明日から絆創膏「リョータいい加減脱ぎなよ」
「やだこっち来んな」
じりじりと迫り、後退る。
1人で寝るにしては少し大きいベッドの上で、二人は睨み合っていた。2人の間の距離は一定に保たれつつも、リョータの背にはヘッドボードが迫っており、追い詰められるのも時間の問題である。
「いつも見てるのに何を今更恥ずかしがるんだよ」
不満です!とありあり見て取れる沢北のぶすくれた顔付きである。
そう、別に今日だけ特別に裸に剥こうとしている訳ではないのだ。なんなら普段からパンイチで歩き回るし、お風呂だって一緒に入る、それこそ夜の営みでもきちんと裸になって抱き合っている。それだのに、今日に限って、リョータは脱がされることをひどく嫌がった。
そんな警戒心があるなら家の鍵くらいちゃんと閉めて欲しいものだけど。
「……らな」
「なんて?」
「エージのせいだっつってんの!!」
勢いよくバッと上げられたその顔は、怒りか羞恥か赤く染まっていた。よくよく見ると、目にはじんわりと膜が張られている。
あまりの勢いに、本当に嫌だったのかと少しショックを受け目頭が熱くなる。が、それよりも、目の前でこちらを威嚇しているリョータを落ち着かせるために、自分より一回り小さい手をぎゅうと握る。
「なに、俺のせい?気に触る事した?分かんないから教えて」
「う、ちが、…その、」
「うん」
沢北が申し訳なさげに眉を下げ顔を覗き込むと、リョータの頼りなさげな瞳がゆらゆらと揺れ、重ね包まれた手に吸い寄せられる。
「エージが、ここばっか触るから…」
「うん」
「その…
ち、乳首デカくなったんだよ…」
「……??」
「…なんか言えよぉ」
「…ッスーーー、…あーね、なるほど」
リョータにとっては男としての自尊心を傷付けられるような大問題であるが、残念ながら、沢北にとってはそうではない。
「っん!!オイ!嫌って言ったろ!!」
「嫌とは言ってなかったよ」
「待って、ちょ、ほんとに」
「うんうん」
「エージ!!!!!!」
「そうだね、頑張ろうねリョーちゃん」
もちろん無事で終わるわけはなく、翌日からしばらくの間、服に胸が擦れないように庇いながら歩くリョータの姿が観測された。
隣を歩く沢北はいつもよりもほんの少し、鼻の下が伸びていたそうだ。