桃花と弾丸 下 手狭な部屋に響き渡る生活音。小さなちゃぶ台。大雑把な手料理の味。早朝の静寂。ノートに向かって走る筆。そして「ミスラさん」と名を呼ぶあなた達の声。
食って、眠って、暴れて、そしてまた眠る。
そんな空虚な日々に突如舞い込んできた彼らとの生活は、案外刺激的で、安らぎがあって、日を追うごとに身に馴染んでいった。まさかこの俺が、あの女……チレッタの息子とこうして一つ屋根の下で暮らすようになるとは夢にも思わなかった。
そんな共同生活にも慣れてきたある日、いつものように窓から飛び降りると、俺の眼前に見慣れた色が映り込む。満開の花を背にかかるのは黄金色の傘。
「……ドン・スノウ」
「ほう。やはりミスラか」
スノウは振り返らずとも、足音だけで俺がミスラだと言い当てる。背から漂うのは、計り知れない重圧と威厳。護衛と招集以外でこうして鉢合わせることなんて滅多にないのに、どうしてこのタイミングで……ばつが悪いな、と眉間に皺を寄せる。
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