すてきなおしごと「6じまであと…」
ミスタは時計を指差しながら1、2、3、4と細かい目盛りを数えていた。
「…10ぷん!あと10ぷんでシュウがかえってくる!!」
シュウは今日部活や委員会が無いからすぐ帰ってこれると言っていた。
「ミちゃ、おかたづけしなきゃ!」
シュウにもう直ぐ会えると気づいてからミスタは鼻歌交じりに机に広がる色鉛筆を箱に仕舞っていた。
「あ…シュウの色がちいさくなってる。」
無くなる前にシュウに言わなきゃ、と考えた瞬間玄関から音が聞こえた。
シュウだ
「シュウ!!!」
「ただいまミスタ」
廊下を走りシュウに抱きつくとシュウが頭を優しく撫でてくれた。
「ミスタいい子にしてた?」
「ミちゃね、シュウの絵かいてたの!ミちゃと一緒にゆうえんちにいく絵なの!」
シュウはミスタに手をぐいぐい引っ張られながらリビングに入っていった。
シュウとミスタは4年前両親を事故で亡くしていた。一時的に叔母に引き取られたものの両親と仲が悪かったのか二人への嫌がらせが絶えなかった。そしてミスタに手を上げられた時耐えきれずに元住んでいた家へと帰ってきたのだ。
つまりふたり暮らし。生活費を自分たちで賄わなければならなかった。
「ミスタ、味見屋さんしてくれる?」
「するーー!!」
シュウは小皿にトロッとしたルーを乗せミスタに手渡した。
「カレーだ!ミちゃカレーだいすき!」
小皿のルーをペロッと舐め、ん〜!と顔を綻ばせるミスタにシュウは暖かい気持ちになった。ミスタは僕が守らなきゃ。
短い針が9を指している。お布団に入る時間。そしてもうちょっとでシュウが出掛ける時間。シュウはいつも結んでいる艶のある髪をおろしている。心なしか唇もほっぺもピンク色になっていた。よるのシュウはきれいでなんというか、みりょくてきだった。
「シュウはなんのおしごとしてるの?」
眠りに付くまでの時間はシュウとのお話タイムだ。お布団の中が暖かい。上下の目蓋が仲良くなってきた中ミスタはふと気になっていたことをきいた。シュウの顔は暗くてよく見えなかった。
「………春を売るお仕事かな。」
春。はる。暖かくなり始めてお花もちょうちょにも会える季節。ミスタは春が好きだった。
「すてきなおしごとだね。」
ミちゃもやってみたい、と声にしたはずがシュウには届かなかった。
目の前が真っ暗になって体が意識が暖かい沼に落ちていく。遠くでシュウの声が聞こえた。
「おやすみミスタ。」