クリスマス(再放送+手直し)マスター曰く、良い子にしていると白い髭を生やし赤衣服を着た老人が子供限定で物をくれるらしい。
良い子にしていないと物は貰えないらしく、その良い子については明確な基準は無いようだった。
「基準がないとはまた面倒だ」
基準があれば、それに当て嵌めた行動を取ればいい。
だが基準がないとすると、どの様な行動が正しいのか判断に困ってしまう。
私のマスターへの模範的な対応は、一番親しいであろう英霊の行動を真似している。
さてどうしたモノかと思いながら歩いていると、田中君とマスターの会話が聞こえてきた。
「田中君は頑張ってて良い子だから、今日はから揚げ多目に出すって」
「頑張っていると良い子なのか?マスターの時代の事は、ある程度聖杯から教えられているがまだ良く分からない事が被い」
「私の時代も結構曖昧だからね。田中君には沢山周回して貰っているし、そのお礼って思って貰えると嬉しいかな。本当は鶏刺し希望したんだけど、今から大きな鶏狩りに行くのも大変だったからごめんね」
「鶏刺しか。何時か薩摩の新鮮な鶏刺しをマスターにも………マスター、悪いが少し外す」
「うん?じゃ、あとでクリスマスパーティーやるから来てね!」
マスターと田中君のやり取りに聞き耳を立てて居るだけで、気配までは消していなかった。
会話を切り上げたのは、そんな私の気配に気付いたらだろう。
壁に寄り掛かったまま動かないで居ると、案の定田中君が私の元へとやって来た。
「武市先生、どうか致しましたか?」
「田中君。突然で申し訳ないのだが、その面を取ってから屈んでくれないか?」
特にこれと言って用があった訳ではない。
先程のマスターとのやり取りで、思い立っただけである。
私の命で素直に面を外してから屈んだ田中君の頭に腕を回し、そのまま唇を重ねた。
目を見開く田中君に目を細めて、彼の唇に歯を立てて噛みつく。
ドロッと溢れ出る田中君の血を舐めてから、顔を離した。
田中君は突然の事に理解出来なかったらしく、唇の傷もそのままに私を見つめて呆けている。
これは珍しいモノが見れたと口角を上げると、ハッとした様に、片手に持っている面で口を覆う。
英霊に出来た傷等、霊体化すれば直ぐに消えてしまうモノだ。
賢い彼ならば、マスターにバレる前に私が付けた傷を消すだろう。
それはそれで、面白くもなんともない。
だから、手袋をはめたままの手で田中君の心臓部分を撫でる。
「君は良い子だったとマスターとの話を聞いて知ったからな。私からの贈り物を渡したつもりだったのだが……気に入らなかった様だ。それは済まない事をした」
あからさまに落胆した声を上げれば、田中君は焦ったように面を外して血の滲む唇を露にする。
「そ、そんな事は御座いません!武市先生からの施しを俺が無下にする事など御座いません!どんなに貴方が別側面だと言っても、貴方は武市先生であることに変わりありません」
ポタポタと垂れる血を拭う事なく、私の言葉を否定していく彼に笑いが込み上げて仕方がない。
うっかり笑ってしまわない様に、口を手で覆いながら視線を柔らかいものへと変える。
「それなら良かった。田中君、マスターに心配されてしまうから傷は治した方がいい」
「何を仰いますか!武市先生から頂いたモノを治すなど、出来るわけが!」
「そうか。ならば、次はマスターにも心配を掛けないモノを渡すとするよ」
霊体化して治す選択肢を潰し、他の医療系の英霊に診せる選択肢もこれで潰す事が出来た。
田中君の胸をトンっと押して、背を向けて歩き出す。
これ以上居ては、私が楽しんでいる事を彼にも知られてしまうだろう。
知られた所で何が変わるわけではないが、私がそれは楽しくはない。
そう言えばこの時期のお決まりの文句を忘れていたなと振り返り、私が見えなくなるまで見送るつもりの田中君へと声を掛ける。
「めりーくりすます。田中君」