不眠。「っう…んぐぅ…はぁ、はぁ、はっ…!」
「司っ、しっかりして!大丈夫だから、ゆっくり深呼吸して…。」
「っ…スー…はぁ…。」
「よしよし…可哀想に。おれが眠れるまでトントンしてあげるから、もう一度おやすみ?」
「ん…。」
最近、深夜に目が覚める。決まって二時に起こる発作のような過呼吸は、なかなか良くなる見込みがない。毎日起きてはレオさんになだめてもらって眠る。そんな日が続いたある日。朝起きると、連日の寝不足からか足に力が入らずフラッとよろけた。
「おっと…!」
「司!」
「すみません…なんだか、思うように身体に力が入らなくて…。」
「今日は休んだ方がいい。」
「ですが…。」
「おれも今日は休んで一緒にいるよ。」
「いいんですか?」
「こういうときに一緒に居ないと意味ないだろ?」
「ありがとうございます。」
レオさんと二人、一日だけ休暇をもらってゆっくり過ごすことにした。
「司、何か食べたいものとかある?」
「レオさんの作ったホットケーキ食べたいです。」
「わかった!ちょっとだけ待ってて♪」
「はい、楽しみに待ってますね♪」
キッチンからは、ホットケーキの焼けるいい匂いがしている。しばらく寛いで待っていると、レオさんがぴょこっとドアから顔を覗かせた。
「司〜できたよ〜!」
「今行きます!」
ダイニングテーブルの上には、重ねられた美味しそうなホットケーキにバターとはちみつがかかっている。別の皿にはアイスにクリームにジャムにチョコ、フルーツまで…。
「すごいですね」
「どう?美味しそう?」
「はい!とっても♪」
「飲み物は、紅茶?牛乳?オレンジジュースもあるよ?」
「紅茶をいただきます♪」
「りょーかい!」
レオさんが紅茶を入れて持ってきてくれる。向かいに座ったレオさんは、コーヒーを飲みながら食べ始める。
「いただきます♪」
「うん、美味しいな!」
「ホットケーキとっても美味しいです!」
「良かった、喜んでくれて。」
「実は朝起きたときはあまり食欲もなかったのですが、レオさんのホットケーキならいくらでも食べられそうです♪」
「うん♪食べ終わったらお散歩でもする?」
「たまにはそういうのもいいですね。」
「片付けもしておくから、ゆっくり準備しておいで。」
「はい♪」
レオさんが洗い物を済ませてくれている間に部屋で着替えてからリビングのソファーに座って待つ。
「行こっか♪忘れ物はない?」
「大丈夫です!」
忙しくなる前によく二人で来ていたお散歩コースを久しぶりに歩く。なんだか懐かしい感じがして、少しだけ寂しい感じもして、繋いでいるレオさんの手を少しだけぎゅっと握ると、レオさんは優しく微笑んで握り返してくれた。
「どうしたの?」
「なんだか感傷的になってしまって…。隣にいるのに寂しいなんて、変ですよね?」
「大丈夫。最近ちょっと忙しくて、二人で歩く時間も少なくなっちゃってたからな。」
「そうですね…。」
「おれも、寂しいよ。」
「はい…。」
「またこうやって、ゆっくりデートしよ。寂しい思いさせちゃってたな。」
「つかさは、最近あんまりうまくいかなくて、デートする時間もなくて…。」
「そういうときもあるよ。でも、司はいつも頑張ってるんだから、おれには愚痴ったっていいんだぞ?」
「ありがとうございます、レオさん。」
「あんまり1人で背負い込まないで?」
「はい…っ」
「おれがいつも傍にいるよ。」
「っう…。」
「よしよし、偉いな司は〜。そんなに頑張らなくてもいいんだぞ〜?」
「ひゃぃ…っ。」
「おれなんか、王さまのときからこんなんなんだし。もっと自由に好き勝手にやれよ?」
「ん…っ。」
「それから、おれの前では頑張らないで?二人でいるときくらい、いっぱい泣いていいんだよ。」
「うぅ〜…れおしゃぁん〜」
「おいで、ぎゅーしてあげようね。」
「ヒック…しゃびちぃの、なくなった。」
「よしよし♪帰ったら一緒にお昼寝しよっか。」
「しゅる…。」
こんなに泣くなんて思っていなかったけれど、レオさんの優しさに心が溶かされていっていつの間にか子どもみたいに泣いていた。家に帰って部屋着に着替えてから、ベッドに入る。
「レオさん…。」
「大丈夫、寝れるよ。」
「ん…。」
「おやすみ。」
ちゅっとキスをして寝かしつけてくれるレオさんの胸にくっついて眠りについた。久しぶりの深い眠りのあと、目が覚めるとレオさんと目が合う。
「おはよう、ぐっすりだったね。」
「つかさ、いっぱい寝れました♪」
「うん、ぎゅーさせて。」
「ふふっ♪」
「夜もいっぱい眠れるよ。」
「はい♪」
寝る前の不安も、疲れも、色んなものが消えてなくなっていく。レオさんの隣で安心して寝られることが、今は幸せに感じる。明日も、明後日もずっと隣で眠れますように。レオさんの温もりに、また少しだけうとうとと瞼を閉じた。