冬、二人(other side) 一月も末、バスケットの大会も大学の試験期間も終え、ようやく落ち着いた日々が送れるようになっていた。この時期に暇になるのはおおよそ就活の年ではない大学生くらいのもので、春学期が始まる4月までの長い休みに対しそわそわとした気持ちを隠し切れないでいる。
そして今日、深津は浮かれていた。それもそのはずで、出来るチームメイト達の協力を得て、高校最後のインターハイから狙っていた後輩と休みを過ごせることになったのだ。どうして浮かれないでいられよう。
そんな心がほかほかした一日も日が沈み、終わりを迎えようとしている。
「今日一日、付き合ってもらってすんません。最近忙しそうだったのに」
申し訳なさそうに眉を下げる宮城に心が痛む。付き合うも何も、今日この日に買い出しを設定させて宮城に買い出しの役を押し付けたのは他の誰でもない深津だ。
「用事も済んで一石二鳥ぴょん。」
「それならよかったスけど」
事の顛末を知っている人間からすれば白々しいの一言に尽きるが、もちろん宮城はそんなことは知らない。しばらくゆっくりと歩みを進めていたが、どちらからともなく立ち止まる。そろそろお別れの時間だ。今日一日、進展という進展はなかった。『こんなに一生懸命おだててあげたんですだから、深津サンが頑張らない事なんてないですよね!!!』と、落ち合うギリギリまで連絡をしていた泣き虫な後輩の言葉が頭の中でリフレインする。やるときはやるぴょん、と意地で返した言葉に満足そうににんまりと笑った生意気な顔(あくまで想像だが)が忘れられない。
「宮城は明日も練習あるだろ、解散するか。」
あんまり初回から引き留めるのもなんだろう。そもそもこれで最後にするつもりもない。今回は少しでも楽しかったって思ってもらえていたら良い、一気に距離を詰めるよりも着実に一歩一歩逃げ道を潰して追い詰める方が得意だ。
「…っ、深津さん!!」
突然大声で名前を呼ばれ、思わず背筋が伸びる。デートみたいだと浮かれて隠し撮りしたのがバレていたのか、手の甲に触れたのがわざとだったのがバレてしまったか、飲み物を一口交換した時に間接キスだと思わず飲み口を見詰めてしまったのが気持ち悪かったのか。
「え、と、あー…」
居心地が悪そうに視線を紡径わせ、徐々に顔が俯き、アイボリーのマフラーにロ元まで埋まる。寒さで赤らんだ鼻や耳も相まってその様子が可愛らしく、しばらく見つめていると、意を決したのかパチリと視線が合った。
「その、…あー、…もうちょっと、歩きません?」
一月末、雪積もる日。恋人未満のこの二人が、僅かながらも確実に一歩を踏み出した記念日である。