ブルームーンキス「場地、俺のこと好きだろ?」
「はぁ?」
歯を見せて無邪気に笑うその笑顔に身体が熱くなった。
優しい夜風に吹かれながら悪態をつくように返事をして月明かりの中空を見上げる。
今が夜で良かった。顔が紅い気がする。
「照れてんのかよ?俺は場地のこと大好きだけど?」
「…そうかよ?」
「うんっ!」
靡く金色の髪に月の明かりが反射して眩しい。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、届かない。
「…マイキー」
「んー?」
「月が綺麗だな」
「……………は………?え…?どっかぶつけたんか…?」
「ぶつけてねーわ、つーか、お前こそ意味わかってんのかよ?」
とは言え、自分も意味は先日千冬に聞いたばかりだった。
直接の言葉でなんて気恥ずかしい。
ふと思い出して口にしてみたけれど、やっぱり気恥ずかしいのには変わらなかった。
「わかるに決まってんじゃん?昔シンイチローに教えてもらった。」
「………そうかよ…」
どっちも教えてもらってんじゃん、と2人で笑う。
「…場地さ…お前、何処にも行くなよ…?」
「え…」
笑った顔は切なく刹那だった。
ふいに近付いてきた顔。
場地はその唇に自分の唇を重ねた。
まるで分かってるみたいだ。
この先を。
これ以上何も言わないで欲しかった。
揺らいでしまいそうだ。
長いようで一瞬のキスが終わって2人に沈黙の時間が走る。
「…場地のファーストキス奪っちゃった」
「うっせぇよ、お前もだろマイキー、つうか今のは俺が奪ったほうだろぉがよぉ?」
「イヤ、俺だけど?」
「はぁぁ?」
言い合いながらもどこかぎこちない空気が流れる。
柔らかい唇の感触をもう一度確かめたいだなんて、絶対にそんなことできるわけもなく場地はまた月が輝く夜空を見上げた。
好きだ。大好きだ。それ以上だ。
そんな資格ないのは分かっている。
でもこの時もっとちゃんと伝えていたかった。
もう二度と伝えることも触れることもできない。
それは記憶と心の中でしか輝けない月。
おわり