寝れない夜「深津サン起きてる?」
遠慮がちにこんこんと音が響き、返事をする間も無く扉が開かれる。
扉の隙間からひょこりと覗いているのは見慣れた緩いくせ毛で、おいでと手招きをすると目をきらつかせて、おずおずと部屋へ入ってきた。
「どうしたピョン」
ベッドサイドに座らせ、少し低い位置にある柔髪をぽふぽふと叩くと、もっとしてと目を細めて気持ちよさそうに擦り付く。
「寝るとこだった?」
「別に、気にしなくて良いピョン」
「…そっか、アリガト」
拗ねたような口調で唇を尖らせそっぽを向くくせに、当たり前のようにぴったりと肩口に寄り添う。そんな相反した仕草のリョータが可愛くて、胸がきゅうと締め付けられて仕方ない。
「明日は一日、俺に付き合ってもらうピョン」
「!
じゃあ服見に行きましょ、そんだけ出来上がってンだから勿体無いと思ってた」
髪と同じくくるんと上を向いた睫毛に彩られ、楽しそうにゆると細められたリョータの瞳には、鈍く光を反射した己の瞳が映り込んでいる。
「…ん、なに」
焼けた色の頬を伸ばすように撫ぜると、目を伏せ、されるがままに頬を差し出す。絵のように美しいその様子を暫く眺め、無防備に柔く緩んだ唇にゆっくりと噛み付けば、応えるように桃唇で甘く食まれた。徐々に深くなる口付けに溺れるかのように、呼吸は浅く熱くなり、露を含み揺らめく瞳からは温度が伝わる。
「…寝るか」
耳元で響く深津の湿った声にリョータの肩が震え、腹の奥がジンと熱を持つ。熱に浮かれているのは、リョータだけではない。
「アンタも無理な癖に」
二つの影は重なり、ゆっくりと沈み込む。
夜もたけなわになったころ、ひとつの部屋の電気はパチリと落とされた。