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    朱華‪🌱‬

    遅筆の物書き

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    朱華‪🌱‬

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    ハロウィンに書いたやつ

    いちさにハロウィン 万屋街には、様々な形の南瓜がいたる所に飾られている。店内を覗けば、店員さんが猫耳やツノのついたかカチューシャ、魔女の帽子など、コスプレをしたまま接客している様子が窺える。今日はそう、可愛い子を口説いてもいい日─────ハロウィンだ。
     視線だけを動かして、辺りを観察する。ハロウィン当日とはいえ、本丸で過ごす者が多いのだろう、仮装している人はほとんど見受けられなかった。それどころか町ゆく人々の姿は疎らだ。私も仮装はしてこなかった。
    こういう日は仮装をして可愛い子を口説くのに限るのだが、横に並ぶ空色の王子と見まがうような青年、もとい一期一振は許してはくれないだろう。普段の彼であったなら、私が可愛い子に声を掛けていても「ほどほどにしてくださいね」と言うだけで(いい顔はしないけれど)止めるようなことはしない。しかし今日は違う。歌仙からお目付け役として私を見張るようにと念入りに頼まれているのだ。
    「困っている御仁に声を掛けただけでナンパだと判断するなんて心外よ」
    「主の日頃の行いではないですか」
    「あら、妬いてるの? 可愛い人」
     こちらをじっと眺めていた小さなお姫様に向かって微笑むと小さなお姫様は恥ずかしそうに俯いた。
    「妬いていません。主のその癖に悩まされているだけです」
    「私は普通にしているだけなのだけれど……そうね、いちが相手をしてくれると言うなら考えるわ」
     一期は少し考えてから、
    「そ、そういえば歌仙殿から頼まれていた買い物がまだでしたね」
     と言って先へ行ってしまう。私は肩を竦めて着いていく。
    「肯定と受け取るけれど、いいわよね?」
    「あまり遅くなっては歌仙殿に怒られますよ」
    「遅くなる許可は取ってあるわ」
    「いつの間に……」
    「ふふ。そうそう、トリックオアトリート」
    「パーティーは夕方からでは?」
     そう、夕方から本丸でハロウィンパーティーを開催する予定なのだ。歌仙に頼まれた買い出しも、このパーティーの準備の為だった。
    「そうね。いたずらをしても?」
    「いいわけがないでしょう。……こちらを」
     一期が取り出したのは一粒の金平糖だった。いつも一期が持ち歩いているもので、弟達を褒めるときに与えているものだ。
     手のひらに置かれた金平糖をじっと見つめていると、一期はお嫌いでしたか、とこちらを覗き込んでくる。私は首を振って金平糖を口に放り込んだ。
    「主、トリックオアトリート」
     私が金平糖を口にするタイミングを見計らったように一期が言う。優しい長男らしからぬ、意地悪な笑みを浮かべていた。
    「いち、こっち」
     一期のネクタイを掴んでこちら側に引き寄せる。そのまま顔を近づけると、一期は少し驚いてから、ぎゅっと目を瞑った。そのまま私は隠し持っていたそれを一期の口に押し込んだ。
    「ちょこ、れーと……?」
    「そう。ハロウィンパーティー用に作って置いたものの残りなの。弟達には内緒よ?」
     一期は俯きがちに口元を押さえながら咀嚼している。
    「なにか、期待した?」
    「いえ……なにも」
     そう言って顔を逸らした一期を尻目に私は目的の万屋へ入っていく。
     一期が入ってきたのはそれからしばらくしてのことだった。
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