答えは本人のみぞしる 手の込んだ高価なプレゼントに意味の込められた花束、静かでお洒落なレストランにロマンチックな夜景がキレイなスポット。
それが意中の相手を落とすための、最低限なバースデイの祝い方、らしい。女遊びを得意とする副船長のアドバイス。だが、それはあくまで女の場合だとおれは思った。まあ、男相手なんてバギー以外考えたことないから世間的な意味ではどこまで当てはまるかなんてのもわからない。
バギーに当てはまるのは、精々最初のひとつのみ。
それも、高価なプレゼントはお宝のみ。装飾店でお金を出して手に入るようなものではない。お宝、宝石、なければ宝の地図。会って話をするにしてもこのどれかは必要だ。どうしても準備できなければ美味しい酒。
ただし今回はバースデイ、誕生日。残念ながら誕生日当日はバギーを盲目的に慕う大人数の部下たちが最優先だ。一ヶ月前に予約を入れようとしたら三ヶ月前に予約済みだった。さすがに気が早すぎる。宝を大量に積んだら優先してくれないかと言ったら「アホか」と言われた。しかし宝はもらうと言われた。貢ぐ意味がない。
しかしそこまで食い下がればある程度の情けはくれるらしい。くれた。丸一日宴が行われるらしく、さすがに疲れるからと日中のどこか一時間だけならとおれのために時間をくれた。バギーから時間をくれたのだ。嬉しいことこの上ない。もしかしたらおれが誕生日かもしれない。
とはいえ遠くに行けるわけでもなければ、誰にも見つからないように集合場所は島の反対側。おれが準備するのはとびきり美味い酒とバギーが喜ぶものだと指定された。バギーが喜ぶものなんて、宝や宝石だろ、とヒントをもらおうとするも「それぐれェ自分で考えろ」とぐりぐりと人差し指が額を押し込んできた。思いも寄らない返答に違うのかと驚き返すも「さアな」と背を向けられてわからず仕舞いだ。
そんなこんなで色々と考えて当日を迎えたわけだが、結局何がいいかなんてわからなかった。とりあえず価値が不明な宝石だけ持ってきた。大きさはバギーの鼻ぐらい。
いい値するんじゃないか?
「相変わらず見る目がねえ」
どうやらガラス玉ではないが、純度は低くそこまで価値はないらしい。海に向かって座っているバギーに差し出したそれは、太陽の光にかざされてキラキラと輝きを放った後に懐へとしまわれた。
「じゃあ、おれがプレゼントで」
「……」
すごい呆れている目だ。少しは考えろと言っているような。
これでも考えた。割と毎日考えた。考えすぎて何度も二日酔いになったぐらいだ。
「ま、おれ様は寝るけど」
「寝るのかよ!」
この状態でなにをやれば喜ばせられるかと酒のフタを開けながら考えていると、バギーは欠伸をして首を回した。
「日を跨いだ瞬間に宴が始まってクロちゃんたちに怒られるは、どうにか大人しくさせて深夜にようやく寝れたと思ったら今度は鶏より早く起きやがって起こしにくるはで」
「楽しそうだな」
「おかげさまで寝不足だ」
そうなんだかんだいいながら部下を怒ることはないし、クロコダイルたちからどれだけ怒られようとそれを部下に向けることはない。好きにさせている。そういうところが慕われるところのひとつでもあるのだろう。
「おら、もうちょっと膝を地面につけやがれ」
「は? こうか」
「あー、まあそれぐれェで」
膝をパシパシと叩かれて言われるままに、あぐらを少し崩した。なにをするんだと浮くことのない頭は下の方へと下がっていき、ゴロンと横になった。体ごと。
「なにしてるんだ?」
「なに、て、昼寝だよ昼寝。さっき話しただろ、十分に眠れてねェんだ」
「いや、言ってたけど……おれと会ってるのに? 寝る?」
「おれ様は昼寝を楽しみにきたんだ」
四皇の膝なんていい枕じゃねえか、なんて目の前に浮かんできた手は早々に本来あるべき位置に戻っていく。まあ、おれの膝枕を待ってたという意味であれば喜ぶべきことがもれないが、会話ができないということにおいては寂しさしかない。
「ところでバギーが喜ぶものってなんだったんだ」
「んなもん自分で考えろ」
「今日持ってこれなかったから、次持ってくる」
「当たり前のようにくること前提?」
仰向き寝転がるバギーは眉も口も歪ませてため息をついた。
「次なんてねェ。今日はこの膝枕で勘弁してやらァ」
ありがたく思えと寝心地の良さを探してあっちこっち向く頭は、結局後頭部を見せる形でおさまり、それに合わせて体も寝返りをうった。
「バギーが寝てる間なにもやることがない」
「一時間後に起こせ」
「時間いっぱい寝るのか」
当たり前だろというバギーの声は、だんだんと小さくなりやがて寝息が聞こえてきた。
本当に寝てしまったと、後ろに垂れている髪の毛に触れる。右側に寝てくれたおかげで、体勢を崩さずにバギーに触れることができた。声をかけて起こしてしまうと機嫌が悪くなるだけだろうし、このまま起こさずに半分隠れている寝顔を眺めていよう。
結局バギーが喜ぶものを知ることはできなかったが、待ち合わせ場所にいたバギーの機嫌は悪くはなかったから、すでに手に入れていたのかもしれない。できれば自分が与えたかったが、仕方ない。バギーと同じ意味ではないにせよ、四皇に、バギーに膝枕ができたことでよしとするしかない。
四皇となっても、自分には無防備な姿を見せてくれるのだ。この時間が今だけのものであれば、噛み締めなければいけない。この先敵同士で対面する可能性があるのだ。今しかできないことをやるしかない。
撫でるぐらいは許してくれるだろう。
安定して膝に乗っている頭を起こさないように、そっと手のひらをのせた。