次に患者の体を弄ったら、絞首刑だと言われてしまった。
「捕虜は国際的な縛りがあるから出来ないけど、味方ならいいかって思ったんだけどなぁ」
軍に入ったのは、研究の為であって人命救助をするつもりはない。
医療免許は便宜上取ったが、私がやっているのは医者ではなく研究の方だった。
戦争が始まってから暫くして、軍の関係者から研究をやらせてくれると言われた。
丁度、研究費も出し渋られていた時期でもあったから快く請け負って軍に入った。
それだと言うのに研究は最初だけで、戦地に派遣されて少なくなった軍医の補充に充てられてしまって今に至る。
最初と約束が違ったが、この戦時下では軍を辞めるとまともな職には就くことが出来ない。
何より私は、研究がしたいだけなのだ。
「辞める気はないけど、つまらないな。私が戦争を終わらせてしまうのもいいんだけど」
戦争を終わらせる手立ては幾らでもあるが、今更やるには遅すぎた。
既に、国として機能していない国を任されるのも荷が重い。
私はどちらかと言えば、参謀の方が向いていて人を統治するには向かないのだ。
理由は簡単で、つまらないからだ。
つまらないモノの為に、齷齪働くのは割に合わない。
だったら、最初から殺してしまえと言うのが私の信条である。
ただそれをしないのは、もしかすると私を楽しませてくれる人間と出会えるかもしれないと言う淡い期待を持っているからだ。
他の連中は、私のこの寛大さに感謝すべきだと思う。
「余計なお世Wi-Fi!!」
ふと聞こえてきたしょうもないギャグに、窓の外に視線を向ける。
切羽詰まった環境で、人を笑わせようとする軍人なんて初めて見た。
階級は遠目ではあったが、二等兵だと言うことはわかった。
「二等兵?あぁ、予備軍人か。最近、予備も投入するって言ってたな」
それだけ戦況は悪いのに、良くやると目を細める。
こんな状況だからか、さっきのギャグで笑っている数名から目を離す。
更にネタを披露する二等兵を見つめながら、窓ガラスに手を付けて視線を外さずに向け続けた。
名前は後で調べるとして、彼の顔だけは覚えておく事にした。
「羂索軍医!急患です!!」
「はいはい。で、腕でも取れた?それとも腸が飛び出してる患者?」
折角楽しそうなモノを見付けたのに、急遽呼び出しを食らってしまった。
仕方なく視線を外して、運ばれてくる急患の対応へと向かう。
予備軍人で二等兵なら、戦場ではなくこの基地へ配属される筈だ。
「私の部下にしよ。出来なかったらそうだな、この基地でも吹き飛ばすとしようかな」