私がプラントに訪れる機会はそう多くはない。
あの時プラントで過ごせたのも仕事のおかげだった。
私のプラントでの仕事の翌日は、ディアッカがプラントの景色を見せてくれると案内をしてくれた。
連日徹夜続きで働き詰めだったこともあり、無理やり休みをもぎ取ったらしい。
今もあの日のことを鮮明に覚えてる。
あの日に見たプラントの空は、雲が少ない澄んだ青空だった。
少しひんやりとした気温に暖かな日差し。
優しい風を受けてゆらめく木々の音。
そして、隣にはディアッカの嬉しそうな笑顔。
ディアッカのアメジストの瞳は光を受けて、きらきらと輝いていた。
そんな嬉しそうな彼を、輝くアメジストを。
ずっと見ていたいと思ったことを、今もあの時の気持ちのまま、覚えている。
二人で桜の舞う公園を歩きながら、綺麗ね、そうだな。なんてたわいの無い会話をして歩いていた。
桜を見るのは初めてじゃないし、珍しいものでもないけれど、やっぱり綺麗に咲く花はどうしても目がいってしまう。
きっと私もディアッカと歩きながら、ディアッカと桜が見れることが嬉しくて笑顔だったと思う。
なぁ、ミリアリア。
そう名前を呼ばれて振り返れば、ディアッカは真剣な顔をして立ち止まっていた。
その表情の意図が読み取れない私は、彼と同じく立ち止まって続きの言葉を待った。
「プラントへ来ないか?」
彼は立ち止まった私の手を柔く握ってからそう言った。
その言葉に驚きはもちろんあった。
彼の顔を見ると真剣そのもので、自分と一緒に歩む未来を願ってくれていることが美しい瞳から伝わってくるようだった。
強く胸が締め付けられる。
とても切なかった。
だって、彼はきっとわかっていただろうから。
その酷く心惹かれる言葉を、受け止めてあげられないことを。
「…あんたってほんと、ずるいわよね」
漸く絞り出せた言葉は、相変わらず彼に優しくない言葉。
「私がなんて言うか、わかってて言ってるんでしょ?」
どうして、私はいつもこうなの。
なぜ、ディアッカが欲しいと願っている言葉をいつもあげられないの。
「……うん、多分わかってる。」
そうでしょう?
あの時、真っ直ぐな瞳でザフトに、プラントに戻ると言ったあなたなら、私の気持ちもわかってくれてるんでしょう?
「……私はまだ、オーブでやりたいことがあるの。だから…」
なのに、どうして。
こんなにも苦しいの。
ディアッカが私と一緒にいる未来を願ってくれていることが、こんなにも嬉しい。
私だって、出来ることなら今すぐディアッカのそばに行きたい。
同じ日常を過ごして、いろんな喜びも悲しみもすぐ近くで共有して。
あなたの隣で、ずっとその瞳を見ていたい。
あなたの気持ちに今すぐ応えたい、そう願う私も確かにいるの。
その気持ちも本当なの。嘘じゃないの。
だけど、だけどね、ディアッカ。
「ごめんね、ごめんなさい、ディアッカ…」
涙を堪えられずに、顔を覆い隠した私の方がずっとずるい。
きっと泣きたいのは私よりディアッカかもしれないのに。
それなのに、ディアッカはいつも私を優しく抱きしめてくれるから。今だって。
「…俺、いつかミリィと一緒に過ごせる日々を、願っててもいい?」
首を縦に振ることでしかできなくて、今は言葉で返してあげられないけれど。
でも、私もディアッカが望む未来を願っているのは同じ。
誰よりも近くで、平和な世界で。
あなたの隣で一緒に歩んでいきたいから。
だから今はまだ、あなたと違う地で自分に出来ることをしたいの。
あんたもあの時、お互い離れ離れになっても自分の行くべき道を選んだ時。
そう願ってくれたんでしょう?
ディアッカ。
◆
◆
◆
自分の耐性の無さに腹がたったことを覚えている。
あの日、彼女に言った言葉はずっと願っていた言葉だった。
でも、きっとまだ言うべき言葉じゃないのもわかっていた。
わかっていた。今はまだこうして一緒にいられる時間があるだけ十分幸せだと、そう思っていたはずなのに。
あの日の彼女の嬉しそうな横顔が綺麗で、きらめく碧い瞳をずっと見ていたくて。
俺のそばに。明日も明後日もこの先の未来も。
隣で、笑っていて欲しくて。
彼女が欲しくてたまらなくて、気づいたら言葉に乗せて気持ちが溢れていた。
結果は…だよな。そうだよな、と思わず溢してしまうような返答だった。
だけど彼女も自分と同じ気持ちでいてくれることは、流れた涙と瞳が教えてくれていた。
自分のそばにいて欲しいと思うクセに、ミリアリアの気持ちは痛いほどわかるんだ。
俺も、あの時ミリアリアのそばに居続けることを選ばなかった。選べなかった。
だからわかるんだ。
俺の言葉に応えられない理由も想いも。
今流れていく涙の意味も。
「ごめんね、ごめんなさい、ディアッカ…」
俺はなんで、いつもこうなんだろう。
泣かせたくないのに、むしろ全く逆のことを願ってるはずなのに。
どうして泣かせてしまうんだ。
これならAAの時みたいに怒らせてた時の方がまだマシだったかもしれない。
「…俺、いつかミリィと一緒に過ごせる日々を、願っててもいい?」
首を縦に振る彼女をみて、抱きしめる腕に力を込めずには居られなかった。
いつか彼女と共に歩む日々を願いながら、自分の行くべき道を進んでいこう。
平和の世界で、きっと彼女は待ってくれているはずだから。
ミリアリアにそばにいて欲しくて。
プラントにミリィがいるのが堪らなく幸せで。
ついプラントに来いなんて言っちまったけど。
でも、いずれ俺がミリィのところに行くのもアリだしな?
ひとつキスをしたら、一度これを伝えてみようか。
あんたもこっちでやることたくさんあるでしょなんて、口を尖らせて言う彼女を想像しながら。
彼女の柔らかな頬に手を添えて、愛しい人へキスをした。