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    kemeko_hina

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    kemeko_hina

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    前に書いた降萩の続きのはずが間が空きすぎてもはや続いてんのかわからなくなった\(^o^)/あまりにも終わらないので途中まで……ひたすら悩めるはぎわわとなぜかふるやよりも出番多い疑惑のまつだ←

    #降萩
    descendingHagi

    Maybe it must be. 友情と恋愛の境界線ってどこなんだろう。
     異性間での友情は存在する派だし、でもそれがある日突然恋になったって何ら疑問はないし、そもそも、線引きする必要すらないんじゃないだろうか。だって名前がどうであったって、それはもう愛じゃん?
    「っていう話をさぁ、千速にしたらあいつ何て言ったと思う?『お前、いつからそんな馬鹿になったんだ』だってさ。ひどくねぇ?そもそも千速のほうから聞いてきたってのに」
    「はぁ……」
     じゅうじゅうと音をたてて油を滴らせるハラミをトングでひっくり返しながら、降谷が曖昧な返事をした。
     どうにも焼肉とか似合わないんだよなぁこいつ、と思いながらも、萩原はぽんぽん目の前の小皿に置かれていく肉の山から、ひと切れふた切れを降谷へ返していく。
    「俺にばっか焼いてないでお前も食えよー」
    「うん」
    「降谷ってタレ派だっけ?レモン?」
    「うーん……塩かな」
    「あー、わかるそんな顔だわ」
    「はぁ……」
     怪訝そうな降谷の顔が白煙に烟る。排煙設備のきっちりしたイマドキの綺麗な焼肉屋じゃなくて、よくて趣のある、どちらかといえば小汚いという表現がしっくりくるのだけど、萩原にとってはこれくらいのほうがちょうどよかったりする。
     壁に貼られた癖のある手書きのメニューも、しょっちゅう焼き方にアドバイスをしてくるおせっかいな店主のおばさんも、愛すべきものの範疇だ。
     女の子とは行けないけど、野郎ふたりならちょうどいい。ましてそれが気のおけない仲ならなおさら。
     微妙な距離感をほんの少し後ろめたく感じたまま、なんとなく居心地のいいところに収まってしまったものだから、萩原としては次の一手を決めかねているのが実情だ。
     以前数ヶ月前会わなかったのが嘘みたいに、とはいっても前触れがないのは相変わらずだけれども、降谷は月に一度か二度、ふらっと萩原の前に現れるようになった。
     時間も曜日も法則性はない。出勤の合間に松田を交えてほんの数分立ち話をするだけのこともあれば、休日の昼間から街でばったり出くわすこともある。これについてはもう萩原も深くは考えないことにした。これでも警察官の端くれなので、薮の蛇はつつかないに限る。
     今日のように、夜ふたりで食事といいつつ、結局その延長でだらだら過ごすのも、なんだかんだ珍しくなくなってきたところだ。警察学校時代の自分からすれば、たぶん、信じられないくらいには降谷と時間を過ごしていると思う。
    「なぁ、萩。さっきの話だけど」
    「ん、あ、ちょっと待って」
    「?」
    「お姉さーん、網替えて〜」
     はいよー、と威勢のいい声が店の奥から聞こえると、待つ暇もなく、素早く新しい網とトングを持ってきた店主のおばさんが、焦げついてところどころ黒くなったそれと交換してくれる。
    「ありがと、お姉さん」
    「やだわぁもう。こんなおばさんにお姉さんだなんて」
    「そう?俺からしたらお姉さんに見えるけど」
    「まったく上手なんだから……それにしても、今日はまたきれいな子連れてきたわね~」
     感嘆のため息をつきながら、おばさんがちらりと降谷のほうを見る。視線を受けた降谷はほんの少し戸惑ったようにも見えたが、ややあってにこりと微笑んだ。
    「あらやだ、ほんとに王子様みたいだわぁ〜!こないだの子も元気でかわいかったし、萩原くんたらイケメンばっかり連れてくるんだから困っちゃう」
    「えぇー?やだな、俺がいちばんでしょ?」
     ぱちり、と片目をつむってみせる。松田がいればかっこつけだのキザったらしいだの散々に言われるに違いないが、おばさんはおかしそうにからからと笑った。
    「調子いいわねぇ。今日は飲まないの?サービスするわよ」
    「うっそお姉さんだいすき〜!でも明日も仕事だから今日はやめとく!次来たときお願い〜」
    「あら、残念。じゃあまた今度ね、あ、そっちのお兄さんの分も」
     笑いながら去っていくおばさんにひらひらと手を振る。小柄で愛嬌のある彼女は、年齢など関係なしにかわいらしい。
    「で、なんでそんな目で見てるのかなぁ降谷くんは」
     先ほどから気づいてはいた。話している途中で降谷の視線がうるさいことには。目は口ほどにじゃないけれど、そういえばずっと前から、その瞳のほうがよほどわかりやすいやつだと、他でもない萩原がよく知っている。
    「……別に?」
     ふいと背けられたフォグブルーに、おや、と萩原は目を丸くした。なんだろう。なんか違和感があるような。
    「せっかく替えてもらったんだ。残りも焼こうか」
    「あー、うん、そうね……?」
     長いまつげの奥の色がよく見えなくて、萩原はなぜだか急に働かなくなったような頭を無駄にひねってみる。
    「あのさ、萩」
    「うん?あぁ、さっき話途中だったよな。悪い、なんだって?」
    「……いや、それはもういいんだ」
    「え?いいの?」
    「うん。わかったから」
     なにが、と言いかけた口に、焼けたばかりのカルビを突っ込まれる。さりげなく熱すぎない温度に調節されているのが、なんとも負けた気になる。いや、普通に美味いけど。
    「……しばらく忙しくなりそうなんだ」
    「んん……あぁ、そうなの?」
     咀嚼した肉をウーロン茶で飲み下して、喉を通るそれに、ふと既視感があった。結局、記憶の中で何とも結びつかずにほどけてしまったそれが、口内でざらりと溶ける。
    「あぁ、だから、えーと、」
     珍しく言い淀んだ降谷は言葉に迷っているようだった。なにかの音を形どろうとして失敗したみたいな、もにゃっとした語尾が滲む。
    「しばらくてどんくらい?」
    「うーん、二週間……?いや、三週間……ひと月くらい、かな……」
    「ふは、なんだそれ」
     つまりは降谷にも目処がたっていないんだろう。それでも、できるだけ具体的に伝える努力はしてくれたらしい。
    「ん、じゃあまた落ち着いたらにすっかー」
    「え?」
    「今度ここきたらビール飲まなきゃだろ。次におまえと来るまでとっといてやるよ」
     別になにも急ぐこともないし、と空になったウーロン茶のグラスを揺らすと、降谷の瞳がゆるりと細められた。
    「……うん、ありがとう」
    「どーいたしまして。なぁ、冷麺食っていい?」
    「お好きにどうぞ」
    「おっけー、お姉さん冷麺ふたつ〜」
    「いや、そうじゃな……」
    「はいよ〜!」
     かき消された否定の声に、降谷がまた渋面をつくる。普段は強気なくせして変なところで押しが弱いのだ。


     宣言通りと言うべきか、それからしばらく降谷が萩原の前に姿を現すことはなかった。それが何日だとか数えはしていないけれど、なんとなく変な感じだなぁ、とは思う。そんなことをぽつりと幼馴染兼同僚に漏らせば。
    「あっそ」
     という、にべもない相槌が返ってきた。
    「つめてーなぁ」
    「あん?返事してるだけありがてぇと思えよ」
    「えぇー」
     まじかぁ、と萩原がため息をつくと、松田はなにか言いたげな眼差しを向けた。無言のまま点けられた煙草の先からは、ほんの少しの躊躇いが感じられる。
     直情型で歯に衣着せぬ言い方がテンプレートの松田にしてはずいぶん慎重だと思ったが、彼なりに気遣ってるつもりなのがいじらしいというかなんというか。
    「やさしーね、じんぺーちゃん」
    「あ?……わかってンのかよ」
    「わかんないわけないでしょー、自分のことよ?つってもま、だいぶ微妙なトコだけどな」
     このぬるま湯みたいな友愛と熱情の隙間に揺蕩う心地よさを手放してしまえば、その先の道はふたつしかない。それを惜しく思うのに、手を取り切れない自分はなんて傲慢で残酷なんだろう。
    「どうすっかなぁ」
    「知らね」
    「目的語くらい聞いてくんない?」
    「聞くまでもねーだろ」
    「はー、友達甲斐がありすぎておにいさん泣いちゃいそう」
     萩原は笑って、指先に挟んだ紙巻の端へ火を点けた。肺の奥まで吸い込んだ煙をまた吐き出す。飽きるほど繰り返したこの行為が、最近ほんの少しだけ減った理由なんてとっくに知っている。
     他人の嗜好に口を出すのはいかがなものかと自重していながらも、複雑そうにじっと見つめてくる青灰の瞳。ふとそれを思い出すたびに、もう習慣になった箱に伸びる手が何回かに一度は止まるようになってしまった。
     あんな目で見るくらいならはっきり言えばいいのにと思うけど、それこそが今の不透明な距離感を表しているようで。結局、どうしたって選択は萩原に委ねられているのだ。
     受け入れるだけなら、きっと容易い。これまでだってずっとそうしてきたのだ。来る者拒まず、なんてしょっちゅう揶揄されるけどなにが悪い。好意を告げられればそりゃうれしいし、かわいいと思うし、それなりに愛していたと思う。けれど始まりも終わりも、萩原はただひとこと返すだけでよかったのだ。『いいよ』と、ただそれだけ。
    だから、降谷にも最初からそう言えばよかったのかもしれない。そうしたら、これまでと同じようにいられたのだろうか。
    「なぁんて、」
     たらればで語るなんてらしくない。最初から悩んでるのはどうせ萩原だけなのだ。別に今さら、あと少しくらい待たせたっていいような気すらしてくる。うん、たぶんそう。
    「アイツもクソ物好きだよな」
    「うん、まぁ同意だけど、俺ここにいるからね?」
    「あーあ、カワイソー」
    「ねぇ聞いてる?ねぇって」


     なんてことがあったのが、すでに数週間前のこと。のんびり構えていたのが悪かったのか、それとも先延ばしにしたツケか。あるいはただ単に、小さな不幸が折り重なっただけなのかもしれないけれど。
    「よ、オトコマエになったじゃねぇの」
     にやにやとサングラスの奥の目が笑うのに、握った拳を思いっきり肩口に叩き込んだ。いてぇ、などど白々しく嘯かれてはもはや怒る気力すらなくなりそうだ。
     はぁぁ、と萩原はため息をついて、喫煙所の壁にもたれかかった。
    「……別に、なにもなくてよかったし」
    「お、模範解答。なんだよ、珍しく機嫌わりぃじゃん」
    「べぇっつにい」
     顔に伸ばした指は、皮膚より先に大きく貼られた絆創膏に触れる。とあるホテルの一室で不審物が発見され、それがどうやら爆薬らしいと通報があったのが約四時間前。爆弾処理班が呼ばれ、無事に処理を完了、周辺の安全確認作業に二時間ほど。それだけで終わるはずだったのに、これ以降のことはまったく偶然としか言いようがない。
    「いやまじである?いざ撤収しようと思ったらさぁ、偶然ホテルの前でカップルが言い争っててしかもよくよく聞いたらカップルじゃなくてせフレで、女のコのほうがイザってときのために刃渡り十三センチのごっついナイフ持ち歩いてることなんてさぁ……殺意まであるどころかもう殺意しかねぇじゃん??」
    「おーおー、俺はいつかお前が女に刺されんじゃねぇかとずっと思ってたぜ」
    「俺じゃねぇよ……刺されてもねーっつの」
     その場にいた何人かの同僚とともに間に割って入ったはいいものの、女が振り回したナイフが運悪く萩原の頬を掠めた。幸いというべきか、第三者が流血したことにより女は急に恐ろしくなったらしく、すぐに取り押さえられることとなったのだが。
    「……余計な罪状、重ねちったかなぁ」
     震えながらごめんなさい、とか細く呟いた声が耳に残っていた。最初から誰かを傷つけようなんて、きっと思っていなかったに違いない。世間から見れば女の行動はなにひとつ正しいものじゃなかったにしても、それほどまでに駆り立てられるなにかがあったのだろう。
     事情聴取のために連行された男は、ひとことも話すことなく応援のパトカーへと乗り込んでいった。彼の蒼白な顔は、果たして自分のためか、それとも。
    「あ?お前そんなこと気にしてんの?あーなっちまったらしかたねェだろーがよ」
    「そりゃそうなんだけどさ、」
     喉の奥になにかがひっかったようにまとわりつくのを、誤魔化すためにライターを握った。焦げた紙の匂い。甘いのか苦いのかさえ、もうわからなくなった煙の味。
     燃え尽きた灰を落とすための人差し指を、ゆっくりと持ち上げた。風に浚われたいくつかの欠片が、灰皿へと落ちることなく宙を舞う。
    『私だけを愛してるって、言ったじゃない』
     女が男に刃を向けた瞬間に発した言葉は、ドラマの中でした聞いたことないように陳腐で、でもどんな画面越しのものよりも悲壮に響いた。
     萩原にとって、愛はいつだって近くにあったものだ。愛して、愛されて、満たされていたはずのやさしい世界。日常の中にあるもの。
     けれど、あの女性にとってはそうじゃなかったんだろうか。
    「……愛ってなんだろうなぁ」
     目に見えないものが、見えなくて怖くなるなんて、いつから自分はこうだったんだろう。


     小さな不幸は、なぜか立て続けに起こるものらしい。
    「萩、なにこれ」
     ぱったり顔を出さなかった降谷がまたどこからともなく現れたのは、事件翌日の夜のことだった。あと二、三日もあれば新しい皮膚が再生され終わっていたはずなのに、相変わらずタイミングのよすぎる男だ、と出会い頭に首根っこを掴まれながら萩原は嘆息する。
     きゅうと寄った眉根の下、フォグブルーの瞳はまるで降谷のほうが痛いみたいに歪められている。あぁ、こいつもこんな顔、するようになったんだっけ。
    「んーと、名誉のフショー?いやま、名誉でもねぇんだけどさ」
    「……話は聞いてる」
    「あんだよ、知ってんじゃん」
    「話はね。でも僕が聞きたいのはそうじゃない」
     降谷の長い指が、張りっぱなしの絆創膏の端にかかる。頬にあたる爪の感触に、肩が小さく跳ねた。
    「ちょ、俺痛いのヤなんだけど」
    「大丈夫。痛くはしない」
    「ぜってぇ噓……ッい、ってぇし」
     言うが早いか、皮膚が粘着部分に引っ張られるぴりりとした痛みに顔を顰めた。おそらく絆創膏の形に赤くなっているであろう頬の、真ん中あたりに走る傷口をそっと指の腹で撫でられて、ぞわりと背すじが粟立った。すでに薄くかさぶたになりかけているそれを、何度も、何度も確かめるみたいに。
    「……浅いな」
    「たいしたことないって。知ってただろ?」
    「情報としては。でも、」
     指先が傷口を通り過ぎて、手のひらが顔の半分を覆う。大きさはそれほど変わらないのに、萩原よりもずっと熱い。
    「自分の目で見るまでは不安だったから」
     降谷は、そう言ってようやく安堵したように微笑んだ。
    「傷も残らなそうでよかったよ」
    「別に、ちっとくらい残ったって。ヤローなんだしかまわねぇよ」
    「それでも、かな。僕は萩が生きてさえいてくれればどんな姿だってかまわないけど、できることなら傷ついてほしくない気持ちもあるよ」
    「……急にぶっ込んでくるなぁ。松田のことはあんだけボコボコにしてたのに」
    「それはそれ」
    「あ、そう……」
     数センチ下にある降谷の瞳は、やわらかく溶けたままだった。目は口ほどに、とはまさに降谷のためにある言葉みたいだ。口を開けば萩原の想像を遥かに超えたことしか言わないというのに。
     ときどき、いたたまれない。けれど、どこかくすぐったいような泣きたいような気持ちになる。
    「なぁ、それって愛?」
    「え?」
    「俺、降谷ちゃんのこと普通に好きだよ。なんつーか、頑張ればたぶん全然ヤれると思うし」
    「……は、」
    「あー……うん大丈夫、イケる気はする」
    「は!?いや、ちょっと、」
    「ちなみに降谷ちゃんってどうて……」
    「萩!!」
     ぱふ、と萩原の口が降谷の手のひらで塞がれる。勢いがありすぎてちょっと痛い。やや伏せられた長い前髪の向こう、表情こそ窺えないが、真っ赤に染まった肌が垣間見える。
    「……これ、僕はどうしたらいいんだ」

     


     
      
      
      
      
     


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