結局もうひとつの布団は使わなかった「あれ?まだ起きてたんですか」
てっきりもう寝息を立て始めてると思っていたのに意外だと思いながら、新八は襖を静かに閉めた。銀時は腕を枕にしながら布団に寝転がっていたが、目はしっかりと開いていた。
「待ってた」
「え?」
『待ってた』とはどういう事だろうか。銀時の真意を汲み取ろうと、新八は目を凝らした。
「そんな怖ぇ顔しなくても取って食やしねぇよ。それに、今日はさすがに疲れたわ」
今日の依頼は有名な料亭の草むしりだった。真夏日の中での草むしりは3人の体力を恐ろしい程に消耗させた。1番元気のある神楽でさえ早々に風呂を済ませると、寝床に籠ってしまった。今ごろ深い眠りに就いている事だろう。銀時も相当疲れたようで、夕飯の最中何度も欠伸をしていた。だから自分を待たずにさっさと寝てしまっていると、新八は思ったのだ。
「疲れてるなら早く寝ませんか?」
「分かってねぇな。疲れてるからこそ癒しが欲しいんだよ」
そう言って銀時は布団から起き上がると、新八に向かって手招きをした。身体の疲労を回復するなら別々の布団で寝るのが最適だろう。しかし、あの手を無視して1人の布団に入るなんて新八には出来なかった。
新八は銀時の布団に近付いた。その瞬間右手を取られ、新八は銀時の胸に倒れこんだ。銀時はそれを受け止めながら布団の上に寝転がった。銀時の太い脚が新八の身体に巻き付き、新八は抱き枕のような気持ちになった。
「このまま寝るつもりですか?」
「んー。多分」
「多分て」
いい加減だなと思っている新八の首筋に温かい息が当たった。すぅ、すぅという息遣いが耳許で響く。銀時の頭が動くと髪が肌に触れてくすぐったい。新八は身動ぎをしようとしたが、がっちりと身体を固定されて動けなかった。
「寝ないんですか?」
「んー」
またもや曖昧な返事が返ってきた。この人一体何がしたいんだろう。
「銀さん?」
「半々だな」
長く息を吐き出しながら銀時は言った。
「寝たいし、ヤりたい」
「は?」
「しょうがねぇだろ。三大欲求には抗えねえよ」
そう言って、銀時は首筋に唇を押し付けた。ピクリと新八の身体が強張る。銀時の歯が皮膚を甘く引っ掻いて腰の辺りがゾワゾワした。
「あー、でもマジで疲れてんだよな」
「じゃあ寝ましょうよ」
「でもなぁ」
堂々巡りだ。新八は溜め息を吐いた。疲れてるなら寝ればいいのに。そもそも少女が押し入れで寝ている側でそんな事に耽っていいわけがない。言いたい事は色々あった。しかし、新八も昼の草むしりで疲れていた。脳にまで達した疲労は思考を鈍らせ、何とか捻り出した考えは検閲される事なくそのまま口からスルリと出た。
「出したいなら手貸しましょうか?」
首筋に吸い付いていた銀時の動きが止まった。そして、2回深呼吸を繰り返した後ボソリと呟いた。
「ティッシュねぇわ」
「取ってくればいいじゃないですか」
「馬鹿言え。もう一歩も歩く元気なんてねぇよ」
そう言って銀時は再び首筋に顔を埋めた。じゃあ吸い付くのを止めて大人しく目を瞑ればいいだろと、新八は心の中で愚痴った。
「じゃあ口でしますよ」
「へぇ」
耳許でクックッと笑いを噛み殺す音が聞こえた。銀時は首筋から顔を離すと、新八と目を合わせた。
「咥えてくれんの?その小せぇ口で」
愉快そうに目を細めながら、頬を寄せるように新八の唇の端を指で摘まんだ。おちょぼ口みたいになって喋りづらい。
「そしたら寝るんですよね?」
「そんなに俺を寝かせてぇのかよ」
「老体は労った方がいいかと思って」
「誰が老体だ。銀さんまだピチピチだからね」
「ピチピチって言葉がもうおっさんですよね」
「可愛くねぇ事言う口だな。塞いでやろうか」
内緒話をするように小声で話す。銀時は新八の唇から手を離すと甚平の中にスルリと手を入れ、新八の背中に触れた。背骨の1つ1つをなぞるようにゆっくりと手が滑っていく。くすぐったいとはまた違う感覚に、新八は小さな喘ぎ声が漏れた。
「満足しましたか?」
新八は銀時に尋ねた。銀時は新八の質問に答えず立ち上がった。
「ティッシュ取って来るわ」