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    よるのなか

    二次創作文字書き。HRH🍣右、🍃右中心。

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    よるのなか

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    ウィルガス。Twitterで更新している潜入調査話の続きです。最後ちょっとウィルガスにできた。
    進行上、ここからモブが少し出張りますのでご注意ください。
    ※これ構想だいぶ前からあったのでサイドストーリーは考慮してません

    仮初めルームメイト(5)■五 調査

    「では、一瞬その学生が消えたようにガストには見えたのですね」
     ヴィクターの確認にガストは頷いた。
    「あぁ。で、その後に様子がおかしくなったんだよ」
     騒動が落ち着いたタイミングでガストとウィルはヴィクターの講師控室を訪ねた。例の協力者の配慮で、小さな部屋を一人で使用しているらしい。ヴィクターは自ら持ち込んだと思われるパソコンの、何かのデータを見ながら口を開いた。
    「サブスタンスの反応もほんの一時的でした。これはまだ推測に過ぎませんが、その消えたとされる一瞬で、サブスタンスがその学生に干渉した可能性が高いですね」
    「干渉……」
    「えぇ。やはりビリーが調べてきたこの現象と、我々のターゲットとなっているサブスタンスは関連していると考えた方が良さそうです」
    「でも、何であの学生だったんだろうな? 他にも周りには学生がいたぜ」
     そう。その学生とガスト達以外にも、学生は複数いたのだ。何故サブスタンスは今回その学生に干渉したのか。
    「それはまだわかりませんが……干渉される前には、その学生に他の学生と異なるような点はなかったんですね?」
    「そう思います。と言っても、サブスタンスの反応が出る前にその学生を見ていたわけではないので、断言はできませんが……歩いていて違和感は全く感じなかったので、特に目につくような不思議な行動は取っていなかったと思います」
     ウィルがそう答えると、ヴィクターは一度考え込んだ。
    「あとは本人に直接聞くかですね……」
    「たまたまその学生だったって可能性もあるのか?」
    「その可能性もあると思います。ターゲットを無差別に選んでいる可能性ですね」
     そこまで話すと、ヴィクターはパソコンのディスプレイから目を離し、ガストとウィルに向き直った。
    「幸い今回構内に計測器を設置できていたので、少しサブスタンスの情報が解析できそうです。でき次第、サブスタンスが出現した時に一時的に拘束できるものを作ってみます」
    「作る? ここで?」
    「えぇ。なるべく多くの事態に対応できるよう、最低限の物資は持ち込んでいます。今日中には作成してお二人の手に渡るようにしましょう。拘束といっても、消えるのを短時間食い止める程度のものですが」
     ヴィクターの開発したそれが使えるのならば、サブスタンスの回収にかなり有利になるだろう。あとは、次にいつサブスタンスが出現するのか、それに法則はあるのかというところだ。
    「お二人はそれまで、情報収集を進めていてください。何かあったらインカムで情報を共有するように」
    「わかりました」
    「できたら俺かウィルのどっちかが取りに来るから、呼んでくれ」
    「えぇ」
     あまり長時間ここに滞在するのも不自然だ。必要最低限の情報交換を終えると、ウィルとガストは揃って部屋を出た。
    「それじゃ、少し周ってみるかな」
    「そうだな。ここからは、別行動を取ろう」
     元々情報収集しやすい学生のタイプが異なる二人だから選ばれたという理由がある。それぞれの得意分野にアプローチしていくべきだろう。ガストは頷いた。
    「部屋で落ち合うか。気を付けてな、ウィル」
    「あぁ」
     ウィルは一度頷くと、数秒置いてから小さな声で続けた。
    「お前も……気を付けて」
    「……おぉ。ありがとな」
     ぎこちないやり取りをして、別れる。ウィルからの気遣いの言葉を貰うなど滅多にないことで、ガストは歩きながら、動揺する心を精一杯鎮めようとした。

    *****

    「なぁ、お前強いだろ」
     もう一度先程の現場に行ってみようか、そう考えたガストが歩いていると、突然物陰から声をかけられた。今この周囲には、自分しかいない。歩みを止めて振り返ると、一人の学生がこちらを見ていた。
    「えっと……誰だ?」
    「それはこっちの台詞だぜ。お前見たことないし。転入生か?」
     随分不躾な返しだなと思った。よく見ると気の強そうな容貌に、着崩した学生服。これは自分の担当の方の学生だと判断したガストは、少しこの学生に付き合うことにした。
    「昨日寮に入って、今日から授業を受けてる」
    「やっぱりな。お前みたいなのがいたら、とっくに絡んでると思ったんだよ」
    「俺みたいなのって?」
    「さっきの見てた。暴れるアイツの動き、あっという間に封じてたじゃねぇか。動きに無駄も隙もなかった」
     そういう学生の目は、好戦的な色で満ちている。そういう奴か、とガストは思った。昔散々相手にしていたタイプだ。強い相手と戦い自分の実力を試したい、または知らしめたい性質を持つ人間。
    「偶々だって。ほら、人間咄嗟のときは実力以上の動きをしちまうって言うだろ?」
     昔だったら何も考えずに退けていたが、今のガストはヒーローだ。更に潜入調査中。無駄なトラブルは避けなければいけないだろう。そう考えてはぐらかそうとしたが。
    「いいや。俺にはわかるね。お前、ケンカ慣れしてるだろ」
     わかったふりをされても困ると思った。先程の動きだって、昔の動きというよりはマリオンに指導された結果の動きだ。喧嘩とは違う、と思う。確かに多少名残はあるかもしれないが。これ以上否定してもやり取りは変わらないような気がしたので、やや強引に話題を切った。
    「それで、何の用だよ」
     そう聞くと、学生はにやりと笑って答えた。
    「俺と勝負しろ」
     あまりに想定通りの要求にため息をつく。
    「俺達、授業しにここに来てるんだろ? そんなことするためじゃねぇと思うけど」
    「楽しむことも大事だろ?」
    「それが勝負だって?」
    「勿論」
    「悪りぃけど、俺は楽しめねぇから無理。他を当たってくれ」
     きっぱりと断ると、学生は不満の色を見せる。
    「他の目ぼしいやつとは大体やってる。しかも皆大したことねぇし。俺は強いヤツとやりたいんだよ」
    「俺は強くねぇから」
    「……つまんねぇ。バーサーカー化したヤツらもすぐ眠っちまうし」
    「おいおい、そりゃ不謹慎てやつだぜ」
     過激な発言を思わず窘めたが、あの現象の話が出たのはチャンスだ。何か情報を仕入れられるかもしれない。
    「お前、今日みたいになった学生のこと、他にも知ってるのか?」
    「全寮制の狭いスクールだぜ。あっという間に話は広まる」
    「ふぅん……俺今日初めて見たからびっくりしちまったんだけど。そいつらがなんであんなことになったのかとか、何か知ってるか?」
     ほら、俺も気を付けたいし。もっともらしくそう言ってみせると、その学生は肩をすくめた。
    「さぁな。いきなり始まるから知らねぇ」
     空振りだった。ガストは肩を落とす。あのビリーでも詳細が掴めなかったのだ、やはりそう簡単にはわからないということだろう。ならば、これ以上の話は無用だ。
    「じゃ、俺なりに気を付けることにするよ。ありがとな」
    「待てよ、勝負」
    「しないって」
     学生が食い下がってきたが、これ以上話を長引かせる気のないガストは、取り合わずにその場を去った。

    *****

     それから二日程は、何事もなかった。ガストもウィルも、ヴィクターが作った小さな装置を持ち歩きながら聞き込みや各施設を調べてみたが、有益な情報は得られない。若干のもどかしさを感じながら、調査を進めていた。
     その日は夕食を取った後に、ウィルとガストで現状を整理することにした。部屋の中央にローテーブルを配置し、今まで見聞きした内容を書き出し広げていく。
    「現象に見舞われた学生が誰かは、大体わかったな」
    「あぁ。だが、確かに共通点が見当たらない……」
     現象が起きたのは先日の件を含めて七件。男女、上級生、下級生様々で、特定の部活動をしていたり、授業を受けていたりということもない。更に、発生した場所もその時によって様々だった。
    「まぁ、敢えて挙げるとすれば発生時は全員一人だったっぽいけど……他にも一人だった奴は近くにいるだろうしな」
    「そうなんだよな……」
    「こりゃやっぱドクターがこの間言ったように、無差別の線も考えた方が良いか?」
    「……かもしれない。だが、だとすると厄介だ。ヴィクターさんの作った装置が使えるのはサブスタンスが出現した直後だろう」
     つまりは、運良くその場に居合わせないと使えないということだ。期限までに、その場面は来るだろうか。
    「これ、当初一週間で言われてたよな」
    「当面とは言われていたけど」
    「見つかんなかったら、延長か?」
    「さぁ……研修との調整次第じゃないか」
     そこで二人共沈黙する。ここまで関わったのだから最後までやり遂げたい気持ちはあるが、先行き不透明のまま過ごすのも消化不良が続くだろう。それに、何も言えずに想いを寄せる相手とずっと居続けるのも、少し辛い。
     この数日で、ウィルの方もガストに慣れてきたようで、かなり態度は軟化していた。流石に笑いかけられるようなことはまだないが、調査を始めた頃よりはずっと自然に会話ができている気がする。自然に会話ができるようになったのは嬉しい。かなり嬉しい。だが、それと同時に好きだという気持ちも大きくなってきてしまって。
     ふとした時に、手を伸ばしそうになる。
     有らぬ事を、告げてしまいそうになる。
     いつまで隠し通せるだろうと、その不安も大きくなってきていた。もしウィルに伝わってしまったら、ウィルは戸惑うだろう。それどころか、今までよりずっと、距離がはなれてしまうかもしれない。それは嫌だった。やはり、なんとしても隠し通さねば。
    「明日また、ドクターのとこ行ってみるか? まぁインカムで常にやり取りはしてるけどさ。顔つき合わせて話すとまた新しい案が出てくるかもだろ?」
    「そうだな」
     不安を切るようにわざと明るい口調でそう言うと、ウィルも賛同してくれた。
    「じゃあ、とりあえず今日は寝るか」
     そう言って勢い良く立ち上がったガストだったが。

     書き出していた紙のうち一枚が、床に落ちていることに気付いていなかった。思い切り踏んでしまい、滑る。

    「うわ!」
    「おい!」
     傾くガストに手を伸ばしたウィルだったが、結局ガストに引っ張られる形となり、二人でバランスを崩して倒れてしまう。辛うじて頭を打つのを避けほっとするガストだったが。

     気が付くとウィルが自分に覆い被さる形で、こちらを見下ろしていた。その距離は、かつてない程、近い。ウィルの体温、匂い、それら全てがはっきりわかってしまう程に。

     そのまま暫し二人で見つめ合ったまま、沈黙した。ウィルはじっとこちらを見つめている。突然の接近に思考停止しかけたガストだったが、ウィルが動こうとしないことを不思議に思い、口を開く。
    「ウィル……?」
     ガストの声が届いたからか、ウィルがはっとしたような表情になり、次いですぐにガストから離れた。
    「……足元、気を付けろ」
    「あ、あぁ……悪りぃ」
     ぎこちなく言う言葉に、ぎこちなく返す。気不味い空気が、その場を支配する。先程の近距離の衝撃からまだ抜け出せないガストは、何故か不味いと思い、口を開いた。
    「あ〜、今思い出したんだけど、俺、今日調べた場所に忘れ物したかもしれねぇ」
    「……忘れ物?」
    「あ、あぁ。すぐ戻ってくる」
    「……わかった。気を付けろよ」
    「おぅ」
     そう言って、ガストは足早に部屋を出た。暴れる心臓に手をやり、深呼吸をする。
    「あっぶねぇ……」
     あまりの近さに、動揺してしまった。あのままあの場にいたら、動揺のままに何かを口走ってしまいそうだった。
    「少し、散歩してくるか……」
     落ち着くまで少し外の空気に当たろう。ガストはそう思って部屋を離れていった。

     この時のガストは必死で、ウィルが覆い被さったまま硬直していた理由については、全く考えようとしていなかった。

    「危なかった……」
     だから、部屋に残されたウィルが、ガストと全く同じ事を呟いたことも、知らなかったのだ。
     ウィルからも、好きだと口を衝いて出そうになっていたことを。
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