2024年銀誕仕事の後、ちょっと一杯飲んでから帰るかって思ったらそんなんじゃ済まなくて、気付いたら家の玄関で転がってた。
そのまま朝になって人の気配がして目が覚めた。
呼び鈴も鳴らずに開いた玄関の先には……
「……なんだ、高杉くんじゃん」
「何やってんだテメェは」
「えっと……寝てた」
「布団で寝ろよ。だらしねェな」
そりゃごもっともなんだけど、それよりも気になる事がある。
「お前、こんな朝っぱらから何しに来たの?」
よいしょ、と起き上がりながらそう尋ねた。
「銀時、でかけるぞ」
「あ? 俺今起きたばっかだし、二日酔いなんだけど」
「歩いて行けるから問題ねェ」
「いや、歩くのも億劫なんだけど」
「じゃあ俺が担いでやる」
「いやいや、それされたら多分吐くから遠慮するわ」
「じゃあ前抱きすりゃァいいのか?」
「それは恥ずかしいからやめて」
だって前抱きって所謂お姫さま抱っこみたいな体勢でしょ?
こいつにそんなのされて街歩かれたら江戸中に広まるわ。しかもそういう時に限って変なヤツに遭遇して絶対めんどくさいもん。
「わかった、行く。その前に顔洗ったりするから奥で座って待ってて」
「あァ」
高杉とどこに行くのか、何をするのかわかんないけど、変な誘いではなさそうな事は察しられたから着いて行く事に決めた。
でも一つ心配事を挙げるとしたら、万事屋どうすんの?
こんな時に限って楽で良い仕事が来たりするんだよねーなんて歯を磨きながら考えていると、
「仕事なら気にしなくていい」
「おわっ! うぇ、歯磨き粉飲んじまった……急に背後に現れんなコラ!」
「これは俺からあいつらに出した依頼だ」
とりあえず歯磨きを終わらせて高杉の方を向く。
「あいつらってお前、いつから仲良くなってんの? あとあいつら何で俺に内緒で依頼受けてるわけ」
「平社員のお前より社長の方が決定権あんだろ。とにかく、俺が今日一日銀時を連れ回す依頼だからな、よろしく頼むぜ」
そうドヤ顔で言われた俺は引き攣った顔をするしかなかった。
+++
高杉に連れられた場所はホテルだった。
いや、ホテルってその、いかがわしいホテルじゃなくて……普通の、でもねぇな……えっと、金持ちが行くような超高級ホテルの方です、はい。
こんな所には流石に行った事ないからエレベーターの中でビビる俺。
「え、高杉くん……これから何が始まるの? 何かの取引?」
「んなワケねェだろ。ほら、着いたぜ」
いかがわしいホテルじゃなかったけど、こんな朝方から高級ホテルのデカいふかふかベッドで俺こいつにいかがわしい事されちゃうの?
そんな事を考えながらエレベーターを降りると、そこはホテルのカフェのような場所だった。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「あァ」
たったそのやり取りだけで店員に案内された場所はとても景色の良い席だった。
無駄のない動きで水とメニューを置いて去って行った店員の背中を見送った後、高杉の方を見る。
「好きなもん頼め」
「は?」
「俺の奢りだ」
そう言われてメニューを見ると、おしゃれで美味しそうなケーキやパフェの写真と共に書かれている値段は一つで大抵四桁だった。
「たっか……!」
「そうでもねェだろ」
しれっとそう言う高杉に小声でこのボンボンめと言っておいた。
まあ、奢ってくれるならいいかと俺も開き直る事にして、とりあえず苺パフェとチョコバナナパフェを頼んだ。
いざ運ばれてきたパフェが眩しくて眩しくてキラキラしている。
「すげー、いい匂いすぎる……」
「よだれ垂れてんぞ」
「いやー、値段が四桁するとファミレスのとは比べ物にならんね。まあファミレスのも美味いんだけどさ」
いただきまーすと言いながら一口食べる。
「うっっま……!」
口に入れた瞬間顔の筋肉が緩みまくった。フルーツはもちろん、ホイップの質も全然違う。マジでほっぺた落ちそう……
「高杉、これめちゃくちゃうまい」
顔を上げて目の前の高杉にそう伝えると、高杉は穏やかな表情で俺を見ていた。
思わずキュンとしちゃったのは内緒にしておく。
「あァ、好きなだけ食え」
「好きなだけって、この後ケーキも頼んでもいいの?」
「あァ」
じゃあ、と言ってその後店員を呼んでこの写真のケーキ全部とアイスティーを下さいと言った。流石に飲み物もないとさ。
いやー、ケーキもアイスティーもめちゃくちゃ美味しくて満足しちゃったよね。
+++
高級スイーツに満足した後、店を出て高杉に着いて行く。
「あれ、このホテルに泊まったりとかはないんだ」
「泊まりたきゃそうするが、また今度な」
「いや、別に泊まりたいわけじゃ……」
高杉と泊まるんだったらホテルよりも旅館の方が良さそうだな、なんて思ったりして。
こいつは騒がしいの好きじゃなさそうだし、いっそ都会を離れた場所に行ってみるのも良いかもしれない。
「何を考えてる」
気付いたら振り返った高杉に見つめられていた。
「んー、一緒に旅行とか行きたいかもって思ってた」
一瞬目を見開かれた後、嬉しそうな顔をする高杉。
「へェ、テメェからそんな事言われるなんてなァ」
「別にどこ行ったっていいだろ。お前ももう追われる立場でもないわけだし」
「そうだな。前向きに検討するか」
そう言って前を歩く高杉の頭に音符が見えるような気がして俺も嬉しくなった。
そんな会話をしている内に次の目的地に着いたらしい。そこは……
「ゲーセン……え、似合わな」
ゲーセンっつうか、某スポッ●ャ的な施設っつうか。
「あんだけ甘味を食ったんだ。運動しねェと太るぜ」
「ンだとコラ」
「脂肪だらけの身体ァ抱くのはゴメンだからなァ」
「上等だ、このゲーセン内のあらゆるブツで勝負しようぜ」
そう言いながら勝負できそうな遊具を探す。
後ろから着いてくる高杉が小さく笑ったのが聞こえた。
……ったく、煽りやがって
まあ、分かってて乗った俺も俺か。
「うおお! 高杉テメェ、いい加減諦めやがれ!」
「テメェこそ負けを認めろ」
「負けてねェから返してんだろーが!」
こんなやり取りをしながらやってるのはバドミントン。
この前にも卓球やったり、ダーツとかビリヤードとか色々やってるわけだけど、結局どこで何をしても勝負となると白熱しちまう俺達。この辺は全く成長してない。
まあ俺達が本気を出すと遊具を破壊しかねないから、そこは加減してるけどね。
+++
「あー疲れた」
「いい運動になって良かったな」
結局勝負は高杉が勝ったからか、前を歩く背中はどことなく上機嫌だった。
いや、俺もギリギリまで負けてなかったよ。今回は勝ちを譲ってあげた、みたいな?
「で、次はどこ連れてってくれんの? 銀さんもう体バキバキなんだけど」
「あの程度でバキバキたァ、運動が足りてねェようだな」
「うっせーよ」
スポッ●ャ的な施設で白熱してたせいか、気付いたら夕暮れ時の空になっていた。
相変わらず行き先を教えてくれない高杉だったが、今度は料亭のような店に着いた。
うん? ここは何かで来た事あった気がするけど何だっけ……
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
本日二回目となるその台詞を聞きながら案内された部屋の襖を開けた瞬間、
『パパパパーン!!』
というクラッカーの音と共にヅラと辰馬が現れた。
「「誕生日おめでとう!」」
驚いて瞬きを二回した。
気付いたら高杉は俺の後ろに回っていて、こうなる事を知っていた顔をしている。
「えっ、と……」
「銀時、お前明日誕生日だろう」
ヅラに言われて誕生日の事を思い出した。
「あ? ああ、そうだった」
ん、でも何で誕生日当日の明日じゃなくて今日祝うんだ?
「予想通り何で今日なんだって顔しちょるぞ」
辰馬がデカい声で笑いながらそう言う。
「高杉、説明してやれ」
ヅラがそう言ったから俺は高杉の方を見る。
「今日は俺達に祝わせろ。明日はあいつらに祝われろって事だ」
なるほど、高杉の行動の意味がようやくわかったわ。
「ちなみに立案者は高杉だぞ。しかし銀時を俺らにも分けてくれるとは、立派な大人になったものだ。なあ、坂本よ」
「確かに、あの頃はワシやヅラが金時と喋っとるだけで睨まれたからのう」
それに対して無言の高杉。それ肯定しちゃってますけどいいの?
「とりあえず中に入るぞ」
高杉にそう言われて中に入ると、美味そうな食事が運ばれていた。
更に上を見ると『第二回攘夷志士同窓会』の紙が貼られている。それを見てハッとした。
「ここ、前変な同窓会した店か!」
「そうだぞ。ちなみに鬼兵隊贔屓の店らしいな、高杉?」
「あァ」
「ちなみに高杉はあの事知ってたんか?」
辰馬が言うあの事ってのは黒子野が絡んでたあの仕組まれた同窓会の事だよな。
「……まァな」
あ、大将知ってたんだ。部下のやる事知ってて知らんふりしてたんだ。
「じゃあお前、部下に白子とヤクルコあげたりしてたわけ?」
「あァ? ンな事するかよ」
あー……じゃああれはあいつが作った書き置きだったわけか。ま、これ以上は聞かないでおこう。
「金時、お前はこっちじゃ」
「だから銀時だっての」
いつものやり取りをしながら言われた場所に座る。
「今日は本当の同窓会じゃ」
「あの時は食事もろくに食べられなかったからな。今日はゆっくりできそうだ」
戦争が終わってからこの四人で飲み会なんざ初めてだからな。これからいつだってできそうだけどね。
「高杉、お前も何か言え」
ヅラにそう言われて高杉は俺を見る。
「銀時、誕生日おめでとう」
「……明日だけどね」
真顔で言われてどう返すか迷ったけど少し茶化しといた。
「高杉、それは乾杯の音頭じゃよ」
辰馬が急いでビールを注いで寄越してきた。
「ぐだぐだになってしまったが銀時の誕生日を祝って乾杯じゃ!」
その直後、部屋にグラスを合わせる音が四つ響いた。
+++
懐かしい昔話やそれぞれ近況を聞きつつ、食事も酒も進んで良い感じに酔いが回ってきた。
皆寝る一歩手前といったところか。
あれ、ここは泊まっても平気な料亭なの?
ま、鬼兵隊が贔屓してるって事だし、きっと高杉が何とかしてくれるよね。
「銀時、何か一言ないのか」
酔ってるヅラがよくわからない事を言ってきた。
「一言って?」
「誕生日だぞ。願い事などはないのか」
誕生日って願いが叶う日なの?
まあ全員酔ってるし、細かい事は気にしないでいこ。今深く考えると頭痛くなるし。
「そうだなあ、俺の願い事は……おめーらが明日も俺を祝いに来てくれる事かな」
明日は多分、かぶき町のやつらが勝手に押しかけてきて祝う気あるのかわかんない事してくるんだろ。そこにおめーらも入ってきてくれたら俺は嬉しいわけよ。
「俺ァ、皆が馬鹿騒ぎしてる景色が見てェよ」
そう言った瞬間、瞼が降りてきて寝た。
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昼前に帰って、万事屋の玄関を開けた瞬間、クラッカーが二つ鳴り響いた。料亭でも同じ目に遭って二回目なのに驚いちまった。慣れねェもんだな。
その後、予想通り色んな連中が来た。
プレゼントだと言ってわけわかんねぇ物渡されたり、食っても大丈夫なのかと思える物も押し付けられた。
そんな中、これまた祝う気があるのかわかんねぇ真選組と鉢合わせたヅラや高杉が何か言い合ってたり、辰馬がデカい声で楽しそうに話してる姿を見て嬉しくなった。
日付が変わる頃にはそんな騒ぎも収まり、今は布団に入る俺の側に高杉がいた。
「また飲み過ぎちまったけど今日は心地いいな」
「だからちゃんと布団に入って寝ろっつったろ」
「そうだけど、そうじゃない」
「あァ?」
「お前もヅラも辰馬も来てくれた」
そう言って高杉を見ると煙管に火を着けて紫煙を吐いた。
「……変な連中だったよ」
「だろ? これ以上ないってくらい変だ。だからこそ飽きねえ」
「そうだろうな」
「その変な連中の中にお前らが入ってくれるのが俺は嬉しいから、遠慮すんなよ」
そう言うと、高杉は煙管に口をつけた後、俺の頭をわしゃと触れてきた。
「変な連中と一緒にするな、と言いたいところだが……たまには入ってやってもいいかもな」
その言葉に素直じゃねーの、と言ったら煙を吹っ掛けられた。
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銀誕2024でした。
大遅刻だけど祝う気はありました。
改めておめでとうございます!
ちなみに同窓会会場の料亭が鬼兵隊贔屓の店ってのは第一回同窓会時にあんな事させてくれてたし……という想像です。