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    サブハク/レクハク
    お弁当を通じて次第に仲良くなっていく二人

    #レクハク
    #サブハク
    sub-hak

    タイトル未定 1いつもは昼時になると部室になんとなく全員が集まり、適当にどこかで食べに行こうという話になるのだが。今日はキリンもタブーも登校は昼からというので、ハックはひとりぼっちの昼食だった。ヤルミナ部室で食べようと弁当を作ってきたのだが、今日は突き抜けるような晴天だ。陰キャ引きこもり根暗オタクのハックにしては珍しく、今日は外で食べようか、と気紛れを起こした。

    大人しく部室にいればよかった。そう思ったのは、理工学部棟校舎裏のベンチに座り、弁当の包みを膝に広げた時だった。陽当たりがさほど良くなく、視界にあるのも代わり映えのない木々と茂みという殺風景な場所だったので、密かに自分だけの特等席として重宝していたのだが、陰の友達は陰、彼もここを愛用していたようだ。思いがけない出会いに彼は「ハック!」と全身で驚きを表し、嬉しそうに三歩駆け寄り、ハッと我に返り、キザッたらしくポーズを決めて近付いてきた。

    「奇遇だな、ハック。やはり僕らは同朋、魂で惹かれ合うということか……ふふ、僕の邪眼はお前の存在を見抜いていたがな」
    「…………」
    「お、おい!どうして無言で片付けるんだ!」
    「サブロー君こそ、どうして断りもなく隣に座るんすか?」
    「レクイエムだ!」

    面倒なのに捕まった。ハックはため息をつく。学食が陽キャのたまり場にさえなってなければ、こんな片隅で弁当をつつくことも、いい年した中二病に絡まれることもなかったのに。

    「どうしてここに?あいつらはどうした?」
    「キリンさんもタブーさんも、今日は昼からなんすよ。いい天気だから外でノンビリ食べようと思ったんすけど……やっぱ部室で食べるっす」
    「部室か」
    「サブロー君は来ないでください。君、ホイホイ気軽に入ってくるけど、本当は部外者立ち入り禁止なんすからね」
    「僕は部外者ではない。何故ならハック、お前とは前世から魂が共鳴し合う仲であり……そ、そんな急いで立ち去ることないだろぉ!」

    サブローがみっともなく腕にしがみついてくるので、ハックは嫌々、腰を下ろした。確かにここで去るのも、サブロー相手に逃げ出したみたいで癪だ。ここはハックの特等席なのだ。立ち去るべきなのはサブローだろう。

    ハックは邪険に腕を払うが、サブローは気にも止めず、いそいそと弁当を膝に広げた。ここで食べるつもりらしい。

    「ふふ、ハックとバンケットだ。血沸き立つ狂宴となるだろう」
    「味しなくなるんで黙ってもらっていいっすか?」

    サブローが切ない顔で蓋を開けた。卵焼きにミートボール、ポテトサラダ。中二病のくせに弁当はスタンダードだ。しかも旨そうだ。ハックも感心しつつ、弁当を開ける。チラ見したサブローはぞっと青ざめた。

    「ハック……それは、何だ?まさか、ダークサクリファイズが……!?」
    「れっきとした日の丸弁当っすよ」
    「そ、そうか。日の丸か」

    サブローはまじまじと人の弁当を眺めた。紫に沸騰し、ボコボコと謎の気泡と煙を放っているが、ちゃんと米である。ハックが昨夜米を研ぎ、炊飯器にセットし、朝に弁当箱につめた自信作である。本当はおにぎりにしたかったが、寝坊して時間が無かったのと面倒だったからやめた。

    「おかずはないのか……」
    「冷凍食品切らしてて」
    「ハックが作ったのか!す……すごいな、色々と」
    「独り暮らしっすからね。サブロー君は、お母さんの手作りっすか」
    「マ……母さんが作ってくれることもあるが、今日のは僕の手作りだ」

    ハックが素直に感嘆すると、サブローは照れ臭そうに鼻の下を掻いた。

    「わりと器用なんすね」
    「ま、まあ。手伝いはよくしてるから」
    「マザコン扱いされてるっすけど、サブロー君のお母さん思いなとこ、俺はわりと好きっすよ」
    「えっ」

    サブローが閃光弾のように目を輝かせた。どうやらハックは、リップサービスをやりすぎたらしい。鬱陶しいのでもっと褒めてほしそうに尻尾を振るサブロー犬を無視し、白米のど真ん中に箸を突き立てた。謎の科学反応で液状化した梅干しを口に放り込む。サブローがやけに怯えているのが気に障った。

    「なんすか」
    「いや、だ、大丈夫なのか……そうだ!よかったら、僕のおかずを少し食べないか?」
    「いいっすよ。サブロー君のご飯でしょ」
    「僕は今朝、マ……母さんの偉大なる供物をこの身に収めてきた。多少昼食の量が減っても問題ない。それにハックだって、おかずなしに白米は……白米なのかそれは?まあどっちでもいいが、キツいだろう」

    サブローが卵焼きをそっと箸でつまんだ。断ろうとしたが、つやつやした金色に、ハックの腹がいち早く応えた。喉が無意識に上下する。サブローのくせに、やたらと旨そうな卵焼きを作りやがって。

    「遠慮するな。我が手で産み出されし金塊だ。お前の体にエナジーを与えるだろう」
    「うう……じゃあ有り難く」

    食欲には抗えなかった。卵焼きを受けとる時、箸の先がわずかに触れ合い、サブローが激しく動揺する。我関せずで卵焼きを食べると、確かに美味しかった。白身と黄身がべちゃべちゃに混ざっていないし、かといって焼きすぎてカチカチになっているわけでもない。ふんわりと巻かれた層は舌触りが良い。塩だけのシンプルな味付けも、卵本来の味わいを引き立たせる。

    ハックは謎の敗北感を覚えた。サブローは痛々しい中二病だが、顔は存外悪くないし、シャボのメンテナンスをするぐらいには優秀だ。マザコンと嗤われようが家族思いで、中二要素さえなければ常識的感性の持ち主でもある。そこに料理上手ステータスまで追加されると、意外とこのサブローは優良物件であるのだ。中二病でさえなければ。意味不明な世界観丸出しの言葉遣いと間の悪ささえなければ。

    「どうだ、旨いか?」
    「……旨いっす」
    「そうか!ミートボールもどうだ?こっちは市販のやつだが」
    「サブロー君、やけに気前いいっすね。何を企んでるんすか」
    「企んでる?」

    サブローはキョトンとし、ふわりと顔を赤らめた。

    「僕はその……別に、代償をお前に要求するつもりはないが」
    「だったらどうして、そう親切にしてくれるんすか」

    サブローの箸がモゾモゾとミートボールをつついた。ハックが食べられなくなるので止めてほしい。

    「親切というか。と、友達と、お昼食べること、あんまり無かったというか……」
    「YBTの人達は……あぁ」

    聞かずとも納得した。シャボはメカなので食べ物を口にしない。ティラはサブローと二人でご飯を食べてくれるような優しいおと……女ではない。そして理工学部でも、サブローはもれなくボッチである。これまで一人、隅っこの方で弁当をつついていたんだろう。ハックの胸から敗北感がスーッと消え、代わりに同情と哀れみが押し寄せてきた。よく考えたら、考えなくても、サブローなんて内向的で妄想型のあたおかで、空気が読めなくて、暴走しがちのトラブルメイカーじゃないか。どこが優良物件なんだか。ハックだったら段ボールに詰めて返送し、料金の返却を求めるレベルである。

    「くれるんならもらうっすけど」
    「ふっ、好きに食べるといい。内なる力を解放し、永炎の漆黒を放つにも、糧というのは必要になるからな」
    「はいはい。このポテトサラダは?サブロー君が作ったんすか?」
    「レクイエムだ。そうだ、僕がいちからジャガイモを潰して……そんなごっそり持ってくのか……」

    サブローが辛そうな顔をしたものの、すぐに「いいだろう!持っていけ!」と腹を括った。マヨネーズの酸味が後を引く。

    「これも美味しいっす。そうだ、お返しといっちゃなんだけど、サブロー君。俺の梅干し食べるっすか?」
    「梅干しってどれ……遠慮しておこう。そうか、旨いか、ふふふ」

    サブローは気色悪い含み笑いをした。そして満面の笑みをハックに向けた。

    「よし!明日はもっと豪華な供物を捧げてやろう!明日もこの時間、この場所で」
    「いや、明日は……」
    「黄金の衣をまといしチキンにするか、ダーク・ミンチにするか」
    「なんすかそれ」
    「要は唐揚げとハンバーグだ」

    明日はキリンさん達と部室で食べるんで大丈夫っす。そう言うつもりだったのに、いつの間にかサブローのペースに巻き込まれてしまい、ハックは失笑するしかなかった。
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