The Day of Crossing Boundaries「降谷ちゃん」
寝ぼけ眼を擦りながら歩いていた先に、まっすぐな背中を見つけた。自然と口から出ていた名前に、ぴたりとその後ろ姿が動きを止める。
「……おはよう、萩」
くるり。振り返るのに合わせて金糸が揺れた。
こちらの姿を見とがめて、やわらかく青灰色が弧を描くのに、ぼんやりとした頭が目覚めていく。かわいい。
「はよ。つーかどしたの、まじで早くない?」
まぁそんなの思ってたって言わないけど、とへらりと笑う。ほんの数歩で追いつく距離は、近くて遠い、境界線。
時刻はまだ、六時を少し回ったところ。いくつもの部屋が立ち並ぶ廊下の扉は、どれもきっちり閉められている。
「うん、起きたから」
質問の答えとしてはいささかズレている気がするけども、降谷の中では同じ話なのだろう。萩原はふぅん、と頷いて隣へと並ぶ。
2256