「とし兄だ!」
「よぉ、なんだ遊んでたのか?」
大家族の末っ子として生まれた俺は兄弟が学校に行き始めた頃は寂しくてよく泣いて母親を困らせていたらしい。寂しくてしょっちゅう近所の空き地に一人で木の枝を鹿の角に例えて遊んでいたのは覚えている。
そんな俺によく話しかけてくれていたのはとし兄と呼んでいた近所の高校生だった。
とし兄は近所の高校に通っていて帰宅部という名のクラブ活動に勤しむがてら俺が遊ぶ空き地によっては暫く遊んでくれていたのを覚えている。サッカーや鬼ごっこ、兄弟もまだ帰ってこず、近所に同じ歳の子がいない俺にとってとてもいい遊び相手だった。まぁたまにとし兄が蹴ったボールが近所の窓ガラスを割ったりだとか不幸なことは多かったが。
あぁ、そうだ。かくれんぼしてて穴に落ちたとし兄が不発弾を見つけてその空き地は遊べなくなったんだ。
それでもとし兄は別の遊び場所を見つけては俺と遊んでくれた。
面倒見のいい近所のお兄さん。そんな印象だった。
「ねぇ、とし兄!」
「なんだ?」
「僕、とし兄のこと大好き!ずっとずっと遊ぼうね!」
「あぁ、おれもずっと…そばにいたいよ。」
そんな約束までしたとし兄であったが、高校を卒業すると大学に進学すると行ってこの土地を離れたらしい。それを知らない俺はいつものその場所でとし兄が来るのをずっと待っていたのを覚えている。
もしかしてもしなくてそれが俺の初恋だったのかもしれない。顔も声も覚えてないけれど、優しく笑いかけてくれていた事だけは忘れようにも忘れられなくて、会えなくなった日からずっと胸のどこかに彼がいたのだった。
そんな初恋を経験したからか、俺は物心着いた頃には異性よりも同性、しかも年上の男性が恋の対象となっていた。
学生時代は色々辛い経験も得たが理解ある友達もできたし、社会人になった今はそれなりに自分らしく楽しめる生活を送れるようになっていた。
高校を卒業してから働き始めた俺は実家を出て一人暮らしをしていた。元々家事など母親の手伝いをしていたので慣れたものではあったが、第家族の一員だった俺にとってやはり1人は寂しいものだった。だけれど開放感は凄まじいものであり、兄弟がいて分けて小さく切り分けられていたホールケーキは今や一人でフォークでつつくように食べられるし、ゲームではセーブデータを1番上にできるからセーブデータを態々探してからロードする必要もなくなった。
何よりソッチの気がある俺にとって性の解放場所も、独り身になってからは思う存分通えるようになったと言える。いわゆるハッテン場。それが俺の性のはけ口だった。
続く