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    totoro_iru

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    4/8は新八くんの日なので、桜に攫われそうになる推しを書きました。1回は書いてみたかった!

    #銀新
    silverNew

    安易に触れること勿れ 夜の桜も乙なもんだと花見に来たはずなのに、気付けば今年もどんちゃん騒ぎになっていた。お酒を飲めない未成年などそっちのけで騒ぐ大人たちに、新八は早々にツッコミを放棄した。
    新八は宴会からそっと離れ、より多くの桜が咲いている場所を探し始めた。年に一度しか咲かないのだから、しっかりと目に焼き付けたい。……というのは建前で、本当はただの現実逃避だった。この時ばかりは桜にだけ心を奪われていたい。そうすれば、要らぬ傷心に胸を焦がされる事もないのだから。
     しばらく歩き回ってみたが目ぼしい場所は見つからなかった。潮時かと思いつつも、あの宴会場にはまだ戻りたくはなかった。戻ってしまえば今度こそ新八は自分を抑えられる気がしない。本当は、その着流しに気安く触らないでくれと力一杯叫んでしまいたかった。しかし、面倒くさそうでも楽しそうに過ごしているあの人を見たら何も言えない。発散したくても出来ない歯痒さに耐え切れなくなって逃げるように距離を置いた。
    これからどうしようかと新八が考え倦ねていると、フワリと何かが新八の頬を撫でた。どうやら桜の花弁が風に舞ってきたらしい。慰められているような気がして、少しだけ頬が緩んだ。すると突然強い風が散った花弁を連れて一斉に新八へと襲い掛かった。
    「うわっ!」
    思わず両腕で顔を覆った。髪や着物が風に巻き込まれるのを感じながら堪えていると、ようやく風が止んだ。
    新八は恐る恐る腕を下ろして目を開けた。すると目の前には立派な桜の木が姿を現していた。花が枝の末端まで咲き乱れ、月の光が花弁に反射して木全体が白く輝く様に新八は思わず息を呑んだ。
    「すごい」
    去年もこの近くでお花見をしたはずなのに全く気づかなかった。隠れた絶景スポットを見つけられて新八の気分は高揚した。
    『き…れい?』
    「えっ?」
    新八はキョロキョロと辺りを見回した。気のせいかと結論付ける前に、また声がした。
    『綺麗?』
    今度はハッキリと聞き取れた。どうやら新八に尋ねているらしい。尋ねられたなら応えた方がいいのだろうか。新八は深く考えずに返事をした。
    「はい」
    その瞬間、ザァァと木の枝々が一斉にざわめいた。
    『よかった』
    『嬉しい』
    『頑張った甲斐があった』
    砂糖菓子のような甘い声がいくつも聞こえてきた。花の香りが強くなっていく。
    『そんな所にいないで此方にいらっしゃいな』
    『もっと近くでご覧になって?』
    『どうぞ此方へ』
    桜の木の後ろには道が通っていた。その両脇にはたくさんの桜がズラリと並んでいる。声は桜並木の方から聞こえてくるようだ。新八はトロリと目尻を下げ、声のする方に向かって歩き始めた。歩を進めるごとに新八を呼ぶ声が増えていく。そのどれもが甘くて心地よい。香りが強くなり、頭は霞がかかったかのようにボンヤリとしている。
    『そうそう此方ですよ』
    『立ち止まらないで』
    『そのまま、そのまま』
    ナニかが新八の首をスルリと撫でた。

    ───さぁ、あと少し……

    「新八」
    ハッとなって、新八は声の方に振り返った。そこには銀時が着物の襟に右手を突っ込んで立っていた。
    「勝手にフラフラしてんじゃねぇよ。その歳で迷子センターのお世話になるつもりか」
    「誰が迷子ですか。別にフラフラしてた訳じゃなくてただ……」
    呼ばれたのだ。新八を呼ぶいくつもの美しく甘い声。それに誘われたから歩いていたのだ。
    「よ、呼ばれた気がして」
    「誰に?」
    銀時に尋ねられたが、新八は答える事ができなかった。分からなかった。一体誰が自分を呼んでいたのか。眉間に皺を寄せて必死に考える新八の額を、銀時が軽く小突いた。
    「いたっ!」
    「春眠暁を覚えずっつーけどよぉ。もう少しシャキッとしろよな」
    「いや、アンタにだけは言われたくないですけどね」
    いつもジャンプを顔に被せて昼寝ばかりしている銀時に言われたくなかったが、今回ばかりは正論だった。
    新八はぐるりと辺りを見回した。さっきまで咲き誇っていた桜並木は跡形もなく消えてしまっていた。その代わりに一昨日満開を迎えたソメイヨシノがそよ風に揺れている。新八が何度も見てきた光景だった。あれは夢だったのだろうか。しかし、夢にしては……。
    「綺麗だったな」
    新八はポツリと呟いた。また強い風が吹いて桜の花弁が降ってくる。再びあの声が聞こえてきそうな気がして、新八は目を細めて舞い散る花弁を見つめた。
    ふいに強い力で胸ぐらを掴まれた。驚いて視線を向ければ、銀時が鋭い眼差しで新八を睨みつけている。初めて向けられる敵意のある視線に、新八の肩がギクリと強張った。どうしたのかと尋ねたくても喉が絞まって声が出ない。ゆっくりと銀時の顔が近付いてくる。そして、口を大きく開けると新八の首へ躊躇なく噛み付いた。
    「いっ!」
    皮膚を突き破られそうな痛みに、新八は思わず銀時の肩を掴んで押し返そうとした。しかし、銀時は食い付いたまま離れようとしない。グリグリと抉られるような痛みは次第に熱を持って、新八をさらに翻弄させた。何故身体が熱くなっているのか分からないまま、銀時の肩を叩く。銀時は一度新八の皮膚を強く吸った後、ようやく口を離した。
    「な、何してるんですか!?」
    新八は目を白黒させながらザザッと後退した。銀時は悪びれもせず得意げに口角を上げた。
    「ツバ付けといた」
    「は?」
    銀時の言ってる意味が分からない。たしかに首は若干ベタベタしているが。
    新八は不審そうに銀時を見つめた。さっきまで険しかった視線はいつものやる気のない死んだ魚の目に戻っている。
    「行くぞ」
    クイッと手を引かれ、新八は銀時に連れられて歩き出した。朧げだった意識は今やハッキリと覚醒している。しかし、どうしても新八は『大丈夫』と伝える事ができなかった。伝えてしまえばこの手を繋ぐ理由がなくなってしまう気がして、口元を強く引き結んだまま只管に繋がれた手を見つめていた。
    ザァと風が吹いて花弁が吹雪のように舞う。その中から恨めしそうに唸る声が聞こえてきた。

    ────嗚呼、あと少しだったのに

    「テメェらなんかにやるかよ」
    銀時は低い声でボソリと囁いた。
    生きていようがいまいが関係ない。コイツに触れようとする奴は何者であろうと容赦はしない。
    銀時は周囲に先ほど新八の首筋に向けたような睨みを利かせると、繋いでいた手を殊更強く握りしめた。
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