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    以前リクをいただいたものが完成しました
    🇯🇵ホラ―が苦手な✂️のリ傭

    #リ傭
    mercenary

    和製ホラーが苦手なリッパー 長身の紳士然とした男がフードを被った小柄な男の腕に抱きついて、幼子の如く後をついて回る。傍から見れば、異様な光景だろう。
     しかし、抱きつかれている方の男は慣れているようだった。
     しばらくの間は好きなようにさせていたが、流石にいつまで続くのか、とひとつため息を落としてから呟く。
    「……ロンドンを震撼させた殺人鬼ジャック・ザ・リッパーが聞いて呆れるな」
    「日本のホラーはまた別物でしょう!? むしろ、どうしてナワーブくんは平気なんですか……?」
     二人は様々なホラー映画を観る、共通の趣味があった。見終わるとお茶会を開き、感想を語り合うのがいつもの常である。
     だが、今回は違った。なんと、リッパーは殺人鬼なのに和製ホラーがてんでダメであった。
     途中から妙に静かだな、と思ってみれば固まっていた。そして、段々と平静を取り繕えなくなったのか手をガシリと強く握られる。
     甘いそれではなく、恐怖故ガチの方であった。
    「……リッパー」
    「なんです。逃げるなんて許しませんよ」
    「握る力が強いから弱めてくれ。握ってて良いから」
     指摘すれば、バツが悪そうにゆるゆると力が抜ける。離れない手にそっと握り返せば、安心したように震えがおさまる。
     しばらくすると手だけでは落ち着かないのか、ついにはナワーブを膝に置き始めた。ぬいぐるみじゃない、と言いたいところだが、見上げればそれどころでない様子。
     いつもであれば悲鳴あげさせる側だというのに、味わったことのない戦慄のあまりにリッパーは情けない声をあげて顔を隠してしまう。
    「……なぁ、当たってる」
    「こんな映画選ぶんじゃなかったです……」
    「聞いてるか? おい……ンっ……息が」
     首に息が当たり、くすぐったさについ映画から気が逸れそうになる。だが、中途半端にやめるのはもっと落ち着かない。
     そんなナワーブを利用して、時に映画鑑賞中リッパーが行き過ぎたちょっかいをかけることがある。
    「がんばれ、リッパー。残り半分だぞ」
    「へアァァ……」
     今回ばかりは仕返しを兼ねて、このまま和製ホラー映画を見ることにした。
    「もう……もう無理です、やめましょうこんな趣味の悪い映画……」
    「意外とストーリー面白いぞ、これ」
     その日弄ぶ標的ターゲットを品定めしては、嗜虐的な笑みを浮かべているか、鼻歌を奏でている殺人鬼も今ではこの様である。
     しかし、映画はいい所まで進んでいる。ナワーブは益々続きが気になり、片手間にリッパーを宥めながら見続けた。
    「一体何がそんなに、こんな薄気味悪いのを楽しめるんですか……」
    「面白いだろ、リアルで」
    「そこがイヤなんですよ!」
     リッパーは今にもこの場を立ち去って、正直もう見るのをやめたかった。
     だが、ひとり部屋に戻るのも嫌で、リッパーは再びテディベアのようにナワーブを抱きしめて目を瞑る。
    「あ、あぁ……この嫌な音は……アレが来る……来てしまう……っ、な、ナワーブくんっ少し音を小さくしてくれませんかっ」
    「わかったよ。これで大丈夫か?」
    「うぅぅ……見るんじゃなかったです……マシにはなりま……ヒッ」
     霊の登場する演出の音が聞こえる度にビクリッと震え、映画が終わるまで一切顔を上げなかった。
    「終わったぞ」
    「…………はい」
     放心したような状態でまだ顔を埋めている。ナワーブはそっとしておいてやることにした。自分でコントロール出来ない恐怖は存在するからだ。
     幸い、ポップコーンはまだ残ってるので口に放り込む。無心でサクサクと咀嚼していく。
    「……おーい、リッパー」
    「…………責任とってください……」
    「何言ってるんだ」
     流石にそろそろ落ち着いたか、と声をかけてみたが意味不明の答えが返ってきた。
     どうやら、あまりにも怖かったので側にいて欲しいようだ。
    「まさか、私を一人置いていく気ではないでしょうね? そのまま居てくださいよ。どうしても、と言うなら着いていきますからね」
     それからはトイレに行こうと、どこにでも一緒に居たがった。ホラーを見た子ども同然に。
    「もう、まともに後ろを振り向くことができません……後ろに誰か居そうで。心音がずっとバクバク言ってるんですよ」
    「お前はサバイバーじゃないから、それはただの気のせいだな」
     リッパーは恐怖を誤魔化す為ナワーブの頭に顔を埋め、すりすりと擦りつけて現実逃避をした。ほんのりと彼の匂いがして、少しだけ落ち着く。
     ナワーブは呆れながらも、そっと抱きしめ返して撫でてやる。小さな頃、怖い時はよく母親にしてもらっていたからだ。
    「あれは、非現実的だろう」
    「それを言ったら、荘園ここ自体が非現実的なのですが……」
     それもそうだな、と納得する。実際、呪いやら魂が宿った傘やら。それに数多の手が伸びる襖すらあった。
     次からあの場所永眠町でリッパーは大丈夫なのだろうか、と考える。自己陶酔なプライドの高い紳士の事だから、人前で弱味は見せられまい。
    「惨殺シーンなら興奮できた愉しめたのに……怨念ってなんですか」
    「……お前集めてそうだもんな」
    「な、なんてこと言うんですか……!!!!!!!!」
     悲痛に叫ぶリッパーは新鮮だが、それを見て喜ぶ趣味はないのでどうしたものかと考える。
    「悪い。……何かしら対策があるんじゃないか?」
    「それが……除霊効果があると言われているのに、塩を持っていても効果ないんですよ……」
    「……物理的に対処出来ないのは確かに困るな」
     二人で眉間に皺を寄せ、ひっつきながら唸る。
    「……ひとつ、名案が思いつきました」
    「ろくな内容じゃない気がするが、なんだ」
    「日本の霊は価値観が日本な訳ですから、あの国では恥じらう行為をすれば……」
     日本出身のハンターである美智子を思い浮かべる。彼女は慎ましい淑女で、同性同士でも触れ合うのに抵抗がある様子だった。
    「つまり……イチャつきましょう!! ハレンチに!」
    「…………床で寝てろ」
     リッパーの言うハレンチは本当に変態なのだ。なんせ、英国紳士。それはもう、破廉恥だ。
     そこまで趣味に付き合う義理はない。ナワーブは、振りほどいてさっさと去る。
     しかし、ハンターはそう簡単には逃がさない。そこから本気の鬼ごっこが始まった。
    「ここに居てください、永遠に」
    「なんで引き留める発動してるんだ……っ」
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