水焜炉それ、何やってんですか。
そう問う男の声が聴こえてきて、それでそれは自分に声を掛けられているのだと判断するも、一体どこから誰が話し掛けてきているのか解らず、きょろきょろ辺りを見回していると、上の階です、と声がして、振り返って見上げると二階のベランダにグレーのスウエット姿の男性がひとり立っているのが見えた。その時に初めて尾形と言葉を交わした。春先の休日で、陽気が良く、もう正午前だというのにその男の足元には洗濯かごが置いてあるのが見えて、今から洗濯物を干そうとして出てきたのだと解った。返事をしなければと思って口を開く。
あっ、こんにちは、水焜炉を。
それは、上から見ても解るんですけど、それ、そこで使っても良いんですか。
あっ、えと、使用許可は取ってあるんですけど。こういうこと庭で出来ますかって訊いて。直火じゃなければって。
借りて住んでいる一階部屋についている、ベランダと同じ奥行きのデッキと経年で所々剥げてきている芝生の張られた、せいぜい自動車一台が停められるくらいの大きさの専用庭で、ひとりバーベキューみたいなことをしようと台所で熱した炭火を入れた水焜炉を芝生上に置いた小型のアルミテーブルの上に運んで、準備をしていた時のことだった。
煙が上がってきて洗濯物に当たると匂いがついて困るんですが。
あ、そう、っすよね。あのでもこれ、煙があまり上がらない、構造になってて。
と説明しながらも要するにやめてくれと云われているのだと解ってもいて頭を搔く。ベランダの手摺に両腕を預け、じっとこちらを見下ろしている尾形を見て、休日なのに物音ひとつしてこなかったから、てっきり留守なんだと思っていたのにいたのかよ、と内心毒づいてもみる。両隣の部屋は少し前から空室で、絶好のチャンスだと思っていた。一階部屋はあまり人気がないらしい。庭を使っている人も少ない。
で、それでそこで何を焼くつもりだったんですか。
低い、妙に胸に響く声だ。
あー、に、お肉焼こうかなぁって思って。
何の肉?
鶏肉とか色々。その、土曜日だし、焼き鳥しながらひとり昼間から呑んじゃおっかなぁ、と思って朝から用意してたんすけど。
手に持っていた食材の入った金属製のバットを尾形に見えるよう掲げて答える。それを聞いて尾形が水焜炉と俺の顔と足元の洗濯物を見てから口を開いた。
その焼き鳥半分、俺にもくれるというのなら、そこで焼いても良いですよ。
えっ、半分?
半分。使用条件としては悪くないだろ。発泡酒くらいなら俺も持っていってやるし。
そう一方的に決めるなり、こちらに背を向けて洗濯物をハンガーに掛け始めた尾形を見て暫く立ち尽くし、初対面なのに半分も寄越せって、こいつ、図々し過ぎない? と思ったのを覚えている。
初対面、そうだ、初対面だ。引っ越してきた当時、何回か伺ったが上の階の住民にだけは会えず、挨拶を断念していたことをはっと思い出し、もう一年近く住んでいるけど、よく考えたら名前が解らない。表札出ていたっけ。目を閉じて思い出そうとしてみるが、駄目だ、出てこない。今さら、あの、何さんでしたっけ、なんて訊きにくい。別に自分は人見知りではないけれど、気まずいな、ともう一度ベランダにいる尾形を見て小さく溜め息をつき、本当に食いに来る気なのかな、と思いながら向き直って蹲み込み、水焜炉の中の炭火を見つめる。炭は良い具合だ。手を翳し、ぱちりと微かに爆ぜたのも見て、何にせよ焼き始めますかね、と軍手を嵌め、バットの中の食材に手を伸ばす。用意していたアウトドアチェアを引き寄せて、そこへ座る。
先ずは朝から拵えた鶏もも肉と葱のねぎまから。我ながら上手く作れたと思う。二人分を意識してそれを四本、網の上に置き、フォークで穴だけ開けた獅子唐もいくつか載せる。味付けは呑むことを前提にしっかりと塩と胡椒を振り、水焜炉の柔らかい炭火でじっくりと焼き上げていく。練り山葵も用意した。次第に鶏肉の表面に脂が光るのが見え、鶏肉の焼ける香ばしい馨りもしてきて、涎が出てくる。好い感じだ。バットの方を見、少しねぎまを寄せて出来た空間に砂肝の串を並べる。これも朝から丁寧に銀皮の下処理を頑張った。それも四本。焼き鳥の串はどれも五本ずつ用意していただけだったので、バットの中に残るそれぞれ一本ずつになったねぎまと砂肝を見つめて少し寂しくなった。でもこうなりゃ、愉しく呑めたらいいか。てか上の人、来るんだよな? と思って顔を上げた時に呼び鈴が鳴るのが聴こえた。
はいはいはいはい、と声に出しながら部屋の中に戻り、小走りで玄関に向かうと、呼吸を整えてドアを開ける。こんにちは、と尾形の挨拶をする声が聴こえた。
こんにちは、マジで来ましたか。
マジで来ましたね。
あれ、着替えてきたんですか。
ベランダにいた時に着ていたグレーのスウェットの上下ではなく髪も整えられて、別の男のように現れた尾形を見て、思わず一歩下がって下から上へと舐めるように見てしまう。素足に足の甲を包むようなデザインの黒いベロアレザーのサンダルを履き、殆ど黒に見えるチャコールグレー色をしたリラックスパンツに柔らかそうなやや襟ぐりの広いカーキ色のカットソーにを合わせていて、尾形の雰囲気によく似合っていると思った。
部屋から出てくるのだから着替えるだろ。ああ、これ、約束の発泡酒と昨日の残り物だけど、良ければ。
あ、有難うございます。あの、杉元です。杉の木のスギにモトは、読む本のモトじゃなくて元気のゲンの字のモトの方を書きます。初めましてですよね。
そう言った時に、ああ、そうか、という顔をしてから、じっと俺の目を見つめてきて少し間を置いてから、初めまして、上の階に住んでいる尾形です、尻尾のオに形のガタ、と俺の言い方を真似た自己紹介をしてくれたのもよく覚えている。共用の廊下側からの射し込む逆光の中で見たその時の尾形の顔が妙に印象的で、妙に郷愁のようなものも覚えて、心が動いて、それまで何となく半開きにして対応していたドアをその瞬間に全開にしたのも覚えている。差し出されていたビニール袋も受け取ると、中に発泡酒が二本と何か料理の詰められたタッパーが入っているのも見えた。
中に、入っても?
ああ、うん、どうぞ。あ、庭用のサンダル一つしかなくて、靴、持って入ってきて貰えますか。
解った、靴な。お邪魔します。
真上の自分の住む部屋と全く同じ間取りの部屋だからだとは思うも、戸惑うことも、一度も余所見をすることもなく真っ直ぐに庭へと続く履き出し窓へ靴を片手に向かう姿に好感を覚えた。後を追うように玄関を施錠して庭に向かう。
へえ、庭ってこんな感じなんだな。
ひとりごちる尾形を横目に、それまで座っていたアウトドアチェアに座るよう、ここ座って、と声を掛けると少し笑うのが見えた。
え、なんか変ですか。
いや、同じだったから。この椅子、俺も持ってます。
え、じゃあ持ってきます?
いや、台所に置いて使っているので。
持ってこねえのかよ、と思いながら、慣れた様子で座る尾形を見て、渡されていたビニール袋の中から発泡酒とタッバーを取り出して、バット等を載せる用に用意していた別のアルミテーブルの上に置いてから、再び水焜炉の前へ行く。蹲んで串を転がす。ねぎまが丁度好い塩梅に焼けていた。
ねぎま、焼けましたよ。
そう言って紙皿にねぎまを二本乗せ山葵を添えて手渡すと、やっぱり部屋の椅子を取ってくる、と云って尾形が立ち上がった。
え。
すぐ戻る。
そう云うなり脱いだサンダルを片手に部屋の中に戻ると、一分後に息を切らして色違いのアウトドアチェアを抱えて戻ってきた。
持ってこないんじゃなかったんですか。
他に椅子がないようだったから。あんたも座れた方が良いだろ。
良いけど、部屋まで走って取りに行ってきたんですか。
ああ、せっかくの焼き鳥も発泡酒も温くなったら嫌だったから。
少し赤い顔をしている尾形を見て笑ってしまう。整えられていた前髪も小さく一房、目元に落ちてきていた。
食いしん坊なんですか。
その前に、杉元さんの歳、訊いても良いですか。
あ、二十五ですけど、と答えると、ああ、だったら俺とそんなに変わらないから敬語で喋らなくて良いし、呼び方も尾形で良い、気疲れする、と云い、自分家の椅子に座れるようアウトドアチェアを取り替えて置き直し、尾形が発泡酒の缶を手に取って、別に食いしん坊って訳じゃないが、これはちょっとなかなか旨そうだったから早くありつきたかった、と苦笑して答える。ん、と手渡されて、カシュ、と音を立てて各自発泡酒の缶を開け、乾杯、と言い合って缶をぶつけてひと口飲む。よく冷やされたアルコールが喉を勢いよく滑り落ちていく感触に爽快感を覚える。はあ、と声が出てしまう。
ああ、旨いな、染みる。
尾形も嬉しそうに呟く。それから、いただきます、と小さな声で云ってねぎまを頬張って、はふはふ口の中で冷ましながら静かに何度か頷く。
ねぎま、旨い?
旨いな。
笑顔で答えられて自分も笑顔になる。自分の分のねぎまを口に運び、パリッと焼けた皮の塩の効いたところを食べて、うんうん、頷いた。間髪を容れず、発泡酒を飲む。
ねぎま久し振りに食ったが、鶏も葱も柔らかくて甘い。へえ、焼いた葱も旨いんだな。
葱、しっかり焼いて食べると旨いよね。
そうなのか、焼いたこと、なかったな。だいたい煮るから。
だいたい煮るから?
砂肝を引っくり返しつつ、鸚鵡返しで訊く。
だいたい煮る。
更に鸚鵡返しで返事をされて笑う。あ、と声を漏らして、さっき渡されたタッパーを手に取り、蓋を開けてみる。中にはこっくりとした色合いをした里芋と烏賊の煮物が入っていた。
これ、お手製なの?
そう。
食ってもいい? あ、チンしてきても良い?
そのつもりで持ってきたから。なあ、そこのウインナーと南瓜と、薩摩芋、焼いてても良いか。
あ、うん。
返事をしてバットごと尾形に手渡す。自分はタッパーを片手に部屋に戻り台所へ行って、里芋と烏賊の煮物を温める。小皿と箸と一緒に盆に載せて、庭に戻ると尾形が、はあ、とアウトドアチェアに背を預けたところだった。背中の形に背凭れが大きく歪む。水焜炉上の網の上にはウインナーと南瓜が綺麗に載せられていて、砂肝が二本と獅子唐が網の端の方に寄せられていた。
悪い、獅子唐と砂肝、勝手に貰った。
くるくると串を回して掲げて尾形が報告して、いいよ、旨かった? と訊くと、旨い、と即答がくる。
塩加減が絶妙だった。この歯応えも好いな。
煮物、温めてきた。いただきます。
どうぞ。
目を伏せて発泡酒を煽り、空になったのか、左右に振って少し考える顔をしている横で、里芋を口に運ぶ。しっかりと味の染みた柔らかい食感に自然と笑みが溢れてくる。
えっ、旨っ。
それは良かった。酒、部屋から取ってくる。
あ、冷蔵庫の中にあるの取ってくる。
取ってきて良いか。
あ、じゃあ、お願い。チューハイが二つ、レモンとグレフルのが真ん中のドアの真ん中の段にある筈だから。
解った。真ん中な。
笑って紙皿を置いて尾形がまた庭を出ていく。見送りながら、烏賊も口に運ぶ。こっちも柔らかい。初めて食べるのに懐かしさすら覚える。
マジか。
貰った煮物は滅茶苦茶旨いし、一緒に過ごしていて滅茶苦茶居心地が良くて、初対面とは思えない。はあ、と感嘆の溜め息が出る。残りの発泡酒を煽り、もう一つ、里芋を食べる。大好きな味だ。
杉元、取ってきた。
戻ってきた尾形にレモンとグレープフルーツの缶チューハイを見せられて、それ、尾形の好きな方、飲んで、と伝える。その時に初めて呼び捨てで呼び合った。
じゃ、グレフルの方、貰う。
缶を開け、また乾杯をして飲む。砂肝も食べる。くたくたに焼けていた獅子唐に焼き肉のタレをかけて食べる。ほろ苦い口のままチューハイを飲む。尾形がウインナーの面倒を見る傍ら、南瓜と薩摩芋の焼き具合を裏表チェックする。どちらも軽くレンジで蒸してあるので、焼き目がつけば食えるよ、と伝えると、ああ、解った、と返事をする。打ち解け過ぎて、さっき始めましてをしたとは思えない。また溜め息をついてしまう。溜め息に気付いて尾形がこちらを向くのが解った。それに合わせて口を開く。
尾形ってさあ。
なんだ。
もっと付き合いの悪い奴なのかと思ってた。俺、引っ越してきた時に何度も何度も挨拶に行ったのに出て来なかったし。
挨拶?
呼び鈴鳴らしたのに。
ああ、壊れてた。それ、一年くらい前だろ。音が鳴らなかったんだ。
でもノックもしたんだけど。
されてたかな。
した。控えめにだけど。
そうか、それは悪かった。
ウインナーを見つめたまま謝られて、謝れって言いたかったんじゃなくてさ、と説明する。
一年損したなあって思って。
損ってどういう。
あの時、挨拶出来てたら、もっと早くから尾形とこういうことが出来てたのかなって。
そうか? 俺だって朝に話し掛けたあれは最初はただのクレームだった。でもお前の受け答えが良かったから、もう少し話してみてもいいなと思って、気が変わった。引っ越しの挨拶なんて、されてもたいてい、ああ、はい、そうですか、で終わるだろ。あと起き抜けで、ちょうど腹も空いていたし旨そうだなって思って、ああ提案した。
じゃ、タイミングか。
じゃないか。それもう食えるか。
うん、食えそう。
具合を訊かれたウインナーを紙皿に載せてやり、尾形がねぎまで学んだのか慎重に息を吹き掛けてから口に運ぶ。どうやら猫舌らしい。
旨い?
旨い。酒も旨い。最高だな。
洗濯物だけ、ごめんだけど。
ああ、それなら部屋の中に干した。
え。
あの後、ハンガーに掛けてから部屋のカーテンレールに全部移した。
マジか。
ははっ、賢いだろ。煙は確かに思っていたより少なかったけどな。
尾形が笑って南瓜を引っくり返す。それを見ながら自分は煮物の里芋と烏賊をまた口に運ぶ。やっぱり旨い。箸が止まらなくなり、全部ひとりで食いきってしまいそうになる。
なあ、米はないのか、杉元、米。
あるけど。
食いたい。
洗濯物臭くならないのに?
臭くならないのに。そう云うお前だって俺の煮物食っただろ。
食った。旨かった。おかわりしたい。
もうないのか。
うん、あともうエンペラんとこと芋も一個しかない。
そんなに気に入ったのか。
だって旨いもん。俺もこれ米と一緒に食いたかった。
また作った時に分けてやるよ。
マジで。
その代わり、お前もなんかくれよ。
え、料理を?
こういうバーベキューをする時は俺を呼ぶとか、あと、お前の得意料理はなんだ。
俺、煮物以外なら作れる。
なんで煮物作らないんだ。
習わなかった。スピード命っていうか、俺ん家、父子家庭でさ、早くにお袋亡くなっちゃって、親父と一緒に料理を覚えていったんだけど、男二人が夜仕事や学校やバイトから帰ってきてから、とにかくがっつり食えて腹が膨れるものを手早く作ろうと思うと、焼くか炒めるか揚げるかになっちゃって。
へえ。俺は逆に揚げ物とか殆どしないな。
唐揚げとか食わないの?
それは買ってくるものって感じだな。ばあちゃんと二人暮らしだったから、脂っこいものはあまり食卓に上らなかったし、俺の分だけ、ばあちゃんが惣菜屋で買ってきて出してくれる、みたいな。
だから、だいたい煮る?
そう。
じゃあ、揚げ物上手く出来た時、持っていくから、尾形は煮物、俺にくれない?
物々交換だな。交渉成立だな。それで今は米を食いたい。
解った、持ってくる。
この、鶏手羽先、焼いていいか。
うん、それ味付けしてあるから焼くだけでいい。もしも炭火が弱ってそうだったら云って。台所で追加の炭に火、入れてくるから。
解った。味付けって何の味だ?
柚子胡椒とかでマリネしてあっから。
マリネってなんだ。
尾形の声がして、なんか漬け込むみたいなやつー、と適当に説明しながら、部屋の中に戻り、白米を二人分、お茶碗に装って温める。ついでに何か他に焼くものはないかと冷蔵庫の中を物色して、ブロックベーコンを引っ張り出すと厚めに何枚かスライスして皿に盛って、ご飯と一緒に庭へと運ぶ。入れ替わりに、俺も何か見てくる、と笑って尾形が自分の部屋に戻っていき、さっきと同じ発泡酒二本とエリンギと茄子とはんぺんを持って帰ってきて、いいじゃん、いいじゃん、と言いながら、それらを焼いて食べた。だらだらと水焜炉で焼いて米に載せて食って酒を呑んで、自己紹介の続きのような話をして、笑ったり、聞き入ったり、馬鹿にしたりして、炭も途中で継ぎ足して、お開きになったのは十七時頃だった。愉しくて、久し振りにこんなに人と話した、有難う、と云って尾形が部屋に帰っていって、かちゃんと自分の部屋のドアを開けただろう音を聴いた時に何とも言えない気持ちになったのを覚えてる。丁寧な開閉だった。
里芋と烏賊のやつ、お前好きだろ? 違ったか。
久し振りにそう云って持ってきてくれた尾形の顔を見た時に、その初めて食べた時のことをひとり瞬時に思い出して固まってしまったのを見て、不安そうな顔をした尾形に気付き慌てて首を振る。
好き好き。
ははっ、餌付け甲斐があるな。
お前、なんかリクエストある?
鶏の唐揚げ、久し振りに食いたいな。
解った、近々作って持って行く。
やったな。
あれから尾形は部署が異動になったとかで、休日も寝溜めをするようになって、また誘え、と云われた水焜炉バーベキューも出来ていない。尾形と一緒に食べたあの日が最高過ぎて、俺もひとりで水焜炉を使う気になれなくなって、台所の隅っこに置きっぱなしだ。
なあ、尾形、また、ふたりバーベキューしような。
したいな。愉しかったな。
愉しかったよな。
じゃあ、おやすみ、杉元。
おやすみ、尾形。
挨拶を交わして尾形が手を上げて自分の部屋へ帰っていく。ドアを開閉させる音を聴き届けると、受け取ったタッパーを見つめ、自分の胸がきゅっと小さく痛む音を聴いた。部屋の間にある天井が憎らしい。