キスの日 (ポカぐだ♀) レイシフト先、木陰でぼんやりと煙草をふかしていた。あらかたエネミーは一掃したからしばらくは暇だろう。
マスターは今日の野営を準備し終えたらしくこちらにやってきた。
「ねぇ、テスカトリポカ、キスして」
悪戯っぽい表情でキスをねだるマスターを見て、テスカトリポカは思案した。これ、どういうキスをすればいいやつだ?
ベッドの上でするようなやつか? それとも額へ祝福するような軽いやつか? はたまた、触れるか触れないかのお子様向けのやつか。
「どんなキスがお望みなんだ? お嬢。ちゃんと言えたら叶えてやっていいぜ」
からかうように返してやるとマスターの頬が一気に紅潮して硬直した。なるほどね。考えなしのおねだりということか。
それとも性的なキスをお望みとか? だったら、おねだりの一つも言えないなら試練は落第だろう。
「時間切れ。お嬢はお嬢らしくお子様のキスで我慢しな」
顎を掴んで引き寄せて頬に唇を落としてやる。
「大人になったらちゃんとしたやつをしてやるさ。ま、ねんねのオマエにはしばらく無理だろうがね」
頭をわしゃわしゃと撫でたら不服そうに頬を膨らませた。
何度寝たら大人になるんだろうかね。この娘は。テスカトリポカはキスの仕方くらい教えたはずだが、こちらの才能は恵まれなかったらしい。
「ちゃんと大人だよ」
憤慨した表情で言うや、顔を近づけてきたマスターは背伸びしてキスをした。それも舌を入れて絡めるような濃厚なやつを。
「女の子はすぐに大人になっちゃうんだから!」
なるほど。こちらが見くびっていたらしい。本気を出していいと理解して、再びのキスを首筋に落とす。
敏感な首筋にキスしてやるとマスターは脱力した。腰が抜けたらしい。
「ほらな、まだねんねだって言ったろ。修行が足りないな」
頬を膨らませて不服を表現する小娘をひとしきりからかった。
一人になってから先ほどのキスを思い出していた。初めての時はキスも碌にできなかったのに今はいっちょ前に男女のキスを覚えていたことに愉悦を感じた。
悪くない。