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    hisoku

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    hisoku

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    だいぶ前に書いた話です
    雨の中、独りになりたくなって杉の部屋を出ていく尾の話、尾語り、ハピエンです

    #杉尾
    sugio
    #現パロ
    parodyingTheReality

    水も滴る 近頃、上手く眠れなくなる日がある。今日もそれだ。身体は疲れ切っているのに眠りにつけず、ぼんやりと目を開き、暗い部屋の中、横寝した体勢で布団の中で隣に眠る杉元の寝息を聴いて過ごしていた。
     鼾もかかず、深く静かに肌掛けをのせている胸を上下させて、それは今日も満足だったと謂わんばかりにも見えて、さながら寝姿からも本人の性格が滲み出ているようだった。杉元はそう思うと解りやすいな、と思う。さっきまでの荒々しい獣みたいな息遣いが嘘みたいだ。
     ふいに、部屋に籠る熱気と雄の匂いを逃がすために少しだけ開けて網戸にしていた寝室の窓から、しとしとと雨音が聴こえてきたのに気付き、ベッドの中から抜け出して網戸を開け、目を細めると幽かに闇夜の中でも落ち行く雨粒の描く線が見えた。
     再び網戸を締めると脱ぎ捨てていた衣服を適当に纏う。もしかしたらワイシャツは杉元の物だったかもしれない。電気を点けぬままの暗がりの中、靴下までは面倒になって履くのはやめた。
     ふと、おがた、どうした、とベッドの中から杉元の声がして振り返る。寝惚けているからか、いつもより低く柔らかでゆっくりとした口調だ。起こしてしまった。

    コンビニに、行ってくる、喉が渇いたから。

    ん、そっか、俺もなんか飲みたい、俺にもなんか買ってきてよ。あとゴムも一緒に買ってきて。さっきのでストックなくなっちまったし。そんで戻って来て喉潤したら、もう一回しよ、つうかしてえ。

    ん、解った。

     財布をポケットに捩じ込み部屋を出る。
     時々独りになりたくなった。傘は態と持たず玄関に置いてきた。



     コンビニへは五分も歩けば着く距離だ。アパートの共用階段をカンカンと降りて行くと外は目測よりも雨足が強そうだった。見上げた後、構わず夜道を歩き出す。セックスの後にシャワーは浴びていたものの、布団の中でもまた身体が暖まっていたのか、剥き出しになっている顔や手の上に落ちてくる雨粒がやけに冷たく感じられた。
     道に出て、二つ目の街灯の下まで歩いて、そこで立ち止まった。雨で頭を冷やす。それと共に身体も冷やして凝固させているような感覚だった。
     杉元を試そうというつもりはない。このまま消えるように何処かへ行ってしまおうかという気にはなれなかった。もしもそんなふうに蒸発してしまったとして後悔するのは自分の方だと解っている。
     ただ特定の誰かと常に一緒にいるというのに俺がいつまで経っても慣れないのだ。



     物心がついた時から自分の中に何度考えても前世のことだとしか思えないような記憶があって、俺と同じように杉元にもその前世の記憶があって、その当時の俺達は互いに相手のことを殺そうとし合っていたことも覚えていた。
     それでも再会した今の俺達は恋人の関係になって、杉元はどうだか知らないが、俺は御丁寧にも家庭環境も明治時代のそれと殆ど同じような感じだったので独りでいることが普通だった。二度も続くとそうあることに慣れきってしまう。
     雨に濡れながら、無意識に左右の手でそれぞれ反対側の自分の肩を抱く。昔は、子供の頃はよくこうやって自分で自分の腕を身体に巻きつけるようにして自分のことを抱き締めていた。腕の中は空でもこうすることで寂しさが紛れて、気持ちが落ちつけたものだ。久し振りにその感覚を味わおうとする。あんなにも独りに厭き厭きしていた筈なのに、今は独りが少し恋しいとは俺もなかなか我が儘になったもんだと思う。杉元のせいだ。
     ああ、やはり違う、間違えた。これは杉元のシャツだ。近付いた腕のあたりから馨ってきた匂いで解った。馬鹿だ。こうしてわざわざ夜半の雨にまで濡れたというのに、独りになり損ねている。それにしても自分は無意識に杉元のシャツを選んできたのだろうか。それとも故意にだろうか。ふ、とひとり苦笑してしまう。
     今の自分がどんな形をしていて、どんな顔をしているのか解らない。杉元とまぐわり過ぎて、自分がどうなっているのか解らない。どんどん不確かで弱いものになっていく気がする。

    お前、そこで何やってんの。

     思いの外早く背後から杉元に声を掛けられて、空を仰いだ。傘を差しているのだろう、ビニール傘を打つ雨音が聞こえた。

    ここでシャワーを浴び直そうかと思って。これなら、ガス代水道代要らずだろう。

     振り向かずそのままの体勢で返事をする。

    バカ尾形、うちの風呂場で温かいの浴びろ。

    お前あの後、寝直したんじゃなかったのか。

    窓から手を振ってやろうかなと可愛いことを思い付いて起きた。街灯の下にいるとお前、ちょっと光って見えんのな。

    色が白いからってそんなことあるか。

    俺にはそう見えんだよ。お前の姿はすぐ目に入るし。それはそうと、起き上がって手を振ろうと窓辺に立ったら雨が降っていたから、傘ちゃんと差していったのか、道の中を探したら、お前がここで突っ立ってそうやってるの見えたから。って本当に何やってんの。

    コンビニに行って、お前と俺の飲み物とゴムを買ってくるところだろ。

     肩を抱いていた両腕を下ろして前を見て歩き始める。後ろからビニール傘がついて歩いてくた。

    また独りになりたくなったのか。

     さらりと核心をつかれて、こちらもさらりと、そうだな、と答える。

    どっか行くにしても、そのシャツ返してからにしろよ。

     云われて立ち止まる。

    それもそうだな。お前のだよな、これ。

    それもそうだろ。それで俺には慣れてよ。

    お前が光って見えるだの、俺を大事にしたいだの云うと自分がどういうものだったか解らなくなってくる。俺はどういう形をしているんだ。もうどろどろのくちゃくちゃになっていないか。解らないから、今こうして、冷し固め直そうかと思っていた。

    尾形は尾形って形をしているな。

     それでは全く解らん、そう呟いて雨に濡れて下ろしていた髪が額に貼りついて邪魔だったのを掻き上げて後頭部に向かって流す。

    尾形という男はそうやってすぐに髪を掻き上げたりするものだな。

    それはそうだな、それで。

     すぅっと人差し指と中指が伸びてきて、襟足の辺りを撫でられる。そうされた時の癖で思わず目を閉じた。

    このへんを撫でると感じるのか大人しくなってくれる。

     溜め息をつきながら、それは形の話じゃないだろ、まあいい、それで、とまだあるのなら続けるよう促す。次は耳の縁を指先でなぞられて耳朶を優しく摘ままれる。目は閉じたままだったが、さっきよりも身体の距離が一歩分詰められていると感じた。

    ここを優しく食むとその気になってくれる。

    あとは。

    あとは、尾形は俺のことが大好きだろう。

     指摘されて閉じていた目を開く。いつの間にか杉元が正面に回り込むように立って俺の顔を覗き込んでいて、開けたばかりの目が合ってしまう。

    それに、慣れない。他のことならなんとかしてやろうという気概が持てるが、この感情の扱い方にだけは要領を得ない。

    うん。お前のそういうところは解ってるつもりだから、早く慣れろとは言わねぇけどさ、慣れて欲しい。それで、独りになる時間が欲しいにしても、お前が風邪ひいたりしたら嫌だから、雨が降っている時はちゃんと傘くらいは差して行け。

    コンビニで飲み物とゴムを買ったら戻るつもりだった。

    お前そんな濡れたままで行ったら通報されるよ。釦も一段ずれてるし、乳首も透けて見えてるし。

     云われて自分の上半身を見る。まんま指摘された通り過ぎる自分の様に馬鹿馬鹿しくなってきて思わず苦笑した。

    ああ、冷えてきたな。

    ほらぁ。

    帰ったらもう少し俺がどんな形をしているのか教えろ。

    いくらでも。帰ったら一緒にシャワーも浴びながらいくらでも教えてやるよ。あと、お前がいくら独りになりたがっても、それ上回る強い気持ちで俺がお前を独りにしたくないって想っていることってことも解らせてやるから。

    力ずくでか。

    言葉攻めでも。

    お手柔らかに頼む。

    加減が出来たらな。

    さっさと買ってきて帰るか。

     そう言って今度は並んで歩き出す。杉元が傘を俺の方に傾げるように差してくるので、中棒を押し返して真っ直ぐになるよう持たせる。

    尾形は店の外で待っておけよ。

    こんな服が濡れているくらいで通報されるかよ。

    違えし、店員の男でも女でも何でも、他の奴に見せたくねぇんだよ。

    俺が水も滴る好い男だからか。

    お、解ってきたか、自分のこと。

    言っていてちょっと虚しいな。

    ちょっと面白いからもっと云ってみて。

    馬鹿にされているのに言うか阿保が。

    じゃあ、俺が言ってやるよ。尾形は、水も滴る好い男だよ。俺のシャツを着て出て行ったのは態となのか。それで透けるほど濡れてくるとか俺を誘っているのか。とかそういうことを俺が言うと、そうやって耳を赤くするだろ。俺はお前のそういううぶなところも好きなんだよね。

    動揺すると解っているのなら直ぐ簡単にそういうことを云うのはやめてくれ。逃げたくなる。保てなくなる。バカ尾形クソ尾形で丁度好い。

    なぁ、クソ尾形、傘持ってて。やっぱ見せたくないわ。俺、走って買って戻ってくるからここで光って待ってて。そんで直ぐ家に帰ろ。お前が俺にとってどういうものか寝る間も惜しんで解らせてやるから。

     傘を俺の手に押しつけて勢いよく走り出した背中を見て、ああ一生こいつには敵わない、と諦めた。    
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    Replies from the creator

    hisoku

    DOODLE過去作
    湯沸室で杉と尾がお茶を飲む話です
    前世記憶あり現パロ
    尾語り
    湯沸室 喫煙をする習慣はないので、就業中の休憩といえば緑茶だ。あるいは珈琲。それと少しの甘いものかしょっぱいものを一口頬張るのが日課で、デスクワークに根が詰まり、肩も凝りそうだったので仕事の効率が落ちる前に気分を変えようとひとり湯沸室に向かった。買い置きのドリップコーヒーを淹れるために湯を沸かそうと薬缶のことを思い、買い置きのミネラルウォーターはまだ残っていたっけと思い起こしながら廊下を行く。
     スタッフルームのあるフロアの一角、廊下奥の角の階段と廊下を挟んだ少し離れた斜向かいにトイレが、その対角線上の奥まった場所にひっそり湯沸室はあった。そこは小会議室の並びでコの字に壁と壁と窓に挟まれた造りになっていて、二畳半程の広さがあり、冷蔵庫と棚、その棚の上に電子レンジ、隣に小さな流し台があった。流し台にはガス台が二口と壁にガス給湯器が備えつけてある。どうってことはない必要最低限が備え付けられている極普通の湯沸室だが、流し台が木目調の引き出しのついた懐かしい感じのする流し台で、ばあちゃん家の台所を彷彿とさせて、そこを緑茶を飲みながら眺めているだけでも癒しを覚えた。面積の狭さも落ち着く。
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    hisoku

    DOODLE作る料理がだいたい煮物系の尾形の話です。まだまだ序盤です。
    筑前煮 夜の台所はひんやりとする。ひんやりどころではないか。すうっと裸足の足の裏から初冬の寒さが身体の中に入り込んできて、ぬくもりと入れ換わるように足下から冷えていくのが解る。寒い。そう思った瞬間ぶわりと背中から腿に向かって鳥肌も立った。首も竦める。床のぎしぎしと小さく軋む音も心なしか寒そうに響く。
     賃貸借契約を結ぶにあたって暮らしたい部屋の条件の一つに、台所に据え付けの三口ガス焜炉があるということがどうしても譲れず、その結果、築年数の古い建物となり、部屋も二部屋あるうちの一部屋は畳敷きになった。少し昔の核家族向けを意識して作られた物件らしく、西南西向きでベランダと掃き出し窓があり、日中は明るいが、夏場には西日が入ってくる。奥の和室の方を寝室にしたので、ゆったりとしたベッドでの就寝も諦め、ちまちまと毎日布団を上げ下げして寝ている。また、リフォームはされているが、気密性もま新しい物件と比べるとやはり劣っていて、好くも悪くも部屋の中にいて季節の移ろいを感じることが出来た。ああ、嫌だ、冬が来た。寒いのは苦手だ。次の休日に部屋を冬仕様をしねえとと思う。炬燵を出すにはまだ早いか。洋間のリビングの敷物は冬物に替えとくか。気になるところは多々あれど住めば都とはいったもので、気に入って暮らしてはいて、越してきてもう三年目の冬になった。
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