マーヴェリックとルースターが乗ったF−14が着艦し大勢のクルーが歓喜に湧くなか、ボブはすっと物陰に消えて行くハングマンに気づいた。
先程までルースターと握手を交わし自分達とも帰還の喜びを分かち合っていたのに、周囲に何も言わず消えていく姿が妙に気になってその後を追いかけた。機材に囲まれて死角になっている場所にハングマンの後ろ姿を見つけて、ボブは声をかける。
「……よぉ、ベイビーじゃねぇか。救世主にまだ礼がしたりないのか?」
ハングマンはいつもの表情に、いつもの言い回しをしながらボブの方に振り返った。けれどボブは見逃さなかった。後ろに回された彼の手が小さく震えていたことを。
「おい、どうした? 俺が凄すぎて言葉もでな」
何も言わないボブにハングマンはさらに話しかけようとしたが、その言葉を遮ってボブはハングマンの首に手を回しぎゅっと身体を抱きしめた。
「ボブ、お前……」
「ありがとうハングマン。彼らを救ってくれて」
すぐに跳ね除けられるかと思っていたが大人しく抱きしめられているハングマンにボブは静かに礼を言う。ボブにとってもハングマンは救世主だった。
「僕はルースターに『彼はもういない。死んだんだ』としか言えなかった」
「それがお前に求められたものだろ。……大佐は分かってたんだ。お前なら冷静に判断をしてルースターを止めるだろうって」
間違った判断はしていないと思っているが、ボブはマーヴェリックを諦めたことを、ルースターを止めきれなかったことを心のどこかで後悔していた。止めることも後を追わないことも軍人として正しいことだとしても、一人の人間として仲間を救いに行けない自分の無力さを呪った。フェニックスだって、ペイバックとファンボーイだって同じ気持ちだった。だからこそ諦めずに何度も出動を要請し二人を救ったハングマンはボブの、みんなの心も救ったのだ。
「止めることが僕の役割なら、きっと大佐は心のどこかで君なら最速で駆けつけてくれるって分かってたんだよ。君は選ばれたんだ、彼らの救世主に」
「っ……ベイビーのくせに大層なこと言いやがって」
抱きしめているので表情は分からないが、少し鼻にかかった声でハングマンが憎まれ口を叩く。肩のあたりが少し温かく感じるのは錯覚ではないだろう。
彼も怖かったはずなのだ。無線から聞こえる叫び、マーヴェリックの言葉、響く警告音。見事救出を成し遂げたその凄さの影で、間に合わなかったらと感じた恐怖はそう簡単に消えるものではない。
「大丈夫だよ、君はやり遂げたんだ。ハングマンのおかげで僕達はこうして笑っていられる。……ありがとう、みんなの心も救ってくれて」
ボブがより力を入れて抱き締めるとずっと早かったハングマンの鼓動がゆっくりしたものなっていく。そしていつの間にか震えの止まった手が、優しくボブの背中にまわされた。
自信家で嫌味ったらしくて無神経なハングマン。でも実は情に篤くて仲間のために命を張れるのに弱い部分は見せられない不器用なハングマンを、ボブはこの瞬間とても愛おしく感じた。