カーテンの隙間から差し込んだ朝日が、閉じたまぶたのうえに燦々と降りそそぐ。
眩しい。なんのための遮光なんだろう。わざわざ隙間を空けた犯人はわかっている。遮光だと目が覚めないから嫌だと、さんざん揉めたことは記憶に新しい。
降谷にとって眠るとか起きるとかはもはや作業のようなものであって、時間がくればそうする、というだけのことだ。徹夜と仮眠を繰り返したり昼夜が逆転したり、おおよそ健康的とは言い難いものの、必要最低限、然るべきときに最善を発揮するためのパフォーマンスが保てればいい。まぁいざとなればなんとでもするけども。
そういうわけなので、現に今、嫌がらせのような太陽光を瞳に浴び続ける理由はまったくない。紫外線はよくない。さっさと起きて、隙間を閉じるなり思いきり開け放つなりすれば問題はないのだけれど。
自分で朝日を浴びないと起きれない、などと言ったくせに、ちゃっかり太陽に背を向けてスマートフォンをいじる萩原はどうやら機嫌がいいようで。
いつもより少し低く響く声が、降谷の知らないメロディを紡ぐ。
降谷が気づいていると知れば、きっと萩原は歌うのをやめてしまうだろうから。
カラオケは好きだけど鼻歌を聞かれるのは嫌、というわかるようなわからないような、まぁともかくそんな理由らしい。そういうの気にしなさそう、と思わず漏れた素直な感想には拳が落ちてきたが。
『おまえと違って繊細なの、俺は』
萩原はやたらと降谷を大雑把扱いするけれど、正直どっちもどっちだと思う。お互い、少しずつ気にするところが違うだけ。
似ているところもあるけど、似ていないとこのほうがたぶん、まだはるかに多い。知らないことも、たくさん。
たとえば、ところどころ掠れたその声音が、ずっとずっと甘く聞こえるところとか。
「……で、そこの狸ちゃん」
「うん?」
「盗み聞きなんてずいぶん趣味が悪ィな?」
「まさか」
気づかれていないと思っていたわけでもない。それに、そろそろ眩しさも限界だし。降谷は中途半端なままのカーテンを思いきり引いた。
「うっわ、まっぶし!」
「目が覚めた?」
「とっくに覚めてるよおまえが寝こけてるときからさ!」
目眩すらしそうなほどの日差しに、萩原が目を眇めた。
「うぁ〜目ぇ溶けそ。つかおまえよく平気だね」
「平気じゃないけど、まぁ、かわりにいいものが聴けたし」
「はー、ほんっといい性格ね」
んじゃお返し、と上体を起こした萩原は、日焼けしていない腕を太陽に向かって伸ばした。暴力的なまでに顔を覗かせていた太陽が、ふっと消える。
「……なんで閉めた?」
「え、そりゃお天道様に言えないコトしちゃおっかなみたいな?」
「いやいやいや」
そうはならないだろ。
いつもはきちんと整えられている髪をところどころ跳ねさせている萩原はそれはそれはかわいいけども、でもそうはならないだろ。
「いーじゃん、どうせ休みでしょ」
「だからって、」
「だめ?」
あざとく小首を傾げる仕草に、ぐ、と喉の奥がつまった。どうやら機嫌のよさは健在らしい。降谷が勝てないことを知っているくせに、まったくたちが悪い。
「……あとから文句言うなよ」
「えー、それは保証できないけどぉ」
「気分屋め」
呆れ混じりのため息をついて、萩原の跳ねた後ろ髪を撫でつける。降谷のものとは違う、少し硬めのチョコレートブラウン。でも、今は同じ香りがする。
「萩」
「ん、」
痛いほどの日差しを浴びた外壁が、じわじわと部屋の温度を上げていく。暑いのが嫌いなくせに、わざわざ飛び込んでいこうとするのはどうしてなんだろう。
誘われて乗ってしまう自分も結局似た者同士かもしれないと思いながら、降谷はその声と同じくらい甘いと知っている唇を引き寄せた。