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    kemeko_hina

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    kemeko_hina

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    降萩のつもりで書いてます。ひたすら何か食べさせていたいのは何ででしょうね…。

    #降萩
    descendingHagi

    It's up to you.「好きだ」

    「…………ん?あぁ、ピザまん?降谷ちゃんも半分食べる?」
     今季初のピザまんを今まさにかぶりつこうとした矢先、隣を歩く降谷が突然そんなことを言うものだから、萩原は手の中でほかほかと湯気をたてるオレンジ色と降谷を交互に2回は見てしまった。
     降谷の淡いブルーの虹彩がやけにまっすぐ萩原に向けられている気がするけども、ワンチャンピザまんな気がしなくもない。うん。
    「ピザまん……?食べたことない」
    「えっうっそまじで!?いや絶対食べたほうがいいよ半分……いや四分の三……いや五分の三やるから!」
    「いや、別にいらない……そうじゃなくて、お前もう気づいているだろう」
     ぎくり。たぶん自分でもわかるくらいだから、いくら相手が降谷といえど動揺したのはバレているだろう。なんとか誤魔化そうと開いた口は、燃えるような、それでいてどこまでも静かな湖のような、そんな不思議な色を浮かべた瞳に刺されて何の音も吐き出せない。
    「萩、好きだ」
     たった三文字。けれど、それはどうにも処理できそうにない爆弾だ。頭の中にはぐるぐるとたくさんの文字が浮かぶのに、この場にふさわしい言葉を作り出せない。
    「……やっぱ半分、やるよ」
     ピザまんに罪はない。これは温かいうちに食べるものだ。
     押し付けた半分を不審げに受け取る降谷を後目に、萩原は残りの半分をかじる。伸びたチーズがやけに口内に絡みつくのを、ごくりと飲み込んだ。


     話は、せっかくのピザまんの味がわからなくなったこのときから、約数ヶ月前に遡る。
     前触れがあったのかなかったのか、今となってはもうわからないけれど、ある日突然、視線を感じるようになった。自慢ではないが、萩原はこういう類の視線には慣れている。そう、ほんとうに自慢ではないけど、それこそ物事ついた頃から、何度となくあったことなので。
     ただ、ひとつ違ったことは。
     萩原がこれまで感じたことのある、甘ったるい砂糖菓子のような、そんなのじゃなくて。静かで、ただひたすら静かなそれは、透明な湖の底が見えないほど深いのにも似て、一度踏み込んでしまったら二度と出られなくなりそうで。それはじりじりと萩原をかたちどるもののいちばん外側を焦がしていただけのはずが、いつしか随分内側まで手を伸ばしてきていた。
     だから、萩原は正直驚いた。驚きすぎて夢かと思ったし、夢であってほしいとすら思った。だって、その視線の持ち主があの降谷零だなんて、いったい誰が信じられるというのだ。
     だから、気づかないフリをした。気のせいでないことを嫌というほど理解しながらも、あえて見てみぬフリをすることを選択した。この場合は見られているのは萩原のほうなのだが。
     しかしその結果まさか降谷が直接萩原に何かを言ってくるなんて、完全に予想外だった。
    「やっぱりこれって俺が美しすぎるせいなのかな……」
    「萩、寝言なら何言ってもいいわけじゃねぇかんな」
    「じんぺーちゃんヒドイ!でもお前はそのままでいて!」
    「何言ってんだ……普通に引くわ……」
     ぺこん、と松田の飲んでいた紙パック飲料が軽い音を立てた。空になったそれをゴミ箱に放り込んで、松田はちらりと萩原を見やる。
    「で?お前が変なのは今に始まったことじゃねぇけど、なんかあったのかよ」
     顔中に面倒くさいと書いてあるのは隠しもしないけれど、松田はそれなりにやさしい。
    萩原はそれまで手で弄んでいたチョコレート菓子をようやく口に入れた。溶けかけのチョコレートは、味はまったく違うのに、どうにもあのときのピザまんを思い出してしまう。ぱきん、と口の中で割れたビスケット部分を時間をかけて嚥下してから、萩原は口を開いた。
    「あー……なんかっていうか、」
    「おう」
    「あるといえばあるし、ないといえばない……」
    「あ?なんだそれ」
    「なぁ、じんぺーちゃん。俺降谷ちゃんになにかしたっけ?」
    「零に?なにしたんだよお前」
    「俺が聞きてぇよ……。俺、なんか特別なこととかした記憶ないんだけどな」
    「つーかなに、そんな悩むほど嫌われてんの、お前」
     逆だから困ってるんだ、とは言えずに、萩原は黙り込んだ。つまるところ、萩原が悩んでしまうのはそこなのだ。どうして、降谷が萩原を好きだなんて言うのかがわからない。多少コミュニケーションには問題がある気もしなくはないけれど、降谷なら引く手あまただろうし、その気になれば落とせない女はいないだろう。なにせあの顔だ。自分もけっして見劣りはしてないとは思うけれど、あの降谷が人の顔のつくり云々で好きになるとは思えない。
    「ま、なんにしても卒業までもう少しだしな。そんな気にしなくていいんじゃね」
     松田の言は萩原が降谷に嫌われている前提なのだろうが、あぁそうか、と案外腑に落ちる答えだった。
     警察学校を卒業してしまえば、今みたいに顔を合わせる機会はほぼなくなってしまうのだ。萩原は松田とともに機動隊の爆発物処理班へ配属することが決まっているし、降谷はどうするのかきちんと聞いてはいないけれど、少なくとも現場でばったり、なんてこともないんだろうなと思った。
     だから、なのだろうか。
    「うーーーん……」
    「だぁ、もうめんどくせぇな。そんなに気になるなら本人に聞きゃあいいだろ」
    「え?」
    「お前、いろんなヤツと仲良くなれるくせに、実はそういうの得意じゃねぇよな……。別にいいんじゃねぇの?俺らはせいぜい半年の付き合いだけどさぁ、思ってることも言えねぇ仲じゃねーだろ」
    「……もしかしたら、もう5人で会うことができなくても?」
    「え、まじでそんな嫌われてんのか」
    「あ〜いや違う、けど。そういうんじゃないんだけどさ」
    「ふーん?よくわかんねぇけど……それならそれでしかたねぇよ。そりゃ卒業してもまた集まれたらいいとか思わねぇわけじゃないけど……」
     松田の口から、ポテトチップスが割れるぱりん、と小気味良い音がした。
    「お前と零の問題だろ。俺らに気を遣われるほうが嫌だし、そんなん誰も望んでねーよ」
    「じんぺーちゃん……!!」
    「うっわなんだよその顔。気色悪っ」
    「いや〜あの松田も大人になったんだなぁって……お兄さんうれしい……」
    「るっせぇ。つか誰がお兄さんだバカ」
    「ほんと、そうだよな。話さねぇとわかんないよな。……ありがとな、松田」
    「は、当然。誰に向かって言ってんだよ」
     萩原は得意気な顔をする松田の口にチョコレート菓子を突っ込んでやる。あにすんだ、ともごもご口を動かす松田を、どこか晴れやかな気持ちで笑った。変わらないと思ってたことが変わること。それはけっして怖いことではないのだと、そう、今の萩原は知っているのではなかっただろうか。
    「よっしゃ、じゃあ行ってくるかなぁ」
    「あ?どこに……ってまさか」
    「決まってるじゃーん」
     箱ごと松田に押し付けて、萩原は立ち上がった。振り返りながら、右手でピースサインを作る。
    「降谷ちゃんのと・こ・ろ♡」


     前は急げ。普段はブレーキ役だと思われがちな萩原でも、たまには後先考えずに突っ込んでいったっていいだろう。逸る気持ちで降谷と諸伏の部屋のドアを3回ノックして、中から小さな声が聞こえたところで、ガチャリと扉を開け放つ。
    「よぉ!ちょっと降谷ちゃん貸して!」
    「えぇ?」
     萩原の目の前に立っていたのは諸伏のほうだった。猫みたいな瞳をまん丸にして、萩原と背後にいるであろう降谷を交互に2回ずつ見た。それからちょっと困ったように微笑むと、もう一度後ろを向く。
    「ゼロー」
    「あぁ、聞こえてる」
     諸伏の後ろからひょこりと姿を現した降谷は、萩原をなんとも複雑そうな顔で見上げた。
    「よ、今時間いい?」
    「かまわないけど……」
    「んじゃ、ちょっとこっちこっち」
    「は……!?おい、」
    「んじゃねー諸伏ちゃん、ちょっと借りてくわ」
     降谷の左手首を掴んでかるく引っ張ると、降谷は戸惑った声をあげた。それを無視して諸伏にウインクをとばせば、苦笑いが返ってくる。
    「……お手柔らかにね」
     この様子だと諸伏はたぶん降谷と萩原の間に起きていることを知っているのだろう。ちいさく振られた手に、萩原は片手を挙げて答えてる。
    「おい、萩」
    「んー?」
    「なんだ、突然」
    「はは、それ降谷が言うかなぁ」
     ほんの少し意地悪く言えば、降谷がぐぅ、と押し黙った。そうだ、こいつ意外と表情に出るんだったな。それなりに知ったつもりでいたけれど、たぶん今、萩原ははじめて降谷零という存在をちゃんと認識している。
     掴んだままの手首の温度は、萩原と同じくらい。華奢に見えるけれど、骨は存外しっかりしている。取るに足りない情報かもしれない。でもこれは、今日萩原が新しく知ったこと。
     人通りの少ない階を選びながら、萩原は歩みを止めないまま、さり気なく口を開いた。
    「なぁ、降谷ちゃんってなんで俺のこと好きなの」
    「……好きになるのに理由がいるか?」
    「え、そういうかんじか」
    「?どういうかんじなんだ?」
    「んー、ちょっと予想外」
     この流れで素直に答えが返ってくることにもそうだが、発された内容が萩原が考えていたよりもずっと感覚的だったことに驚きを隠せなかった。
    「俺さぁ、降谷になんか特別なことしたっけ?」
    「……どうかな。萩原にとっては特別なことじゃないかもしれない。けど、」
     ふ、と笑みの溢れる気配がした。萩原が掴んでいた手の力を緩めて振り返ろうとすれば、それよりも早く、降谷のほうが萩原の手をぎゅうと握る。
    「ふる、」
    「僕にとっては特別だったんだ。どれもね」
     こっちを向くなと言わんばかりに、降谷の空いている右手が、萩原の背をかるく押した。萩原は降谷が今どんな顔をしているかわからないけれど、背中に落ちる声が、先程よりもわずかに熱を帯びた手が、表情よりもずっと雄弁に語っている。
    「……じゃあ、質問を変えるけど」
    「うん?」
    「降谷はさぁ、どうしたいの。どうなりたいの、俺と」
     このタイミングで告白してきたことは、卒業と無関係ではないはずだ。萩原も、おそらく降谷も、ここで仲間としての関係が終わることなど望んではいない。
    「んーー……どうとでも」
    「ハァ!?」
    「文字通りだよ。萩の思う通りにしていい。僕はきみが好きだけど、それだけだから」
    「ちょっと言ってる意味がわからない……」
     萩原は思わず頭を抱えた。どうやら2人の間には恋愛に対して著しく価値観に相違があるらしい。
    「なんでだ?まぁたしかにちょっと早計だった気はしないでもないけど、いずれ言うつもりだったから問題ない」
    「あるだろ……っていうか問題はそこじゃなくてさ」
    「?」
    「なんか言ってほしいとかないの?返事、とかさ。俺めちゃくちゃ考えちゃったのよね」
    「ふ、それは重畳だな。萩の時間を独占できた」
    「あ〜〜だめだわっかんねぇ……降谷が思ったより宇宙人すぎる」
    「それは違うな」
     一瞬、握られた手に力が込められた。それはどこか迷うような、躊躇いがちな手つきだ。
    「……僕はただ、萩が好きなだけだ。言われたくなかったのも知ってる。から、ごめん。悩ませたいわけじゃなかったんだ。返事もいらない。ただ、伝えたかった。もしかしたらこれが最後かもって思ったら、言わずにはいられなかった。困らせてごめん、返事はいらない。ただの僕のわがままだよ」
     ごめん、と繰り返すたびに、指先が震えた。そうじゃないだろ、と萩原は思う。だってあの視線を萩原は知っている。どこまでも静かで、どこまでも揺らがない、あの熱さを知っている。
    「…………」
    「……萩?」
    「なー、そっち向いてもいい?」
    「……だめだ」
    「なんで」
    「さすがに、恥ずかしすぎる……」
     ぶは、と萩原は吹き出した。ここにきてまだそんなことを言うなんて、誰が想像できるというのか。笑い転げる萩原の後ろで、拗ねたような声がする。
    「笑うなよ」
    「いやそれは無理だわ……っ、だめだ、腹がいてぇ……っふははは、」
     萩原だって少しは格好つけたかったのだけど、これではもう完全に負けた。なんだってできるくせに、ひどく不器用なこの男を、拒むことなんてできなかったのだ、最初から。
    「あー……笑った。やばいこんなに笑ったの久々かも」
    「それはよかったな」
    「拗ねんなって〜〜」
     呼吸が落ち着いたところでいつの間にか止めていた足を再び動かし出す。軽く握り返した手に、やや戸惑いの気配を感じながら。
    「なー、仕切り直ししようぜ」
     先のことはわからないけど、変わらないものなんてきっとないから。選択肢が自分にあるうちは、少しくらい余裕なフリをさせてほしい。いつか取って代わられる日がきたら、それはそのときだ。
     そのときは、大人しく落ちてやるのも悪くない。
    「……どこから?」
    「んーーそうだなぁ、とりあえずピザまんリベンジかな。零のせいで味しなかったもん、この前」
    「あぁ……僕は普通の肉まんのほうがいいな」
    「はぁ〜〜?それ今言うか?」
    「でも、萩原が好きなものはもっと知りたい」
    「……それ、今言うかぁ?」
     
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