風邪引きスティーヴィ季節は初秋。
日中はまだ暖かいが、朝晩の空気には少しずつ冷たさが混じり始めていた。
そんなある日、スティーブは授業中から明らかに調子が悪そうだった。顔色が優れず、咳も出ている。
「おいおい、顔真っ白じゃねぇか。まさかまた病弱キャラに逆戻りか?」
放課後、部屋に戻って来たスティーブに、バッキーはそう茶化しながらも、どこか本気で心配そうな顔をしていた。
「大丈夫だよ……ちょっと寒かっただけで……」
ふらつくスティーブをベッドに押し倒すように寝かせると、バッキーは「やれやれ」と呟いて毛布を引き寄せる。
「もやし野郎はやっぱもやし野郎だな。ったく、俺が見ててやんなきゃダメだな」
翌朝、スティーブの熱は少し下がっていたが、まだ本調子には程遠い。
そんな中、寮の友人たちが部屋の前にやって来て、バッキーを遊びに誘う。
「今日は街に出て、ちょっと遊ばないか?映画とか見に行こうぜ。」
「お前がこの前言ってたバーガーショップ、オープンしたみたいだぜ!」
バッキーは一瞬迷ったが、ベッドに寝ているスティーブを見るとすぐに答えた。
「悪い。今日は無理だ」
「えー?なんだよ、親友の付き添いか?熱くらい一人でなんとかできるだろ。保護者かよー」
軽く言うクラスメイトたちに、スティーブが申し訳なさそうに口を開いた。
「バッキー、大丈夫だよ。僕のことはいいから……行っておいで。だいぶ良くなってきたし」
その言葉に、バッキーはふっとため息をついて、スティーブの額に冷えたタオルを乗せ直した。
「……バカ。大事な親友放っておいて行けるわけねぇだろ」
そして、少しだけ照れくさそうに笑った。
「それに……あの時のお返しもしなきゃならねぇしな」
あの時。そう、スティーブが初めてパーティに参加した日、自分が体調を崩して彼が最後まで付き添ってくれた日のことを、バッキーはちゃんと覚えていた。
スティーブはその言葉に驚きつつも、胸の奥があたたかくなるのを感じた。
「ありがとう、バック……」
「ったく、しょうがねぇな。寝てろ、清涼飲料水でも持ってきてやるよ」
親友。――その言葉が、少しだけ苦く感じる。
熱でぼんやりする頭の奥に、重く沈んだその響きだけが鮮明に残る。
自分とっては「親友」なんかじゃない。いや、それだけではいたくない――そう思ってしまう自分の気持ちに、スティーブは静かに目を閉じた。
熱のだるさや喉の痛みよりも、その一言の方がずっと心にのしかかる。
バッキーの優しさが嬉しい。でも、それが“親友としての”優しさだと思うと、胸が締めつけられるように苦しい。
それでも――
「でも、今はそれでもいい」
スティーブは心の中でそっと呟いた。
こうして少しずつでも、距離を近づけていけるなら。
今はまだ、親友のままで構わない。
この優しさに触れていられるなら――