多勢に無勢万事屋の長椅子に座って一枚の文を眺めていた。
「依頼か?」
隣に座る高杉が顔を寄せてそう尋ねる。
「あー……うん。なんか、港で秘密裏の取引を止めに来て欲しいって」
「そいつァ頼む場所間違ってねェか。万事屋じゃなくて警察だろ」
「警察に言いづらいヤツなんだろ。ま、たまにあるよ、こういうのも」
そう言いながら文を封筒にしまい、社長机の引き出しに入れる。
「行くのか?」
「貴重な依頼だしね。でも俺一人で行ってくる。神楽達には飲みに行ってるとでも伝えといて」
木刀を腰に差して玄関に向かった。
高杉からの鋭い視線に気づかないフリをしながら。
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港の倉庫に着いた。依頼主からの指定の場所だ。
広い倉庫の真ん中辺りまで進むと、依頼主が現れる。見た目は正にチンピラを表したようなチンピラだった。
「あんたらが依頼主さん?」
「そうだ。万事屋、お前一人で来たのか?」
「文にそう書いてきたのはそっちでしょ。俺は指定された通りに来ただけですけど」
「律儀で助かるぜ。なァ、テメェら」
すると前後左右からそいつの下っ端が各々の武器を持って姿を見せる。最初から気付いてたよってのは言わないでおいた。
「依頼って何? 秘密裏の取引を止めるんじゃなかったわけ」
「取引ならあるぜ、お前の息の根を止めるっていうヤツがな!」
その言葉が合図となり、下っ端が俺に向かってくる。やっぱ俺だけで来て良かったな、と思いながら容赦なく木刀を振った。
だが、敵が弱かろうが数が多いと擦り傷はついていく。あと背中がな……流石にそっちにゃ目ェついてないし。そこだけがちょっとな、と思いながら木刀を振っていたらやっぱり背後から銃声。あ、これ体のどっかに当たるわって思ったけど、背後に見知った気配を感じて口角が上がった。同時に銃の弾が弾かれる音がする。
「何、銀さんが心配で来てくれちゃったわけ?」
「まァな。案の定傷負ってやがる」
「擦り傷だっつの」
「擦り傷だろうが、俺のモンに傷付けた奴ァ容赦しねェ」
今背中合わせてるから高杉の表情は見えないけど、多分おこだね。こりゃ黒い獣が蘇っちゃったかな。でも正直助かった。これで一切負ける気がしなくなったんだから。
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俺と高杉で敵を倒しまくり、最後に残ったのは依頼主だった。
「さて依頼主さんよ、あんたの計画は失敗のようだぜ。大人しくお縄につきな」
木刀を向けてそう言い放つ。
「へっ、まだだ!」
「あら、そんなに俺に恨みがあるわけ?」
「うるせェ! テメェのせいで今まで色んな計画が台無しになったんだ! これでもくらえ!」
そう言いながら大きめの爆弾が投げられる。だがそんなもの、俺達の前ではただのオモチャだ。高杉の刀が真っ二つにした。それを見たヤツは驚愕の表情を浮かべている。その間に近づき、依頼主に木刀を振った。
「はー終わった終わった。さて警察に連絡して帰るか」
「その必要はねェよ。もう来てる」
そう言った高杉の視線の先には隊服を着た土方と沖田が立っていた。
「高杉君、いつの間にこいつらと仲良くなってたの?」
「仲良くなんかねェ。テメェが出た後にあの依頼内容を伝えただけだ」
刀を鞘に納めながらそう言う高杉。
「いやー、あんな大勢をたった二人で、しかもまったく無駄のない動きで倒しちまうとは、流石伝説のお二方でさァ」
そう言うのは沖田だ。君は見ていて楽しかっただろうね。
「是非俺とも手合わせお願いできやせんか?」
高杉の方を向いて楽しそうにそう言った。
「おい総悟、面倒事を増やすのはやめろ」
隣でそう言う土方。すると高杉は口角を上げて沖田の方を向く。
「いいぜ、相手してやるよ」
「えっ、お前がそんなのに乗るなんて珍しいじゃん」
「制限時間は銀時の手当てが終わるまでだ」
そう言いながら高杉は刀を構える。
「じゃあ土方さん、旦那の手当てはゆっくりで頼みますぜ」
沖田も刀を構えた。
「ちょ、待て!」
「止めるのはもう無理だから大人しく手当てした方がいいよ、土方君」
そう言いながら俺は傷を見せるように土方の方を向いた。大人しく手当てされながら二人の手合わせを眺める。
「あいつら楽しそうだね」
「ったく総悟の野郎、帰ったら始末書だな」
「例の法度破ったから? いいじゃん今日は、許してやれよ」
「……ふん」
そんな会話をしながらもテキパキと手当てを進める土方。
「こんなもんでいいか?」
「ん、ありがと。おっ、向こうもちょうどキリが良さそう」
「総悟! その辺にしておけ!」
土方がそう言うと、沖田は刀を納める。
「いやー、久々に熱くなりやした。近い内にまた頼みます」
「気が向いたらな」
同じく刀を納めた高杉がこっちに来て土方を見る。
「おい、もう帰っていいのか?」
「ああ、後は俺達でやる。通報ありがとよ」
「あァ。銀時、帰るぞ」
「おう」
そう返事をし、すたすたと前を歩く高杉について行った。
+++
夜の港を二人で歩く。月が浮かんでいるように見える海はなかなか綺麗だ。
「沖田君はどうだった? やり合ったの初めてだろ」
「ま、良い筋してんじゃねェか」
「だろ。俺もそう思う」
そう言って笑うと、前を歩く高杉が止まってこっちを向いた。
「だが、やっぱりテメェとの手合わせが一番だな」
昔から変わらない挑発的な笑みを見せる高杉。
「もう追いついてるだろ、いつまでやるつもり?」
「そうだな、もう肩並べて手も取って歩けるが、剣交えるのは別モンだ」
いつまでも俺との戦績覚えてるヤツ、だもんな。
「熱苦しいヤツ」
「テメェ限定だ」
そう言って高杉は手を差し出してきた。
「ま、嫌いじゃないけどね」
そう言って俺はその手を重ねる。
そのまま静かな港を二人で歩いた。
「高杉、折角だからこれから飲みに行こうぜ」
「怪我人が酒なんか飲むんじゃねェ」
「こんなの怪我の内に入らねーよ」
効果があるかわかんないけど、半分ふざけて高杉の腕に擦り寄ってみる。すると少しの間じっと見られた。
「……一杯だけだ」
お、意外とちょろい……
そんな一面が見れたのは良い収穫だった。
「ちょろ杉君だね」
「何か言ったか」
「いや、何も〜」
今度パー子の依頼があったらあそこの従業員に効果的な甘え方でも聞いてみるか。
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銀時と高杉がたくさんの敵(弱いチンピラみたいなの)を息ぴったりで倒していくところを真選組が目撃する話というネタでした。
銀時ならチンピラ程度なら一人でも背後からの攻撃なんぞ避けられるかもしれないけど、流れ的にこうしないと高杉と一緒に戦えなかったので…違和感あったらすみません。