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    aya.t

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    aya.t

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    ツイッターにあげたお話です。 塩村さんが投げて下さったボールに飛び付いたやつ。最初投げられた時は無理かなと思ったんですが、出来る範囲で頑張りました😆

    シロツメクサのお姫様遅れて入った第九の飲み会。 立場の乖離もジェネレーションギャップも更に大きくなった今、相変わらず飲み会に顔を出す事はあまりしないが こいつらとはそれを痛感する事もない。
    今日は全国の管区室長 つまりあの頃の第九メンバーが一同に会した飲み会。
    抜けられない打ち合わせの為に遅れて僕が入った時には もうかなり皆出来上がっていた。
    久しぶりに顔を合わせてよほど嬉しいのか、肩を小突きあったり大口開けて笑ってたり。
    岡部が僕に気付いて空けていた上座を指し示す。
    小池と曽我に挟まれて赤い顔でトロンとした目をしてる青木。 僕が入ってきたのにも気付いてないなんて どこの世界に行っちゃってるやら。心ここにあらず。 
    ‥あいつ余計な事言ってないだろうな? 僕がいないと思って。

    それとなく岡部に探りを入れる。
    「随分と楽しそうだな。もうあいつらできあがってるのか。 曽我と小池の誘導尋問に乗せられてアイツはさぞかし気持ちよくある事ない事吐いたんだろうな」

    僕のご機嫌が微妙に悪化しかけているのを察知して岡部が慌ててフォローに入る。
    「ヤ 薪さん なんも! 薪さんがお困りになるような事はなんも俺達聞いてませんから!」
    (僕が困る事って何だよ。言ってみて?)と思いながら軽く視線で脅しをかける。

    「本当に! 薪さんと青木がどうしたとかこうしたとか 本当に聞いてませんから!」
    岡部も割と飲んでるのかもしれない。墓穴を綺麗に掘っていく。
    「ふーん‥」
    視線に殺気を少し足してみる。

    「本当ですったら! 青木の初恋の話になって」
    慌てた岡部はその言葉による僕の変化には気付かなかった。 殺気と脅しに一匙の興味と動揺が加わる。

    「あいつの初恋 三歳の時ですって。マセガキですねー。それが笑っちゃう位浮世離れしていて。 公園でお姫様に会ったって言うんですよ。緑の中 シロツメクサを編んで指に嵌めてくれた白いふわふわのドレスを着た綺麗な優しいお姫様。白い綺麗な日傘を差して現れて あっという間にシロツメクサで指輪を編んであいつの左手の薬指に嵌めてくれたって。 あいつ夢でも見てたんじゃないですかねー。 そのお姫様がもう綺麗だったって。ずっと忘れられなくて今でも夢に見るって」
    「ふーん」
    わかりやすく機嫌を損ねた僕にやっと岡部が気付いて慌てる。
    「や、薪さん。 三歳のガキの夢だか本当だかわからない初恋ですから!」
    何 慌ててるんだ。 僕がそんなの気にするとでも? 
    ふーん。今でも夢に見るんだ。ふーん‥。
    シロツメクサの指輪くらい僕でも作れる。 そう言えば昔 作ってあげた事があったな‥。まさかね。だってあれは東京の街中の公園だったし。あいつは生まれも育ちも九州だから。 まさかね。
    世の中 似たような話は案外あるもんだ。

    なんやかんやと飲み会は楽しかった。僕の登場に盛り上がってそこから更にペースはあがり、飲んで笑って‥。
    僕らは盆暮正月に久しぶりに会った家族のように 尽きぬ話に盛り上がりゲラゲラ笑い合った。

    お開きになって岡部が拾ってくれたタクシーに乗り込んで帰り着いた部屋。
    眠りに落ちる直前に 今夜の青木の夢に出てくるのはシロツメクサのお姫様かなと思ったらムカムカしてきた。 ‥飲み過ぎたかな。


    翌朝、「うわっ!」という素っ頓狂な大声で目が覚めた。

    なんだよ。‥全く。 もう少し寝かせておいてくれ‥と思う間もなくドタドタと寝室に入ってくる大男。 もう一度眠りに入らせてくれる気はないらしい。
    手には額装されていない一枚のキャンバスを抱えていた。

    「薪さん これ。 ‥薪さん? 薪さんですよね!」

    しばらく見ていなかった絵。確かにモデルは僕。っていうか額装していない絵はそれだけだから何の絵かはすぐにわかった。

    「いや それは理由があってだな」

    そう 中学の美術の時間。変わり者の芸術家肌の専任講師は 美術専攻でもない普通の授業に油絵を生徒に描かせる事にし、僕がそのモデルをやった というかさせられたんだ!
    本当は先生の知り合いのプロのモデルを頼んでいたのに。当日体調を崩したモデル。 モデル用に用意されていた衣装が入るのが僕しかいなかったんだ! フリッフリの白いドレス 白いパラソル。全くどんな趣味だよ‥。 まぁ 男子校の生徒の夢だったんだろう‥。 僕は絵を描く代わりにモデルを務め 緑の公園の中 クラスメイト達の前でお淑やかに本を読む深窓の令嬢ポーズを撮り続けた。 あ でも その時読んでた本 めちゃくちゃ面白かったんだよな。 授業中堂々と好きな本を読めて それはそれで良かった。

    で、生徒だけでなく その変わり者の美術教師もその時の絵を描いたんだ。
    その作品は二科展を通った。 
    卒業する時に渡されたその作品の中で 僕は本を読んではいない。 休憩時間の僕の一コマを美術教師が切り取った作品。

    休憩時間 日陰に移動して本の続きを読もうとしていた僕。 ちょうどいい木陰で泣いていた小さな男の子。

    「上手く編めないの」
    シロツメクサを手にベソかいてる姿が可愛かった。 本の続きが気になっていた僕は難なく編んで泣き止ませた。花冠だとちょっと時間食うから指輪にした。出来上がった指輪を 目測してちょうど良さそうな指に嵌めてやった。
    「ほら、もう泣くな。」
    びっくりまなこで目を見開いた男の子は もう泣いていなかった。 
    指に嵌めてやったら バァーっとお日様みたいな笑顔が広がって 泣き止んだ事も笑ってくれた事も嬉しかったのを覚えている。

    休憩時間の終わりを告げにきた美術教師はその瞬間を切り取った。

    僕の記憶では、男の子の指に指輪を嵌め その笑顔に嬉しそうに笑う僕。 の筈だったけど 何故か絵は 微笑みながら男の子の指にシロツメクサの指輪を嵌める美少女とびっくりまなこのガキンチョ。

    貰ったはいいけど これ額装して飾る程ナルシストじゃないし、かと言って二科展通った作品貰っといて処分するわけにもいかないし。 
    引越しの度に持って行く物から外れる事はなく でも飾られる事も無かった絵。

    「ところで 何でそんなの持ってるんだ?」

    「いや。引越し荷物 少しでも整理しようとしてて」

    僕が寝ている間に働く青木。うん。聞いた事がある。夫婦は最初が肝心。最初に甘やかすと駄目だって。 なかなかいい感じだ。

    「薪さん! これ 俺の初恋! これ俺です!! 薪さんがシロツメクサのお姫様だった!」
    青木は僕に絵を渡すと バタバタと部屋を出て行った。
    渡された絵を見る。しばらく いや ずっと見ていなかった絵。
    そこに幼い青木がいた‥。
    ああ 本当に 青木だ。
    僕を見上げるびっくりまなこ。

    バタバタと青木が戻ってくる。
    優雅という言葉とは無縁だな。おまえ。

    差し出されたのはラミネート加工された一枚。 シロツメクサの花冠と指輪。

    「俺ね。あの親戚の家に泊まりがけで行っていたあの滞在期間、ずっと毎日 あの公園に連れて行ってもらってたんです。 ネズミーランドよりもネコランドよりもあんパンミュージアムよりもあの公園に行きたいって言い張って。三歳の俺の心を鷲掴みにしたものがそこにあったから。」

    岡部の言っていたマセガキの初恋。 青木が今でも夢に見るシロツメクサのお姫様。 
    昨夜 青木の夢にシロツメクサのお姫様は現れたんだろうか。 現れてたらいいな。

    いつのまにか抱きしめられていた。

    「あの日からずっとあなたにはめたいと思っていました。」
    「大きくなったな‥」

    2人の台詞が重なり微妙な空気が流れる。

    「は ハメたいって! マセガキにも程があるだろ!」
    「薪さんこそ 大きくなったって‥。そりゃ ちょっと反応しちゃってますけど‥」
    「馬鹿か! おまえは〜! せっかく僕がしんみりと!」
    バキっと殴った。

    「じゃなくてですね。俺の初恋掻っ攫っていったお姫様の指にシロツメクサの指輪を。 はめてもらったようにはめたくて 毎日通って作って。最後の日に作ったのは持って帰って押し花にして。 ずっと思ってました。福岡帰ってからも。それからもずっと‥」

    押し花になった指輪。

    「はめられないな」
    小さな青木が作って今まで持っていた指輪。 残念だけどはめられない。

    「それでは こっちを」

    ポケットから出された小さな箱。パカンと開けて取り出したシンプルな指輪を僕の左手の薬指にはめる。

    「‥やっとはめられた。 薪さん 俺嬉しいです。 俺の初恋も今の恋も全部あなたに捧げられて。」

    ぎゅっと抱きしめられて目を瞑る。
    三歳の青木にエンゲージリング嵌めた僕。
    目を瞑ってあの日のお日様みたいに僕に降ってくる接吻を待つ。

    大きくなったな‥。
    (おわり)

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