手厚い介抱銀時が飲みに行くと言って夕方出て行ったきり帰って来ない。時計の針は長短共に天辺を指そうとしている。
ため息を吐きながら刀を取り、外へ出た。
+++
銀時が行きそうな飲み屋をはしごし、三軒目でようやく潰れた銀髪を見つける。
「あ、旦那、いらっしゃい」
「いや、飲みに来たわけじゃねぇ」
「わかってますよ。ほら銀さん、お迎えが来たよ」
「ん〜〜オヤジィ、もう飲めねえってば」
「何言ってんだ、迎えが来たっての」
憎たらしい程気持ち良さそうに潰れていやがる。
そんな姿眺めるのも悪くねぇなんざ思っちまうあたり、俺の頭もイカれてんのかね。
「親父、いくらだ?」
「ん、銀さんの会計はこれだよ」
見せられた伝票に書かれた金額より少し多目を机に置き、銀時を引き取る。
「旦那、釣り出すから待ってくだせぇ」
「釣りはいらねぇ」
そう言って店を出た。
+++
銀時の片手を肩に回し、家までの夜道を歩く。
「高杉く〜ん、この体勢じゃ銀さん引きずられてるんだけど〜」
「酔っ払いには丁度いいだろ」
「体が揺れて吐きそうなんだけど〜……うっ」
「テメェ、今吐いたら殺すぞ」
本当に吐かれたら困るので止まってやる。
「ったく、弱ぇのに何でそんな飲み方すんだ?」
「弱くないです〜 今日はちょっと調子に乗っちゃっただけです〜〜」
「調子に乗っただァ? 辰馬と言いテメェと言い、俺の周りにゃゲロ吐き野郎ばっかじゃねぇか」
「あの馬鹿と一緒にすんな馬鹿」
「馬鹿はテメェだろ」
「人の事まともに介抱できないのは馬鹿と一緒だ馬鹿」
言いやがるじゃねぇか。
あとこいつ、そんなに酔ってねぇな。
一丁前に酔ったフリなんざしやがって……と思うと口角が上がった。
「だったら、これから手厚い介抱してやらァ」
そう言って銀時を横抱きにする。
「は? え、ちょっ、おま、この体勢やめろ!」
「酔っ払いにはこれが一番いいだろ。体も揺れねぇし、なぁ銀時ィ?」
「いや、銀さん恥ずかしいからおろして欲しいんですけど!」
「聞こえねぇな」
「返事してるじゃん! 聞こえてるじゃん!」
所謂お姫様抱っこをして夜の街を闊歩してやった。
「月が綺麗な夜だなァ、銀時」
それに対して返事はなかったが、観念したのか、騒ぐ方が目立つ事に気付いたのか、腕の中の銀時は大人しくなった。
+++
「は〜〜マジで最悪だったわ……」
すっかり酔いも冷めたのか、万事屋の長椅子に座って首を垂れる銀時。
そんな銀時を尻目に煙管を吸っては紫煙を吐いた。
「手厚い介抱だったろ?」
「うっせぇゴリラ!」
「あァ? ゴリラは真選組の長だろ」
「オメーは腕力がゴリラだっつってんの」
「そうかい、そいつァ褒め言葉として受け取ってやらァ」
しれっとそう返すと、銀時は一旦黙る。
座り方を変え、窓の外を見ながら再び口を開いた。
「……さっき居酒屋で、飲み合わせた客がお前の事褒めててよ」
「褒める?」
「あぁ、出来た人だって言ってた。それ聞いて調子に乗って飲んじまった」
調子に乗ったのは本当の事だったのか。
そしてそのネタが俺であったと。
「お前は悪名高いテロリストだったけど、こうやって俺の好きな街に馴染んで、皆が褒めるのを見たりするとやっぱり嬉しいもんだぜ」
そう言ってこっちを見て笑う銀時。
月明かりに照らされたその表情を見た俺は、煙管を持つ手を遠ざけながら銀時に近付き、唇に触れた。
つまり、酔ったフリして俺が迎えに来るのを待ってたってわけか。随分と健気じゃねぇか。
*****
酔った銀時を高杉が連れて帰るお話。
よく見かけるけど、書きたくなるシチュですね。