鬼兵隊が万事屋に来る話万事屋兼銀時の自宅で暮らす事になって数ヶ月が経った。
今日は武市とまた子が来る日だ。
俺がここの住人になっても鬼兵隊はなくならなかった。俺はもう総督ではないし、なくすならそれで構わないと言った。だがまた子がなくしたくないと言った。だったら今までの鬼兵隊らしくなくてもいい、それこそ万事屋みたいな仕事でもいいから武市とやってみればいいと伝えた。
俺も影ながらアドバイスをしたりして、今に至る。
そんな二人の為に菓子折を買い、銀時に頼まれた物も買ってから自宅に戻った。
玄関の音で気付いたのか、銀時が台所から顔を出しては近づいてきた。
「おかえり〜 買えた?」
「これでいいのか?」
頼まれた物は菓子用の洋酒。
「そーそーこれこれ。ありがとさん」
洋酒を受け取った銀時は台所へ戻る。俺は履物を脱いで奥へ進んだ。台所からは色々な料理の匂いがする。
「銀時、何作ってんだ?」
「んー、色々。あいつらの好きな物わかんないから、和洋中にデザートまで。俺ってばやっさし〜」
「武市やまた子の為に料理作ってんのか?」
「そうだよ。お前ら外食しにくいだろ? だったらここで食いながら喋ればいい」
そう言いながら楽しそうに料理する銀時の姿を眺める事にした。
「そういや味付けとかうちで言ういつもの感じにしちゃったけど、薄い方が良かったとかあんの?」
「お前の味付けならあいつらも文句言わねぇだろ」
「じゃあ文句言われたらお前のせいね」
「あぁ、賭けてもいい」
そう言ってやると、銀時は苦笑する。
「俺の料理を賭け事に使うなっての。あ、デザート作ったから、もし菓子折買って来たなら持って帰ってもらえよ」
「ん、そうする。あとここの家の分も買ってきた」
「えっ、何の菓子折?」
「いつもの和菓子屋で栗入りどら焼き」
「マジか! 栗入りって高級なヤツじゃん」
「後で食いな。神楽達の分も取っておけよ」
そんなやり取りをしていると、呼び鈴がなったので玄関へ向かい、扉を開けた。
「よう、時間通りだな」
「晋助様! お変わりないようで」
「あぁ、お前らもな。立ち話もなんだ、中入れ」
短い立ち話の後、二人を奥へ案内した。
「晋助殿、こちらをどうぞ」
「菓子折か、ありがとうよ。俺からもあるぜ」
そう言ってさっき買ってきた菓子折を渡す。
「わー、晋助様の菓子折! いつも美味しいっスよね」
「ここに住んでから誰かさんのせいで甘味の知識は上がっちまったよ」
チラリと銀時の方を見ると、丁度お茶を持ってきたヤツと目が合う。
「誰かさんのおかげで、だろ?」
そう言いながら人数分のお茶を置く銀時。
「はい、遠路遥々ご苦労さん。ところでお前ら腹減ったよな? まさか途中で食ってきたとかねぇよなァ?」
銀時は鬼のような形相でそう問う。
「えっ、な、何も食べてないっスけど……」
また子の返事を聞いて表情を戻す銀時。
「外食しづらいお前らの為に、銀さんが腕に寄りをかけて料理してやったんだぜ。今持ってくるから懐かしい話でもしながら待ってな」
そう言って台所へ戻る銀時の背を眺める二人、そしてそんな二人を見る俺。
「えっ、白夜叉が私達のためにご飯を?」
「らしいなァ」
「坂田殿の料理、晋助殿も美味しいと仰っていましたよね」
「あァ、多分お前達の口にも合うと思うぜ。和洋中にデザート付きらしい」
「デザート! ちょっと楽しみかもっス」
また子も年頃の娘だもんなァ。
なんて思っていると、銀時がテキパキと料理を机に並べる。
「うわ、すっご! これ全部あんたが作ったっスか?」
「そーだよ。お前らの好みがわかんないから和洋中全部用意した」
武市も料理を見て驚いている。
「これは驚きましたね。私は和食以外苦手なのですが、味次第では教えていただきたいものです」
「気に入った味があったらまた作るから、帰る時にでも教えてくれよ。デザートもあんだけど、それは食事が終わったら高杉君が出してくれるから」
「聞いてねェよ」
「これから伝えるっての。俺は家出るから、ちょっと来てくんない?」
そう言われて銀時に着いていく。
「冷蔵庫にケーキがある。皿に盛ってあるから、頃合いを見てこのまま出せばいい」
「わかった」
「紅茶や珈琲が飲みたきゃお茶と同じ棚にあるから淹れてやれよ」
「あァ。お前、どっか行くのか?」
「折角昔の馴染みがいるのに、部外者がいたら物騒だった頃の話もできねーだろ?」
全く、変な気ィ遣いやがって……
「……別に、いたって構いやしねェよ」
お前がいようがいまいが、話す内容なんざ変わりゃしねぇのに。
「白夜叉!」
話を聞いていたらしいまた子が銀時を呼ぶ。
「あ?」
「あんたが良ければ、一緒にいて欲しいっス」
「え?」
「晋助様とあんたの話が聞きたいっス。昔話でも、最近の話でもいい」
それを聞いた銀時は少し考えた後、笑いながら口を開いた。
「それじゃあ、いようかな」
俺はそんな銀時と共に部屋に戻り、長椅子に座った。
+++
銀時の食事はあっという間になくなり、デザートのケーキを食べながら語り合っていた。
また子が俺の昔話を知るのが楽しいらしく、銀時が俺の勝負の事や村塾での出来事を話す。
「……てか、俺ばっか喋ってるけどいいの?」
「私は色んな晋助様が知れて嬉しいっス。立場上武市先輩には話されてたのかもしれないっスけど」
「ま、過去の話なんざ自らはあまりしねェよな、晋助様」
「お前だって新八や神楽に自ら白夜叉の話なんざしねェだろ。だからあいつらお前がいない時俺に聞いてくるぞ」
そう言うと、銀時はあー……と言いながら髪を掻いて苦笑する。
「そうだなあ……てか、あいつらお前に何聞いてくんの?」
「白夜叉の頃はどんな雰囲気だったとか、今と変わらないのかとか」
すると紅茶を飲んだまた子が口を開く。
「あの二人も私と同じ気持ちなんじゃないかな。好きな人、尊敬する人の事は何でも知りたいんスよ。私は晋助様と白夜叉の勝負の話が聞けたのと、今の晋助様が楽しそうにされてて嬉しいっス」
嬉しそうにそう言うまた子に釣られて笑う。
和やかな雰囲気に包まれたところで時計を見た武市が立ち上がる。
「また子さん、そろそろ帰りましょうか」
「え、もうそんな時間っスか?」
「ええ、タイムセールが終わってしまいます」
「あ、そうだ!」
そう言ってまた子も立ち上がる。
「タイムセールね。てか、お前らも普通の生活してんだな」
「べ、別に貧乏ってわけじゃないっスけど、やっぱり安く買えたら嬉しいじゃないっスか」
「そりゃそうだ」
バタバタと玄関まで行き、見送る。
「晋助様、また来ますね」
「あァ」
「白夜叉、料理美味しかったっス。デザートの作り方、今度教えて欲しいっス」
「坂田殿、私も洋食と中華を教えていただきたいです」
「おう、いつでも来な」
「では我々はこれで……」
玄関の扉が閉まったところで銀時が息を吐いた。
「さて、片付けすっか」
「洗い物、するか?」
「えっ、やってくれんの?」
「あァ」
「じゃあお言葉に甘えてー」
そう言って銀時は皿を台所に運んだ後長椅子に腰掛け、俺は洗い物を始める。
「高杉ー」
「何だ?」
「今日は神楽達もいねぇし、外食にすっか」
「さっき食ったばかりだろ」
「夜だよ。俺今日はもう作りたくねえ」
あんだけ作りゃそうだよな。作った分は全部平らげたからその残りもないようだし。
「わかった」
「よし、今日は飲むぞ」
酒強くねェくせに何言ってんだか、と思いながら皿洗いをする俺。
「銀時ィ」
「んー?」
「俺の賭けは当たっただろ?」
「ははっ、そうね。全部食ってくれて嬉しかったよ」
銀時は照れた顔をしてそう言う。
「何か寄越せ」
「だから俺の料理を賭け事に使うなっての。景品なんかねぇよ」
「テメェの唇でいい」
洗剤で洗った最後の皿をカゴに置きながらそう言ってやる。
「お、俺の唇は物じゃねぇ……」
モゴモゴした口調でそう言う銀時に近づいた。
「皿洗いは?」
「もう終わった」
返事をしながら銀時の顔を見る。
赤くなっているのがわかりやすくて思わず笑った。
「笑ってんじゃねーよ」
……可愛いなァ
そのまま顔を近づけて口づけをした。
今は触れるだけですぐに離れてやる。
「ごちそうさん」
「……テメェにしちゃ短くね?」
「長いのは夜までとっとくぜ。それとも今が希望か?」
「いや、いいです。遠慮します」
丁寧に遠慮した銀時の隣に座り、煙管に火を着けた。
窓の外を見ると夕暮れ時の街が見える。
夜が待ち遠しいと思いながら紫煙を吐いた。
*****
全部終わった後また子ちゃんと武市さんも万事屋に来て欲しいなあと思って書いたお話。
鬼兵隊の面々も他の皆と仲良くなって欲しいな。
銀さん器用だから何でも作れそうだと思ったんだけど、洋食と中華はどうなんだろう。簡単なものなら作れそうかな。