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    kemeko_hina

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    kemeko_hina

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    萩降って絶対こういうのじゃないと思う(断言)
    もったいない精神で供養します…こんなかっこよくないはぎわわいる?いねーよなー!!

    #萩降

    The Day of Crossing Boundaries「降谷ちゃん」

     寝ぼけ眼を擦りながら歩いていた先に、まっすぐな背中を見つけた。自然と口から出ていた名前に、ぴたりとその後ろ姿が動きを止める。
    「……おはよう、萩」
     くるり。振り返るのに合わせて金糸が揺れた。
     こちらの姿を見とがめて、やわらかく青灰色が弧を描くのに、ぼんやりとした頭が目覚めていく。かわいい。
    「はよ。つーかどしたの、まじで早くない?」
     まぁそんなの思ってたって言わないけど、とへらりと笑う。ほんの数歩で追いつく距離は、近くて遠い、境界線。
     時刻はまだ、六時を少し回ったところ。いくつもの部屋が立ち並ぶ廊下の扉は、どれもきっちり閉められている。
    「うん、起きたから」
     質問の答えとしてはいささかズレている気がするけども、降谷の中では同じ話なのだろう。萩原はふぅん、と頷いて隣へと並ぶ。
     ふと、窓ガラスに映る自分の、跳ねた襟足が少し気になった。六月に入ったばかりだが、肌の上にまとわりつくような湿気のせいで毛先が落ち着かない。
    「……萩こそ、」
     そんなことに気を取られて、一瞬反応が遅れた。
    「え?」
     ぱちりと目をまるくした萩原に、なぜか降谷のほうが驚いたようだった。なにかを紡ごうとしていた唇が、中途半端に開かれたままになっている。
    「あ、ごめんごめん、なに?」
    「いや……萩こそ、早いなって」
    「……あぁ、俺?うん、まぁ、野暮用よ」
     なんだかいたたまれないなぁ、と思いながら、襟足を撫で付けた。
     降谷がわざわざ話しかけてくるとは思っていなかった、というと語弊があるだろうか。見た目の派手さよりはずいぶんととっつきにくいやつだけれど、実際はまったく無口でもない。それどころか、どこから仕入れたんだかわからない蘊蓄を滔々と語りだしたりすることも珍しくはない。
     ただなんとなく、自分に対してはそうじゃないと思っていた、というだけなのだけど。
    「野暮用……?」
     オウム返しに繰り返した降谷が、胡乱げな瞳を向けてくる。 
    「……なんかろくでもないことじゃないだろうな?」
    「ふは、なーに、そのろくでもないことって」
    「……それは」
     途端、泳ぐ視線に苦笑いした。いったいなにを考えてんだかなぁ、だいたい想像はつくけど。
    「ねー、なぁに?」
     少し低い位置にある顔を覗き込む。底意地が悪いんだよ、と幼馴染からはよく言われるけれど、こういうところなんだろうと自覚はしている。でもさ、しかたないじゃん。
     気まずそうに引き結ばれた唇とか、ほんの少し朱に染まったまるい頬だとか、そんなの、つつきたくなるに決まってる。
    「……別に、」
    「へぇ?……降谷ちゃんのえっち〜」
    「は、だ、だれが……」
    「うん、てかあれだよね降谷って普通にムッツリぽい」
    「っだから、誰が……!!」
    「おっと、」
     今にも噛み付いてきそうな降谷の眼前に、人差し指を立てる。勢いあまって指先が唇に触れてしまうけれど、これはノーカウントにしてほしいな、と思った。
    「……みんな起こしたらかわいそうでしょ?」
     根っから馬鹿がつくほど生真面目な降谷は、はっとしたようにあたりを見回すと、どこの扉も開かないことに安堵したようだった。それからまた、萩原に向けて渋面を作る。
    「……あのなぁ、」
    「ごめんって」
     眉間にしっかりと刻まれた皺とは裏腹に、その頬はまだほんのり色づいている。それが羞恥なのか怒りによるものか、はたまたそれ以外か、なぜかこのときは知りたくなってしまった。目に見えない、ぎりぎりの境界線が滲む。
     表面ではわかりづらい心の内を探るように、青灰色の瞳を覗いた。光があたるとまるで春の空みたいに淡くて、虹彩がきらきら、波のように揺らめく。
    「……はぎ?」
     戸惑ったような声と一緒に、虹彩がきゅう、と縮まった。ほんの少し色濃くなった青色に、流れ込んだ感情が映り込む。それは、萩原の知るなにかに似ていて、それでいてどこか違うもの。
    「萩、ちょっと……!」
     肩を押されて、青が急激に遠のく。後ろに二、三歩下がったところで、そういえば見た目の数倍は筋肉の塊だったと思い出した。
    「いったぁ、え、どったの降谷ちゃん」
    「どうしたのはこっちの台詞だ……なに、してるんだ?」
    「なにって……観察?確認?」
    「はぁ?僕は珍獣じゃないぞ」
    「はは、なにそれうけんね」
    「全っ然……」
     ため息をついた降谷の顔には、呆れの色がはっきりと浮かんでいる。けれどその中に混ざる隠しきれない青に、さてどうしたもんかなぁ、と萩原は内心で独りごちた。
    「……で、」
    「うん?」
    「なんだ、野暮用って」
    「あれ、そんな気にしてたの」
     珍しい、と言外に問えば、降谷は困ったような拗ねたような、おそらく自分でもよくわかってないであろう顔をふい、と背けた。
    「……そういうわけじゃ」
    「へーぇ?」
    「そういうわけじゃ、ないけど……」
     小さくなっていく語尾に、やっぱり底意地の悪い自分が顔を出してしまいそうになる。これ、俺が悪いんじゃないよな、だって。
    「かわいいんだもんなぁ、降谷ちゃん」
    「…………は、」
    「あ、声に出ちゃった」
     まぁ、もういいかな。
     へらりといつもの笑みを浮かべた先に、零れ落ちそうなほど開かれたまんまるの瞳と、疑いようのないくらいあかい頬。
     触れるにはまだ遠い距離の、境界線を引き直す。 

     
     









    ※結局萩原の野暮用ってなんなんだ(考えてたけど使いませんでした\(^o^)/)

     
     
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