雨の日の話 昼間から降り出した雨は勢いを増し、ざあざあと地面を叩きつけている。雨脚が弱まる気配はまだない。そのため、粟田口部屋では、トランプ大会が開催されていた。
「雨、止みませんねぇ。せっかくみんなが揃っているのに……」
「まぁ、たまにはこんな日があってもいいんじゃねぇか」
「雨の音は、落ち着くので好きです」
「ボクも雨の音は好きだけど、湿気で髪がうねるのが嫌になっちゃう。鯰尾兄さんは?」
「俺は湿気とかあんまり気にならないからなぁ。いち兄は?」
「私?私は……雨の日は洗濯物がよく乾かないからね、それだけは困るかな」
雨の日自体は嫌いではないよ、と付け加える。嘘ではない。一期一振は雨の日が苦手だった。
「失礼します。一期一振殿、少しお時間よろしいですか」
障子を器用に開けて姿を現したこんのすけは、審神者に重要書類を確認してもらいたいのだが連絡がつかないこと、執務室を訪ねたが鍵が掛かっていて応答がないこと、本丸中を見て回ったが見当たらないことを説明し、審神者がどこにいるかを聞きに来た。
「外出の連絡は受けてないから、この時間なら執務室に居るはずだ。私が見てこよう」
弟たちに暫く席を外すことを伝えると、皆快く承諾してくれた。近侍の仕事で席を外すことは少なくないため慣れていた。
引き出しから鍵を取り出して握りしめると、ずっしりとした金属の重みが伝わってくる。近侍を拝命した日に受け取って以来、手に取るのは初めてだった。
廊下を歩きながら、ふと考える。主は、どうして執務室に鍵をかけているのだろうか、と。執務室は主が過去のデータベースを漁りながら仕事をするため、膨大な資料が収められている。そのため鍵が備え付けてあるのだが、施錠されているのを一期一振が確認したことは一度もない。
「主、こんのすけが重要書類を……」
鍵を使って中へ入ると、雨の匂いがした。丸窓障子が少しだけ開いている。雨音がやけに大きく聞こえる気がした。主はというと、横長ソファーに仰向けになったまま眠っており、本を抱えていることから読書をしているうちに眠ってしまったことが窺えた。
長い睫毛に、ゆるく閉ざされた唇。普段より幾分か幼く見える表情は、主が少女であったことを感じさせた。
戦の前線に女性でありながら立ち続ける有様は美しいが、同時に残酷だとも思った。指揮を執ることが彼女に課せられた役割だが、彼女が最初から望んで審神者になった訳ではないことを一期一振は知っていた。
「戦なんて、ない方がずっといいのだろうな」
ブランケットを掛けてその場を立ち去ろうとすると、ジャケットの裾をくい、と引っ張られる。振り向けば、主が真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「止まない雨はないよ。だから、私はこの時間を楽しんでいたい。この戦いで一期一振や、みんなに出会えたように」
「そう、ですね」
「そんなことより、いち。随分と私の寝顔を眺めていたみたいだけれど、私の顔そんなに好きかしら?」
ぼんっと何かが爆発した音がして、顔が火照るのを感じた。