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    kor_game87

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    オルストss最終話
    オルさんのストへの呼び名ぶれぶれですが後ほど統一しますすみません…

    #LAL_腐

    『君の世界』最終話 オルステッドの視界が真っ白になり、ふわふわと身体が浮かんでいく。水の中から浮上するように、ゆっくりと、身体が上昇する。
     鎧を着けているから水に浮かぶのはまずあり得ない。だからとても不思議な気分だった。
     段々視界が明るくなってくる。鳥の囀りが聞こえる、風が鳴く声が聞こえる。オルステッドは誰に言われなくとも理解していた。もうすぐ自分は現実世界に帰るのだと。





     世界のどこかにある、深い深い森の中。
     青みを帯びた黒髪を腰まで伸ばし、青いローブに赤いマント、そして片手に杖を持った男が一人、歩いていた。
     表情は虚ろで、どこに焦点を当てているのか分からない。そしてかつては美しかったであろうローブやマントもボロボロになり、顔は土気色に染まっていた。
     男はかつて王だった。国に突然現れ、姫を攫った魔王(それは偽の魔王だったが)を倒し、それとは別に人間に化けていた真の魔王を倒して姫を救ったのだ。
     男は英雄となった。姫と結ばれ、王になった。賢い彼は、国を良き方向へと導く賢王になると、民衆から期待されていた。
     王として威厳ある振る舞いをしていた男は、数日で覇気がなくなり、姫と話をしなくなり、部屋に閉じこもってしまった。大臣が声を掛けるとお前が政をすれば良いと言う始末。
     部屋から出てこない日が一週間以上続き、不審に思った大臣と兵が、鍵の掛かった王の部屋を無理矢理開けた。するとそこには王は居らず、窓が開いていて、そこから吹いている風が大量の羊皮紙を床に散りばめていた。
     王は失踪していた。

     かつて王だった男は、地位も名声もどうでも良かった。友が姫を助けに行くから同行しただけ。姫に恋焦がれていたわけでも、政略結婚をしたかった訳でもない。ただ友と共に歩きたかった。それだけだった。
     だがそれももう叶わない。
     男自身が、友に手をかけたのだから。友に対して抱いていた愛と、そして憎悪が暴走して、彼は二度と帰らぬ人としてしまった。
     友──オルステッドが世界の全てだった男、ストレイボウは、最早抜け殻同然に彷徨い歩くだけの存在と化していたのだった。

     
     ──死に場所は、死に場所は何処だ。
     ストレイボウは未だ虚ろな目で、森を見ている。
     ──早くあいつに会いたい。会って、謝らないと。
     オルステッド、オルステッドと彼は一人、ぶつぶつと呟く。空が茜色に染まっていき、星が肉眼でも見える明るさになる。夜が、暗闇がやってくる。
     ──もう、魔力もない、体力も。このまま野垂れ死んだ方があいつの為かもしれない。

     そう思った瞬間、ストレイボウの背後でどさっ、と何か大きな物が落ちる音がした。
    「……!」
     ストレイボウは咄嗟に後ろを振り向く。するとそこには、見慣れた金色の髪の、鎧姿の男が倒れている。それは間違いなく居なくなったはずの、自分が消したはずの友、オルステッドだった。
    「痛っ、ここは……?」
    「オルス、テッド……?」
     信じられない。オルステッドが目の前にいる。ストレイボウは頭を抱えた。
     自分は遂に壊れてしまったのだろうか。会いたい気持ちが強すぎて、幻覚まで見て。それとも目の前の彼が本物なら、自分があの世に来たのだろうか。
     そんな事を考えながら、ストレイボウはオルステッドを見つめていると、オルステッドが勢い良く抱きついてきた。
    「あぁ、やっと会えた、よかった、よかった……!」
    「オルステッド、なのか……?」
    「そうに決まってるじゃないか。ストレイボウこそ、本当の、現実世界のストレイボウなんだよな?」
    「現実って……あぁ、そうか。ここはやはりあの世で……」
    「あの世? 私はずっとおまえの世界に居たけど」
    「俺の世界? お前大丈夫か? 頭打ったのか?」
    「頭を打ったのはストレイボウなんじゃないか? 何だかさっきから様子がおかしい」
    「あ、あぁ、そうかもしれないな……。悪い夢を見ていたと思いたい……」

     オルステッドと少し話をし、混乱した頭を落ち着かせた後、ストレイボウは全てを告白した。相手が本物でも偽物でも、彼に聞いて欲しかったから。
     オルステッドにブラックアビスを放った後、オルステッドは暗黒の中へ消えた。その後アリシアと共に下山し、彼女と結婚したこと。自分は国王になったこと。だが自責の念に駆られて引き篭もり、その後国を出て当てもなく歩いていたこと。
    「オルステッド、すまなかった、すまなかった……! あの時俺は、なんて事を……!」
    「……ストレイボウ」
    「俺は、本当ならお前に殺されてもおかしくないんだ。今何をされても文句は言わない。好きにしてくれ」
     ストレイボウは地面に膝をつき、頭を下げた。
    「おまえに言いたい事は沢山あるけど……何と言うか、ストレイボウは心でも現実でも同じ事を言うんだな」
    「心? さっきから心だの世界だのってなんなんだよ……?」
    「うぅん、そうだな、これは私だけの秘密にする。勿体無いから」
    「はぁ!?」
     ストレイボウは勢い良く顔を上げる。その表情がおかしくて、そしてほっとしてオルステッドは笑った。
    「良かった、いつものストレイボウだ。ところで、私はもう国には帰れないな。故意ではないと言え前王を殺してしまった。……おまえはどうするんだ?」
    「今更帰れる訳ないだろ、王になったのに、国を飛び出してしまったんだから。真実を話せば処刑であれ私刑であれ殺されるだろうな」
    「それなら、二人で逃げよう」
    「逃げようって、何処に?」
    「ルクレチアを知らない人がいるくらい、遠い場所へ。行くなら南がいいな、暖かい場所がいい」
    「それって、許してくれるのか……? 俺を?」
     ストレイボウは、縋る目つきでオルステッドを見上げる。
    「おまえと一緒じゃないと、私が心細いから」
     オルステッドが優しく囁く。ストレイボウは、ふう、と大きく息を吐き、敵わないなと呟いた。
    「そうか。お前が言うなら、仕方ないな」
     ストレイボウは眉を下げ、ゆっくりと目を閉じて言った。
     そして立ち上がり、オルステッドを見据える。
    「南に行くんだろう? また俺が先導しないとな」
    「前から思ってたけど、ストレイボウは案内するの好きなのか?」
    「ちげぇよ、お前がすぐ迷うからだ。それと、南は冬でも雪が降らない場所があるらしいぜ」
    「本当に?」
     オルステッドは目を輝かせる。
    「それは楽しみだ。これから旅ができるな。何の役目も背負わされてない、自由な旅」
    「お前はなぁ。気楽で良いもんだ。でもまぁ……そうだな」
     ストレイボウは柔らかく笑って、言った。
    「これでようやく、二人で並んで歩いていける」



     ──数年後
     暖かい風が吹く。雲一つない晴れ空が広がり、空気に潮の匂いが混ざる。
     日差しが照りつける中、砂浜を並んで歩く、二人の男が居た。二人とも同じくらいの身長で、薄いシャツとズボンを履いている。
     長い青みを帯びた黒髪を一つに纏めた男が、もう片方の髭の生えた金髪の男に言った。
    「俺は、お前と対等になれただろうか」
     金髪の男は一瞬目を丸くして、黒髪の男の背中を叩いた。
    「何を言っているんだ、初めから私達は対等だろう?」
    「お前なぁ、そういうところが……。まぁいい、きっとそうなんだろう。俺は今、お前といられて幸せだよ」

     波打ち際で、砂浜に足跡をつけながら二人の男は歩く。風が段々とぬるくなってきた。もうすぐこの土地に冬がやってくる。

     ──オルステッドとストレイボウが、雪を忘れて久しい。
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