あなたの視線は 日の光を浴びた木々の若葉がキラキラと輝いている。鳥居へと続く階段を着物を着た男と、まだ歩くのを覚え立てであろう子どもが手を繋いで歩いていた。階段を上って石で造られた鳥居の前で男が一礼したので、子どももそれに倣ってぺこりと頭を下げた。鳥居をくぐると豪華絢爛とまではいかないが、しっかりと手入れのされた神社がどんと構えていた。
ふと子どもが立ち止まった。そして、神社の屋根を指差して嬉しそうに笑った。
「わんわん!」
その瞬間、強くて暖かな風が親子へと吹き抜けた。
※※※
徳川が天下を治めてから長い年月が過ぎた。戦に明け暮れた時代は遠い昔の話になり、武士の刀が身分を証明する物に成り代わった時代。百万人が住む大都市、江戸のある所にお茶と団子を売る水茶屋があった。
4559