イレギュラーな日常朝、目を覚ましたら隣に人の気配。
布団もいつもよりあったかい。
あの忍者か?
いや、でも昨日は全く気配感じなかったし。いる時は僅かに気配があるからわかるし。
じゃあ誰よ。
「銀さんの隣に潜り込む不届者は誰じゃい!」
そう言いながら勢い良く布団を剥ぎ取ると、そこには眠そうに目を開けた高杉がいた。
「はああああ??!!」
「……るせェな………」
「いやだって、何でお前が……」
「そりゃァこっちの台詞だ」
あれ、高杉は高杉なんだけど、ちょっと様子が……そこそこ最近会ったっつーか遭遇したのとは違う気がするんだよね。
冴えてきた脳で高杉の顔を見る。
てかその格好、戦やってた時のじゃん。
一人だけ洋装決め込んでたあの格好ね。
決定的なのは左目が閉じてない事だ。
これってつまり、10年前の高杉だよ。
やべぇよ、頭痛くなってきた……
「おい、お前は銀時だよな? なんだここは? 俺は昨日廃寺で寝ていたはずだが」
「あーっと……驚かないで聞いて欲しいんだけど」
「あァ?」
「ここ、お前の10年後の世界な」
+++
とは言ったものの、あの高杉も流石に驚いていたわけで。けど、俺の姿を見て納得したようだった。てかあいつ、老けてるテメェを見て納得したとか言いやがったんだぜ。ムカつくサラサラストレートの頭をブン殴ってやったけど。
まあ、きっとすぐ元の場所に帰れるだろ。銀魂だし。
って話した結果、俺達は今、朝飯を食っている。
あ、ちなみに新八と神楽は都合良く数日間依頼で帰ってこない。だから俺としてはその間にこいつには元の場所に帰って欲しいわけだ。
そんな事を思いながら、目の前で俺の作った飯を食っている高杉をチラ見する。
すげー無言で食ってるよこいつ。
そんなに腹減ってたの?
てかいつ頃の高杉だよこいつ。
でも俺がお前の未来を語るのはタブーだから一切話さないと言ったから、逆にそれを尋ねるのもタブーな気がするわけよ。
「おい」
「なに」
「飯、まだあるのか?」
「あるっちゃあるけど……おかわりすんの?」
「あるなら欲しい」
欲しいと言いながらお椀を差し出してきた。
確かにあの頃は食べ盛りなのに飯抜かす事も多かったからな……
受け取ったお椀にご飯を多めに盛って高杉に渡した。
+++
二人で家にいたってしょうがねぇし、街でもぶらつくかなと思ったら高杉が着いて行くと言ってきた。
ほんとはここで大人しくしてて欲しかったけど、こいつにゃそう言っても聞かない事はわかってるから渋々承諾した。でも総督服のままじゃ怪しまれそうだから押し入れにあった俺の浴衣でも着せてやった。今は夏だし、違和感はないだろ。違和感ないって言うか、普通に似合いやがるところがムカつく。
ま、変なのに遭遇しなきゃ何とかなる……と思ってたら今日に限って前からマヨとドSの今一番会いたくねぇコンビが歩いていた。
「げ……」
「銀時、どうした」
いやいや、どうしたじゃねーだろ。
お前、あいつらに顔見せたら一番やべーヤツなんだよ。そんなのと一緒にいる俺も怪しまれちまう。
どっか、隠れる場所は……そう思いながら辺りを見渡すと、いい場所があったので高杉の腕を引っ張ってその店に入り、入り口から一番遠くの台に座った。
「はー……あぶね」
一息ついていると、高杉は店内を見渡している。
「銀時、ここは何なんだ? 五月蝿くてたまらねェ」
「ここはな、パチンコ屋っていって……ま、娯楽施設の一つだよ」
「皆座って眺めてるだけじゃねェか」
「一応手も動かしてんだよ。少しやってくか。玉持ってくるからここで待ってろよ」
うーん、この高杉の年齢でパチやっていいのかな。まいっか、少しの間だけだし。
+++
で、今はファミレスにいる。俺の前にはステーキ定食とデザートの巨大いちごパフェ。高杉の前には焼魚定食。
何でって?
それはパチンコで高杉が勝っちまったからだよ。
やり方を説明したら俺との勝負になると思って燃えちまったらしい。ぽっと出のクセに何なんだよこいつ。そんな俺も負けたわけではないのでキリのいいところでパチンコ屋を出てファミレスに来たってわけ。
とは言えここも誰かに会いそうで怖いからなるべく早めに立ち去りたいんだけれども……
「銀時、今日はなかなか豪勢な昼食ではないか」
げ、この声は……
「はー、ヅラかよ」
「ヅラじゃない桂だ。む、そこにいるのは……」
その存在を確認したヅラは目を見開く。
「高杉、なのか?」
「ヅラ……」
「だがちと様子がおかしいな。貴様、若返りの薬でも飲んだのか?」
察しよくそう尋ねるヅラに対し、高杉は俺の方を見る。
「なんだよ、俺が説明しろってか。目で訴えてくんじゃねェぞコノヤロー」
「俺が言って信じると思うか?」
「あー……うん、そうね」
「銀時、どういう事だ」
俺が渋々状況を説明してやった。
「なるほど、朝起きたら隣にか。良かったではないか。後で坂本にも伝えておくとしよう」
「良くねーし、余計な事すんじゃねーぞヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。えーっと、そこの目つきの悪い若いヤツ」
「あァ?」
そう言われた高杉は悪い目つきでヅラを見る。
「このように銀時や坂本とはよく同窓会を開いているぞ。どうだ、羨ましいか」
開いてねーよ。嘘言ってんじゃねー
オメーらが大した用もないクセにうちに勝手に押しかけてくるだけだっての。うちを破壊したり、勝手に飯食っていったりな。
「……こちとらほぼ毎日顔合わせてんだ。同窓会って言われてもピンと来ねェよ」
そう言いながら目の前の定食を食べ進める高杉。
「けどまァ、相変わらず馬鹿やってるってのは伝わった」
定食を食い終えて水を飲んだ高杉は立ち上がってその場を去ろうとする。それを見た俺は慌ててステーキとパフェを食って食事代をヅラに渡し、高杉を追った。
+++
高杉を追って辿り着いたのは川の土手。
天気も良くて昼寝するにはちょうどいい気候だ。
そこに腰掛ける高杉の隣に俺は寝転んだ。
「……別に、着いてこなくたって良かったんだぜ」
「自分ちに現れた知り合いの未成年をほっとけるかよ」
両手を枕にしてぼんやり空を眺めていると、高杉の視線を感じる。
「テメェは変わらねェのな」
「はあ?」
「昨日もそうやって土手で寝てた」
一瞬意味がわからなかったけど、こいつと一緒にいる昔の俺が昨日土手で寝てたって事か。
「そりゃ、同じ人間だし。やってる事は昔も今も変わんねーよ」
もうすぐ夕方になる空がなかなか綺麗だ。
夕方か……晩飯何にすっかな。多分まだ高杉もいるし、こいつが好きそうなのでも作ってやるか。そしたら食材買わねーと。
「さっきの飯処にゃ色んなのがあったけど、やっぱりテメェの作る飯の方が美味ェな」
「何だよ、褒めたって何も出やしないけど、試しに食いたいもんでも言ってみな?」
「……煮物」
煮物ね、んじゃあ肉じゃがでも作ってやるか。
いつ元の時代に帰ってもいいように肉食っといた方がいいだろ。
そんな事を考えながら起き上がって服についた草を払う。
「さて、買い物して帰るか。おめーも付き合えよ荷物持ち」
「そんなに買うのかよ」
「お前のおかげで今金あるし、荷物持ちもいるなら尚更だろ」
そう言いながらスーパーに向かって歩き始めた。
+++
自分の作った飯を美味そうに食ってくれる様は見ていて心地よいものだ。
目の前の高杉はたくさん作った肉じゃがを飯と共にがっつくように食べている。
「よく食うねェ、育ち盛り」
「わかってんなら追加で飯寄越せ」
「はいはい」
それでも神楽に比べりゃ普通だし、何とも思わないけど、こんなによく食う高杉を見たのはいつぶりだろうかと思うとちょっとだけ微笑ましく思える。
「オメー、今日は何もしてねーだろ。昼飯もたくさん食ったのに何でそんなに腹減ってんの?」
「さァな。若いからだろ」
そう言われてなんか腹立ったから頭を殴っておいた。微笑ましく思ったの撤回。ただの生意気なクソガキだった。
「開き直ってんじゃねーぞクソガキ」
しかしいつ戻ってくれるのかね。次寝て起きたら戻ってくれたらいいんだけど。
+++
翌朝。
高杉の布団には誰もいなかった。
念の為家中を見たけど誰もいない。
「はー、一体何だったのかね」
長椅子に座ってため息を吐く。
でも、あいつともうあんな風に過ごす事はないだろうって思ってたら、嬉しかったし、楽しかったけど。
どこぞの神の悪戯か、それとも……
「仲直りしなさいって事かねぇ……」
並んで拳骨でもされなきゃ、難しいかもな。
なんて思いながら顔を洗う為に立ち上がった。
*****
あとがき
銀時が起きたら隣に総督がいた話でした。
表記するなら督銀…?
若い高杉君にはご飯をたくさん食べて欲しかったので、ほぼ食べてるという面白い内容になりましたが、書いてて楽しかったので満足です。
いっぱい食べる君が好きってヤツですね。