運命の赤い糸④蒼山 ーblueー
指に結ばれた赤い糸を見つけようと家を出ると、その先には映画研究会の部室があった。
ゆっくりとその扉を開ければ、室内には修平の姿があった。
「おはよう、修平」
「瞭?今日は来る予定はなかっただろう。……何かあったのか?」
第一声で俺のことを心配する様子に、顔が見たかったと伝えて一緒に動画の編集作業を手伝うことにした。本当の目的だった赤い糸は、俺と同じように修平の小指に結ばれおり、それについて何も言ってこないということはきっと修平にはこの糸が見えてないのだろう。
しばらくの間そのことを伝えずにいたが、ふとした拍子にその正体に気がつく。
「もしかして……」
小指と小指に繋げられた『運命の赤い糸』なのではないかと。
「どうかしたのか?」
「な、なんでも……」
返事をしようとした言葉が、詰まってしまう。もしも本当にこれがその”赤い糸”なら、俺と修平との関係は、陸と出逢い別れたことも、恋人になったことも、全て予め生まれてから決まっていたことだったということになる。
そのためにあんなに悲しい思いをさせられたというのなら、これほど酷い話はない。
この糸が繋がっていなければ、もしかしたら陸は死ぬことがなかったのではないだろうか。
「なぁ、修平。……運命って信じるか?」
思わずそう言って修平に問いかけた。事情も何も知らないまま、質問された修平は、少しだけ考えた後であっさりとその答えを口にした。
「そうだな、あまり信じてはいない。確かにそういった巡りあわせもあると思うが、それにどう行動して、何を選択するかは俺の意思だろう」
「…っ」
「どんな運命だって、その先の未来は選べる。何を捨てて何を得ようとするのかは俺が決めることだ」
誰にも、誰かを思う人の心を干渉できない。
だから修平を好きだと思うこの気持ちも、大切に想ってきた心は俺のだけのものだ。
「…っ、修平!」
そのことに気づいた瞬間、思わず後ろから修平に抱き着いていた。重ね合わせた身体から伝わってくる修平の体温と匂いに、少し前に修平の背に乗せられた時のことを思い出してしまう。
「瞭、この赤い糸は…?」
すると、俺がに触れたことで繋がっていた糸が修平にも見えるようになったらしい。不思議そうにこちらを振り向くのを静かに笑って返した。
「―――俺と修平の、運命の赤い糸だよ」