という効果のようだと身をもって知った。正直、恥ずかしくて仕方がないけど、これがヒースクリフだったらと思うと恥ずかしいだとかそういう問題ではない。だって、俺がヒースクリフに抱いている思いは友人に対しての情ではないから。友人に対して相手の好ましいと思っている部分を全て言ってしまうのと、片思いをしている友人に対して言ってしまうのでは全然わけが違う。前者も恥ずかしすぎて避けるにこしたことはないけれど、ヒースクリフだけは、
    「賢者様?」
    「わあ!」
     突然背後から聞こえてきた声に、思わず飛び上がった。振り返ればそこには、まさに今思い浮かべていたその人の姿があって、俺は咄嗟に口を押さえた。
    「な、な、んでしょう」
     ローズの効果に抗えているのか、意識して慎重に声を出すとどうにか普通の返事を口に出来たけど、正直喉元まで「好きです」が出かけてる。それなのに、ヒースクリフに話しかけられたのが嬉しくて、つい返してしまった。ヒースクリフは挙動不審な俺を不思議そうに見ながらも、花が綻ぶような尊い笑顔を俺に向けてくれる。
    「あの、ローズクレープ、おいしかったです。さっきもお伝えしたんですけど……賢者様、すごく真剣に作って下さったって双子先生に聞いて……改めてきちんと御礼が言いたくて」
    「そ、そんな、いえ、あの、わざわざいいのに、その……ありがとうございます……す、んんん」
    「?」
     気を抜くと本当にまずい。俺は誤魔化すように咳払いをして、それじゃあ俺はこのへんで、とヒースクリフの横をすり抜けようとした、が、しっかりと腕を掴まれて、それはかなわなかった。見れば、さっきまでの笑顔が消えて、うっすらと翳ってすらいる表情で、ヒースクリフは真っ直ぐに俺を見つめていた。そんな顔も綺麗だ、と思ってしまって慌てて目を逸らす。
    「賢者様、俺、何かしましたか……?」
    「えっ、なん、」
    「さっきから、目が合わないので……」
     それはあなたの目をしっかりと見たら絶対にその美しさについて言及した後告白してしまいそうだからです、とは言えない。
    「い、まは無理なんです……ヒースクリフの、こと、っ、見られないので」
     言ってから、いやこんな傷つけるような言い方よくない、と思うものの、限界だった。
    「あ、あとで、後で話しますから、今は勘弁してください」
     目を逸らしたまま、そう言うのが精いっぱいだ。けれど、今日に限ってヒースクリフは譲ってくれなかった。
    「いやです」
    「え?」
     反射的に、声の方へ顔を向けてしまう。本当に、宝石みたいに綺麗で、けれどしっかりと意志を感じさせるような強い眼差しが俺を射抜くようだった。
    「後回しにして、後悔したくありません。賢者様、俺が何か、賢者様を傷つけるようなことをしてしまっていて、それに俺自身が気付いていないのなら、教えて欲しいんです。身勝手なのは分かっています。でも、俺は賢者様に、その、嫌われたくない、ので」
    「嫌いになったりしません!」
     思わず大きめの声を出してしまって、それで、びっくりしたように怯んだヒースクリフの顔を正面から見据えて、それでもう、だめだった。
    「だ、だって、ヒースクリフのことが、大好きですから……! きっと、俺……!」
     一目惚れだったと思うんです、と続けてしまって、そこからはもう、言葉が後から後から溢れてくるのを止められず――


    ***


    「……」
    「……」

     そうして、今に至るのだった。
     俺が息切れしたから、というわけでも、ヒースクリフに止められたから、というわけでもなく、単純にローズの効果が切れたのだろう。意識しなくても言葉が溢れてしまう、ということはなかったけれど、もう少し早く効果が切れていれば、と思わずにはいられない。
    「……おしゃべりなローズ」
    「あ、ああ……あれ? でも、俺達はなんとも……」
    「味見で……食べすぎて……」
    「なるほど……」
     伝えた言葉は最低限だったものの、ヒースクリフはそれで理解してくれたようだった。思えば、「おしゃべりなローズ」とだけ言えば事情は全部伝わったかもしれないのに、本当に色々と手遅れだ。
    「忘れて下さい……」
     掠れた声でそう言うのが精いっぱいだった。さっきとは別の意味で、ヒースクリフの顔を真っ直ぐに見られない。
    「……わ、忘れません」
    「そこを、なんとか……」
    「いやです」
     今度も、ヒースクリフは頑なだった。たまに、そういう頑固な部分を見ると、なんだか微笑ましい気持ちになってしまうけれど、今はそうなっている場合ではない。泣きそうだけど、そもそもヒースクリフが手を離してくれないので部屋にも帰れない。
    「……賢者様、ローズの効果は、もう……?」
    「はい、多分……すみません、へんなこと言って……」
    「へん、なんかじゃ、ないです! あの、」
     ヒースクリフの言葉が途切れる。顔を上げてちらりと見ると、真っ赤になったままの顔で、やっぱり俺を真っ直ぐに見つめていた。
    「さっきの言葉、ローズの効果抜きで、もう一度、聞きたいです」
    「……えっ」
     気付けば、俺の腕を掴むヒースの手はじんわりと熱い。
    「そうしたら、俺も、賢者様の、……あなたのどこが好きか、伝えます。……あっ、ずるい、ですか?」
     眉尻を下げて、困ったように笑うヒースクリフにそんな風に言われて、俺はまた、思わず大きめの声を出してしまったのだった。




    おしまい 
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖🙏💖💖💘💒❤👏😭😍💖💕💒💗🙏💴💖💖💖💖💖💖👏👏👏👏👏👏☺☺💖💖💖👏👏👏😍😍💘💘💘💖🙏🙏😍🙏💘💘💖💖💖💒💒💒💒💒💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ(男審神者×小竜)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    小竜視点で自分の代わりだと言われてずっと考えてくれるのは嬉しいけどやっぱり自分がいい小竜
    「ね、みてこれ! 小竜のが出たんだよー」
    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
    「は……初めて小竜からしてくれた!」
    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    極になって柔らかくなった大倶利伽羅に宣戦布告する片想いしてる主
    ポーカーフェイスの君にキスをしよう


    「大倶利伽羅」

    ひとつ呼ぶ。それだけで君は振り向いて、こちらを見てくれる。
    それだけでどうしようもなく締め付けられる胸が煩わしくて、ずたずたに切り裂かれてしまえとも思う。

    「なんだ」

    いつもと変わらぬ表情で、そよ風のように耳馴染みの良い声がこたえる。初めて顔を合わせた時より幾分も優しい声音に勘違いをしそうになる。
    真っ直ぐ見つめる君に純真な心で対面できなくなったのはいつからだったっけ、と考えてはやめてを繰り返す。
    君はこちらのことをなんとも思っていないのだろう。一人で勝手に出て行こうとした時は愛想を尽かされたか、それとも気づかれたのかと膝から力が抜け落ちそうになったが、4日後に帰ってきた姿に安堵した。
    だから、審神者としては認めてくれているのだろう。
    年々距離が縮まっているんじゃないかと錯覚させるような台詞をくれる彼が、とうとう跪座までして挨拶をくれた。泣くかと思った。
    自分はそれに、頼りにしていると答えた。模範的な返しだろう。私情を挟まないように、審神者であることを心がけて生きてきた。

    だけど、やっぱり俺は人間で。
    生きている限り希望や 1288

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    菊酒をのんで酔い潰れた後日、大倶利伽羅が好きだなぁと自覚しなおした審神者と日を改めて飲み直し、仲良し()するまで。
    月色、金色、蜂蜜色


    急に熱さが和らいで、秋らしい涼やかな風が吹く。
    空には満月が浮かんで明るい夜だ。
    今は大倶利伽羅とふたり、自室の縁側で並んで酒をちびちびとなめている。徳利は一本しか用意しなかった。
    「あまり飲みすぎるなよ」
    「わかってるよ、昨日は運ばせて悪かったって」
    「あんたひとりを運ぶのは何でもないし、謝られるいわれもない」
    「じゃあなんだよ……」
    「昨日は生殺しだったんでね」
    言葉終わりに煽った酒を吹き出すかと思った。大倶利伽羅は気を付けろなんて言いながら徳利の酒を注いでくる。それを奪い取って大倶利伽羅の空いた杯にも酒を満たす。
    「……だから今日誘ったんだ」
    「しってる」
    静かな返答に頭をかいた。顔が熱い。
    以前に忙しいからと大倶利伽羅が望むのを遮って喧嘩紛いのことをした。それから時間が取れるようになったらと約束もしたがなかなか忙しが緩まずに秋になってしまった。
    だいぶ待たせてしまったとは思う。俺だってその間なにも感じなかったわけじゃないが、無理くり休暇を捻じ込むのも身体目的みたいで躊躇われた。
    そして昨日の、重陽の節句にと大倶利伽羅が作ってくれた酒が嬉しくて酔い潰れてし 1657

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    たまには大倶利伽羅と遊ぼうと思ったら返り討ちにあう主
    とりっくおあとりーと


    今日はハロウィンだ。いつのまにか現世の知識をつけた刀たちによって朝から賑やかで飾り付けやら甘い匂いやらが本丸中にちらばっていた。
    いつもよりちょっと豪華な夕飯も終えて、たまには大倶利伽羅と遊ぶのもいいかと思ってあいつの部屋に行くと文机に向かっている黒い背中があった。
    「と、トリックオアトリート!菓子くれなきゃいたずらするぞ」
    「……あんたもはしゃぐことがあるんだな」
    「真面目に返すのやめてくれよ……」
    振り返った大倶利伽羅はいつもの穏やかな顔だった。出鼻を挫かれがっくりと膝をついてしまう。
    「それで、菓子はいるのか」
    「え? ああ、あるならそれもらってもいいか」
    「……そうしたらあんたはどうするんだ」
    「うーん、部屋戻るかお前が許してくれるなら少し話していこうかと思ってるけど」
    ちょっとだけ不服そうな顔をした大倶利伽羅は文机に向き直るとがさがさと音を立てて包みを取り出した。
    「お、クッキーか。小豆とか燭台切とか大量に作ってたな」
    「そうだな」
    そう言いながらリボンを解いてオレンジ色の一枚を取り出す。俺がもらったやつと同じならジャックオランタンのクッキーだ。
    877

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    赤疲労になった大倶利伽羅が限界をむかえて主に甘えてキスをねだる話
    お疲れ様のキス

    隊長を任せた大倶利伽羅に後ろから抱きつかれた。報告を聞いて端末に向き直ったら部屋を出て行くもんだと思っていた大倶利伽羅が背後にまわってそのまま座り込み腕が腹に回され今までにない行動にどうすればいいかとっさに判断が出来なかった。
    というかこれ甘えに来てるのか?もしそうならこっちが動いたらさっと離れていくやつか…?
    そう考えが巡って動けずにいると長いため息が聞こえてきた。
    滅多にない疲労をみせる様子に端末を操作すれば、ばっちり赤いマークが付いてた。
    古参になる大倶利伽羅には新入りの打刀たちに戦い方、とくに投石や脇差との連携を指導してもらっている。もとが太刀で刀種変更があってから戦い方を変えざるを得なかった大倶利伽羅だからこそ、言葉は少ないがつまづいた時に欲しい言葉をくれるから上達が早いらしい。
    だからつい大倶利伽羅に新人教育を頼んでしまうことが多かった。それがとうとう限界が来たのかもしれない。管理ができてない自分が情けないが反省は後でするとして、今は珍しく自分から甘えにきた恋びとを労うのが先だろう。
    「大倶利伽羅、ちょっと離してくれ」
    「…………」
    腹に回った腕をぽんぽん 1542