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    totoro_iru

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    totoro_iru

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    少し前に(新八くんのグッズ少なくない?)って思ってた気持ちを形にしたやつです。みんなテンションがおかしい

    今年はたくさんグッズが出て嬉しいです!

    営業は笑顔と頭脳と、そして根性社会人3年目の田中は商談スペースである会議室のドアを開けた。

    「ただいま戻りました」
    「お疲れ。ありがとな、わざわざ買いに行ってくれて」

    会議室で資料を確認していた山本は田中より2年先輩だ。

    「大丈夫です。それに『商談を有利に進めたいなら相手の好きな物を把握しておけ』って教えてくれたのは、山本先輩じゃないですか」

    そう言って田中は机にフルーツタルトの箱を置いた。このタルトは1ピース1000円以上する事もある有名店の物だ。しかし、この商談が上手く運ぶためならば多少の出費はしょうがない。

    「そうだな」

    山本は目の凝りをほぐすように目頭を押さえた。相当今回の商談に向けて気合いを入れてきたのだろう。無理もない。何しろ今回の商談相手はたいそう弁が立つ上に、自身の考えを頑として譲ろうとしない事で有名だった。

    「でも、きっと上手くいきますよ。前任の鈴木さんも何回か相手からの承諾を勝ち取ってきたじゃないですか」

    田中はタルトをお皿に移しながら言った。

    「そんな簡単な話じゃないんだよ」

    苛立たしげに山本は田中を睨んだ。いつも気さくな山本の厳しい表情に、田中は慌てて「すみません」と謝った。

    「鈴木さんは何年も根気強く相手にプレゼンを重ねて商品化に繋げたんだ。ポッと出の俺たちの話を聞いてくれるかすら怪しいぞ」

    思い詰めるような山本の声色に、田中は今回の商談が今までで一番難しいのだと思い直した。しかし、今まで自分と山本先輩が組んで負けた商談は一度もなかった。だから、今回だってきっと乗り越えられると田中は気楽に考えていた。

    「すみませぇん。電話もらった万事屋ですけどぉ」

    ドアが開いて、銀髪の男が会議室に入ってきた。山本と田中はスッと立ち上がると満面の笑みで立ち上がった。

    「お世話になっています、坂田さん。どうぞおかけになってください」

    銀時は促された席に腰を下ろすと、田中が銀時の目の前にフルーツタルトを置いた。

    「前任の鈴木から坂田さんは甘い物がお好きだと伺っていましたので、ご用意致しました。どうぞ召し上がってください」
    「いいの?わりぃねぇ。んじゃ、ありがたく」

    そう言って銀時はタルトを美味しそうに食べ始めた。よしよし良い雰囲気だと山本と田中は目配せをした。

    「坂田さんは甘い物以外にもお好きな物とかあるんですか?」

    山本は極めて穏やかな声で銀時に尋ねた。

    「好きなもん?甘いもん以外だったら酒かねぇ」
    「いいですよね、お酒。私もビールが好きでよく飲むんですよ。坂田さんは日本酒ですか?」
    「日本酒も美味いけどそんな高ぇ酒飲めねぇから、よく飲むっつったら俺もビールだな」
    「そうなんですね。安く飲めるお店知っているので後で教えますよ。そういえば、最近この近くに一人1000円で食べ放題の焼き肉屋ができたのご存知ですか?」
    「いや、知らねぇわ」
    「本当は一人3500円するんですけど、ファミリープランだと1000円になるそうなんです。私それ知らなくて、うっかり後輩5人に『奢ってやるよ』って連れて行ったらエライ目にあいましたよ」
    「はは、そりゃあ災難だ」
    「はい。坂田さんはご家族で焼き肉行ったりするんですか?」
    「ああ。羽振りの良い依頼料が出た時とかにな」

    長めの雑談をしながら、少しずつ本題に切り替わるスキを伺う。相手の警戒心を解きほぐし、いかにこちらに有利な雰囲気を作り出さなければならない。山本の手は汗でひどく湿っていた。

    「それでは今回の依頼料で、ぜひご家族全員で焼き肉行ってください」

    田中の発言に、銀時の眉がピクリと動いた。てめぇ馬鹿野郎!と山本は田中の頭を殴りたい気持ちに駆られた。

    「まぁ、それは今回のオタクの提案次第だろうな」

    銀時はニタリと意地悪い笑みを浮かべた。まずい、このままではせっかくの雰囲気作りが台無しになってしまう。山本は慌てて話題を切り替えた。

    「そういえば、いつもご飯はご家族と食べられるんですか?私はまだ独り身なので、つい外食が多くなっちゃうんですよ」

    銀時はぶっきらぼうに「へぇ」と言った。この話題はダメか。山本はどうにか空気が良くならないかと考えた。そこに、先ほど失言した田中が話に加わった。

    「俺も外食が多くなっちゃうから、たまに母の手料理とかが恋しくなっちゃいます」
    「まぁたしかに。ずっと食ってねぇ時とか無性に食いたくなるってのは分かるわ」

    おっ、食いついたぞと思いながら、山本もその話題に乗った。

    「美味しいんですか、ご家族のお料理?」
    「美味いかって言われると微妙だけどな。あの地味な味が妙に馴染むっつーか、ないと物足りねぇっつーか。まぁ、あれがうちの味になっちまってんだろうな」

    しみじみと感慨に耽っている銀時の顔は穏やかな笑みが浮かんだ。よし、今だと山本は田中に目配せした。田中は黙って頷き、銀時に問いかけた。

    「そんな大事に思っているご家族を、形に残してみませんか?」
    「かたち?」
    「はい」

    田中はパソコンの画面を銀時に見せた。

    「こちらは今までのグッズ販売数をキャラクターごとに分類したグラフです。主人公である坂田さんのグッズ販売数は圧倒的ですが、それに次いで土方十四郎さん、高杉晋助さん、沖田総悟さん、神威さんといった人気のキャラクターのグッズが多く販売されている事が分かります」

    田中はマウスをクリックして、画面を切り替えた。

    「こちらは様々なゲームやイベント、施設とのコラボをまとめた物です。やはり主人公を中心に人気のキャラクターが登場しています」

    ここで、田中に代って山本が追い打ちをかけた。

    「近年我が社はマーケティング調査の手段の1つとしてSNSを活用しています。その中で気になる呟きがいくつも散見されました」

    田中が画面を切り替えると、某青い鳥の書き込みが映った。

    「『なんで新八くんいないの?』『新八くんだけグッズ化されていないのありえない』『新ちゃん外すとか舐めてんのか』…このように志村新八くんのグッズを待ち望む声が多く寄せられている事が判明しています。原作が最終回を迎えた後もこの声は後を絶たず、むしろ増加傾向にあることが窺えます」

    銀時は山本の話を黙って聞いていた。その目から一切の感情を読み取れない事に山本は内心戸惑ったが、意を決して銀時に本題をぶつけた。

    「志村新八くんのグッズ化の権限を我々に委託していただきたいんです」
    「彼は普段の袴の他にも様々な格好をされています。そのどれもが写真映えする姿をしていて、グッズ化には事欠きません。かならず素晴らしいグッズを製作させて頂きますので、ぜひご承諾頂けないでしょうか?」

    2人は真剣な面持ちで銀時が言葉を発するのを待った。銀時はフルーツをフォークでつつきながら、ゆっくりと口を開いた。

    「なるほどなぁ。そんで俺を呼び出した訳だ。こんな高ぇタルトまで用意して、大した熱意じゃねぇか」
    「それじゃあ…」

    銀時はニッコリと2人に微笑んだ。

    「ぜっっっっっっってぇ嫌だ」
    「は?」

    山本と田中は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに営業スマイルを作り直した。田中が口を開く。

    「た、たしかに全権限をこちらに委託するのは難しいかと思います。しかし、せめてグッズ化の承諾をもう少し緩くしたりとか…」
    「何でそんな事しなくちゃいけねぇわけ?」
    「そ、それは新八くんのグッズを待つファンのためにも必要なことだからですよ」

    田中の言葉を、銀時は鼻で笑った。

    「新八の良さは俺だけが知ってればいいの。他の奴らに配ったら俺だけの新八が減るだろ」

    食べかけのタルトにフォークをザクッと突き立て、銀時は田中を睨んだ。田中は背中に冷や汗が流れていくのを感じた。そこに、先輩の山本が助けに入った。

    「ですが、かわいそうじゃないですか。準主人公としてあれだけ頑張ってきたのにグッズが少ないだなんて。新八さんも悲しむんじゃないですか?」

    山本の言葉に、かすかに銀時の表情が歪んだ。銀時優勢だった空気が少し持ち直したところで、さらに山本はたたみ掛ける。

    「やっぱり3人揃っての万事屋じゃないですか。坂田さんと神楽さんがいて、新八くんだけいないのは寂しいって思いませんか?」
    「…まぁ」

    不機嫌そうに銀時は頷いた。がんばれ、山本先輩!と田中は心の中でエールを送った。

    「それに、あんな可愛い子グッズ化しない方がおかしいですよ」
    山本先輩?
    「ぬいぐるみだって、アクスタだって、色々なバージョンの新八くんを拝みたいじゃないですか」
    山本先輩!?
    「だから、さっさと新八くんグッズ化の権利を手放してください。そして、その権限を私たちに譲ってください」
    山本ぉぉぉ!

    田中は入社して初めて先輩の頭を蹴り飛ばしたい衝動に駆られた。そんな後輩の思いなど露知らず、山本は机から身を乗り出すように銀時に詰め寄った。

    「そもそも何故この権限を坂田さんがお持ちなんですか?他のキャラクターの権限は全部放棄されているのに」
    「最初のグッズ化の時に力づくでぶん取ったんだよ。これさえ握っときゃ、てめぇらは新八を好き放題できねぇからな」
    「そのせいで我々は新八くんのグッズ化の話が出る度に貴方に交渉しなければいけなくなった。そして、ことごとく貴方がその話を断った。そうしなければ、もっと多くの新八くんグッズが世に出ていたはずなのに!」

    抑えきれない衝動を発散するように、山田はバンッと机を叩いた。

    「そりゃあ残念だったな。まぁ、その話聞いた所でこの権利は渡さねぇけど」
    「くそぉぉぉ!坂田ぁぁぁ!」

    勝ち誇った顔で笑いかける銀時と、悔しそうに叫ぶ山本。それを見た田中は、なんかスケールの小さい半〇直樹みたいだなと思った。

    「絶対に、ぜっっったいに貴方から新八くんの権利を奪い取ってみせる!」
    「出来るもんならやってみろよ。前任の鈴木も、その前の加藤も、歴代のグッズ担当者は皆この権利獲得を目指して道半ばに散っていった。さて、お前に俺が倒せるかな?」

    銀時の悪の親玉のような発言に、あなたは少年漫画の主人公じゃないのかと田中は思った。山本は机に置いていた両手をグッと握りしめた。

    「…また、近々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
    「いいぜ。いつでもお電話お待ちしてまーす」

    銀時はニタリと笑って席を立つと、会議室を出て行った。扉がパタンと閉まった後、山本は田中の目の前に何かをコトリと置いた。それは、ボイスレコーダーだった。

    「今日の会議の音声を全て録音しておいた」
    「えっ!?」

    いつの間にそんなことをしていたのか。田中は信じられない顔で山本を見たが、山本はいたって真剣な面持ちでそのまま話を続けた。

    「これを新八くんに渡せば、まだ希望はあるだろう」
    「で、でも新八くんへの接触は難しいのでは?」
    「ああ、高い確率でヤツが見張っている可能性がある。それでも、わずかな糸口を探し出して接触を試みるしかない」

    そう言って、山本は銀時が出て行った会議室の扉を力強く睨み付けた。

    「やられたらやり返す、倍返しだ!」

    その台詞そのまま使って大丈夫なのかなと、田中は心配になった。
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    Replies from the creator

    totoro_iru

    DOODLE2年後銀→←新です。久しぶりに長谷川さんを書いたので口調が不安定かもしれません!
    タイトルはタイトル作りが苦手な私に代わって友人が考えてくださいましたヽ(^o^)丿
    オレンジジュースとウーロンハイ 居酒屋の引き戸を開けると酒に飲まれた人たちの威勢のよい熱気が立ち込めていた。ガチャガチャと食器が音を立て、ガハハと大きな笑い声があちこちで響いている。そんな喧騒の真ん中に新八の探し人、坂田銀時はいた。自分の腕を枕にしてカウンター席の机に顔を伏せている。その横で長谷川が『おっとっと』と頼りない手付きで酒を注いでいた。よくこんな場所で眠れるなと呆れと感心の混ざった溜め息を吐いて、新八は2人に近付いた。長谷川は新八に気が付くとヒラヒラと手を振った。

    「あっ、しんぱちくん。来てくれてありがとう」
    「たまたま帰るタイミングだったんで良かったです。それにしても珍しいですね、迎えを頼むなんて」

     いつもなら朝まで飲んでも1人でちゃんと万事屋まで帰って来られるはずだ。江戸からいなくなって2年という歳月が経っても、その習性は変わっていなかった。銀時が万事屋を帰る場所と本能で認識してくれている。その事に、新八は人知れず温かな喜びを感じていた。
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