初めて俺はもう人から愛され、必要とされることを諦めていた。俺が好きになった人は俺の事なんて見ていなくて。俺が必要とした人は俺の事なんか必要としてなくて。期待してがっかりするのはもう嫌なんだ。なのに、なのに…
生きていく上でなるべく欲を無くし、周りに求められた事をして、求められるような人になれるようにしていた。だけど何故か珍しく興味を持ったものがあったから挑戦してみて、そこで出会ったのがLuxiemの皆だった。初めてだったんだ、こんなに優しくされたのは。こんなに名前を呼んでくれたのは。こんなに心から笑えたのは。特にヴォックス。あいつは俺の“好き”に応えてくれた。好きな人の好きな人になれる事ってこんなに嬉しいんだな。
ある時、あいつがアイクに対して愛を囁いてたんだ。配信内でだけど、裏切られてばっかだった俺には凄い堪えちゃって。その日はたまたまヴォックスの家に泊まってる日だったから静かにしてたのに泣いてるのバレちゃって。
「…ミスタ?泣いているのかい?」
「あッ、、グスッそんなことないよ、」
「どうして隠すんだ、泣いたっていいんだよ。ただ泣いている理由は聞いてもいいかな?」
「くだらないから…ほんとに大丈夫、グスッ」
「ミスタが泣くんだから私からしたらくだらなくない。もしかして私がなにかしてしまったのかい?」
「…話しても嫌いにならない、?」
「当たり前じゃないか!むしろ話してくれるなら嬉しいくらいだよ」
それで泣いた理由と昔のことを話した。話の最中何回もしゃくり上げて話が詰まっても背中を摩って真摯に話を聞いてくれた。
「それは本当にすまなかった。あの言葉は全て配信の為で私が本当に愛しているのはミスタ、お前だけだから、それだけはわかってくれ」
「うん…ごめん、面倒くさくて」
「そんなことない、話してくれてありがとう。これから気をつける、だからミスタもまた何か嫌なことがあったら言って欲しい。そして自分をあまり責めないでくれ」
「わかった…ありがとう」
「あぁ、こちらこそだよ」
そう言っておでこに優しくキスしてくれた。大丈夫だと言ってくれたけど、どうしても自分で自分を許せなくて。どうしてヴォックスを信じられなかったのか。そしてそれをヴォックス本人に気付かれてしまうような事をしたのか。ただヴォックスに嫌われたくなかった。
だけど本当に調子悪い時は抑えられなくて、配信内でもつい口に出してしまう事があった。
アイクとはどうなの?
最初は配信で面白くするためだと思ってくれていたけど、ちょっとやり過ぎた。
「ミスタ、少し冗談が過ぎるんじゃないか?」
「ご、ごめん…」
「また不安になったのか?」
あ、これは面倒くさがられてる。
「あ、その…そうじゃなくて、!」
「ハァ…」
やってしまった。別にヴォックスを信じていない訳じゃないんだ。ただ、ただどうしても過去のことが引っ掛かってしまって…
「ミスタ、私が前言った事を覚えているかい?」
「えっ、と…」
「嫌な事があったら言って欲しいってやつだ」
「あ…うん」
覚えてた。覚えてたけど、迷惑かけたくなかったんだよ。
「言ってくれなかったな、不安だって事」
「…迷惑かけたくなくて」
「迷惑なわけが無いだろう?何せ私が頼んだんだ」
「ご、ごめんなさい…」
「後もう1つ。自分を責めるな」
「ッ…」
「昔の事はわかっている、わかっているし事実だ。だけど私がミスタを心から愛していることもまた事実なんだ」
「うん…わかってる、わかってるんだけど…」
「ミスタ、ミスタは私が悲しい思いをしているとどう思う?」
「い、嫌だ、!」
「だろう?私もそうだ。ミスタが自分を責めてただでさえ寂しい心に更に傷をつける。そしてお前が責めているのは私の愛するミスタなんだ。私の大切な人を責めないでくれ。これはお前を責めているんじゃない、ただわかって欲しいんだ」
そっか、俺はヴォックスの大切な人を傷つけていたんだ、自分で自分を。ヴォックスは俺の為に優しく諭してくれる。そうだ、俺はこんなに愛されていたんだ。
「…ヴォックス、ごめんッ、俺…」
涙が止まらない。また自分を責めているのを感じた。これの涙は申し訳なさと自分の愚かさとそして嬉しさ故のものだった。
「ヴォックス、俺今また自分を責めてるッ、だけど聞いて」
「あぁ、聞いているよ」
「俺これ最後にする、グスッ、もう自分で自分を嫌いにならない」
「あぁ、わかってくれたんだね」
「うん、ッ俺、ヴォックスが傷つくの嫌だから、ヴォックスに同じ思いもうさせない。今までごめん、それと…ありがとうッ」
「いいんだ、いいんだよミスタ。不器用な所も愛おしいんだ。そしてお前は優しい。自分が辛くても他人を優先させてあげられる。だけどその優しさを今度は自分に向けてみて欲しい、わかるかい?」
「えっと…俺、優しいなんて初めて言われた…」
「ミスタは私が出会った人で誰よりも優しいよ。だからそれに漬け込む悪い奴が寄ってきていたんだろう。もっと早く出会っていれば守ってあげられたのにな…まぁ過去のことを言っても仕方がない。とにかくミスタ、ありがとう」
「うん、俺もありがとう。あのねヴォックス、」
「なんだい?」
「大好き…ッ」
中々言い出せなかった言葉。これを言ったら何だか終わってしまうような気がしていたからずっと胸にしまい込んでいた。だけどもうわかった、ヴォックスは今までの奴らとは違うんだって。信じていい、期待していいんだ。
「あぁミスタ、私も大好きだよ」