ミネラルウォーター 春を前に最後に二人で鍋でもするか、と行きつけのスーパーにやって来て、さっきまで傍にいたのに姿が消えたと探していた尾形がふらり戻ってくるなり、淡い水色のキャップに山の絵と赤い字で商品名のかかれた白いラベルの巻いてあるミネラルウォーターの入ったペットボトルを、これも一緒に、とカゴの中に入れてきたのを見て、前々から思っていたことを訊ねることにした。
またこれか。なぁ、お前って、その水好きなの?
好んでいるのか、という意味なら違うが。
でもいっつもそれ買うし、切らさないように冷蔵庫に常備しているだろ? なんで? 寝る前に、どんなにふらふらになっていても必ず飲むし。
さらに訊かれた尾形が一息おいてから俺を見て不敵に微笑むと、芝居臭く首を傾げ前髪も掻き上げながら口を開く。
硬水はお通じに良いから。
お通じ?
これでも気を遣っているんだが。さて、杉元には何故俺がそこに気を遣っているか解るかな。
あ、うん、解った気がします。
毎度毎度ふらふらにさせられて、早く寝たいのに台所までこれ取りにいくの、結構大変なんだよな。でも飲まなきゃなんだよな。
こ、今度から俺が取ってきて渡すから。
今夜から、そうしてくれると助かるな。
解ったって。
尾形がなおも悪い顔をして笑う。俺は恥ずかしいやら気まずいやらでどう会話を続けていいか解らず、ゆっくりとその顔から目を逸らす。
もう少し俺に優しくしてね、ダーリン。
ここぞとばかりに尾形がふざけて耳元でそうも囁き、続けて外耳孔に向かってにふうっと細く息を吹き掛けてきて、ちょっ、やん、と情けない声を出してしまった。