簡易結婚式 折り畳みテーブルに頭を預け、左耳を天板に押し付けて杉元が目を休めていた。そろそろそいつを畳んで貰わないと布団が敷けない。テーブルの大きさは長辺七十五センチ、短辺五十センチ、高さも五十センチくらいのもので、飯を食う時に使い、食い終わったら畳んで壁際に移していつも立て掛けていた。天板は成形板で脚は天板の木目色に合わせたスチール製で、二人分の飯を乗せたらそれなりにいっぱいになってしまう。そのこじんまりとしたテーブルの天板に上半身を預けて、胡座をかいて丸まっている背中を見つめる。散髪に行ったばかりの襟足が寒そうだ。
杉元、テーブル片付けないのか。
傍に行ってしゃがみこんで肩を叩く。顔を覗き込む。横たわった額の斜め上にスマートフォンがあり、音楽がかかっていた。クラシックか何かで珍しいと思いつつ、タップして止められるかと手を伸ばすと杉元が目を開けてそれを遮った。
尾形、待って、俺、凄い発見したの。
何が。というかやっぱり起きていたのか。
ちょ、良いから、ここ座ってみ、ここ。
とんとんと自分の隣のカーペットの上を叩いて招かれる。そこに腰を下ろした。
それで、こうやって、お前も天板に耳をつけてみ。
云われるがまま、天板に耳をつける。天板に共鳴して音楽が大きく響いて聴こえた。
な、スピーカーみたいじゃないか。
まあ、確かにそうかもしれんと思って黙って頷く。顔の二、三十センチ先に杉元の顔があり、頷いた俺を見て嬉しそうに微笑む。
これは何の曲だ。
讃美歌とかなんかそういうの。教会で流れているようなやつ。音が響いて聴こえることに気が付いて、パイプオルガンとか聴いたら良さそうと思って検索して聴いていた。
そうか。
会話が終わって二人で少しまた音楽に耳を傾ける。目を閉じて教会を思った。次に目を開いたら杉元の顔がすぐそこにあった。にじり寄って来ていたらしい。パイプオルガンの音色を聴きながら、キスをする。
簡易結婚式。
唇を離して杉元が冗談を云う。
ごめんだな。
そう云うと思った。
杉元がにいっと笑う。耳の奥で音が鳴り続ける。胸にも届く。神も音楽も目には見えないが、音楽はこうして胸に届く。そして揺さぶってくる。なら神も、と考えて途中で止めた。誓うとしたら自分達にだけだ。にしても結婚式という言葉を杉元の口から聞くとは思ってもなかった。杉元がそんなことを考えているだなんて思いもしなかった。けれどもうすぐ二年の仲だ。そんなもんか。
挙げたいのか。
尾形、絶対タキシード似合うと思うから挙げたいなって。
タキシードが二人か。
写真館で写真撮るだけでも良いけど。予約いつにする? 見学行く? 指輪いつ買いに行く?
気の早い。まず、俺は挙げたいとは言っていない。流石、早漏様だな。
その早漏様にひいひい云わされている癖に、よく云うよ。
早く今夜もひいひい言いたいな。
んじゃあ、片付けて布団敷きますか。
そう言い合って杉元は折り畳みテーブルを畳み、俺はせっせと布団を敷いた。