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    途綺*

    @7i7_u

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    途綺*

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    🐑🔮//貴方と紡ぐ物語

    🔮のために🐑が物語を書く話。ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」

    #PsyBorg

    「ふーふーちゃんにお願いがあるんだけど。」

    どんよりと重たい雲が広がる昼下がり。自室で作業していたところへ紅茶を差し入れに来た浮奇からマグカップを受け取ったファルガーは彼の言葉にふたつ返事で頷いた。

    「もちろん、俺が叶えられるものなら。」
    「ほんと?へへ、今夜が楽しみだなあ。」
    「おぉ、どんなプレイをするつもりだ?」
    「えっとね...じゃなくて!真面目なお願いをしにきたの!」

    ころころと変わる表情に思わず笑いながら浮奇の腕を引き寄せ膝に乗せる。最近は容易く身を任せるようになった浮奇だが、付き合いたての頃はこちらを気にしてか簡単には座りたがらなかった事を不意に思い出して、幸福感に浸りながら弧を描く目元を優しくなぞった。

    「今度、物語を読んでstargazersを寝かしつける配信をしようと思ってて。」
    「朗読か、いいアイデアだな。」
    「それでね、ふーふーちゃんに書いて欲しいんだ。」

    予想外の浮奇の言葉に手を止めたファルガーは目を丸くした。

    「物語を?...他に適役がいると思うぞ。」
    「ふーふーちゃんのがいいの。」
    「俺が書く物語が寝かしつけに向かないことは知ってるだろう?」

    代表作であるLegatus505はお世辞にも明るい話とは言えないし、穏やかな幸せより多少痛みを伴う展開を好むことは浮奇もよく分かっているはずだ。

    「んー、じゃあ俺が書くからふーふーちゃんが朗読配信してくれる?」
    「俺の朗読が聞きたいなら浮奇だけにいつでもするよ。」
    「もう、べいびぃ。」
    「でも配信でするなら浮奇の声の方が寝付けるだろ、お前の声は心地いいからな。」
    「へへ、ふーふーちゃんは俺が朗読配信したら聞いてくれる?」
    「もちろん。」

    ほとんど間を置かずに頷いたファルガーを見て、浮奇がニッコリと効果音が付きそうな綺麗な笑顔を向ける。

    「じゃあ、ふーふーちゃんが書いた物語を読むね。」
    「いや、だから...」
    「あ、もうこんな時間?配信の準備しなきゃ。」
    「おい、浮奇。」
    「楽しみにしてるね!」

    ファルガーの静止も聞かずに逃げ足の早い浮奇はするりと膝から降りて、あっという間に自室へと向かって行った。

    「...やられたな。」

    恐らくわざと配信の時間ギリギリに訪れたのだろうことも浮奇が配信するならファルガーが視聴するだろうことも、全部分かった上で浮奇が話を進めてきただろうことは明確でファルガーは頭を抱えた。

    出会った頃は丸め込むこともかわすことも容易かったのに、最近は先回りして巧妙に逃げ道を塞がれることが多くなってきたように感じる。それだけの時間を重ねてきたのだと思えばそんなやり取りさえも愛おしくて、我ながら重症であることは自覚があった。

    「寝かしつけ向けの物語...」

    浮奇の願いとあれば全力で叶えたいのは山々だが、想定外の難題にファルガーは頭を抱えた。朗読がしたいだけなら何か適当に有名な童話を見繕ったっていいものを。自信がない方向だけに弱気になる内心とは裏腹に、身体は無意識に用紙を引き寄せてペンを手にしていた。

    配信に使うのであれば主人公は浮奇をイメージした方が良さそうだ。身近な題材でいえば同期のメンバーと出逢っていく話もいいが、それはいつか浮奇の口から語られるべきだろう。一生に一度の出会いを他者からの目線で描くのはあまりにも野暮だ。それならば、星を探して冒険する話?歌の上手い人魚の話?美味しいお菓子を作る話?見目と体格の良い男と...おっと、これは寝かしつけ向けじゃないな。

    早々に行き詰まったファルガーは一向に文字を生み出しそうにないペンを置いた。そもそも明るい話を得意としないのだから、寝かしつけに読まれるような童話の雰囲気を掴むところから始めた方が良い。既存の童話を読めばヒントを得られるかもしれないと、ファルガーは近所の図書館へと向かった。

    平日の夕方とあって人が余計に少ないこともあり、小さな図書館には静かでゆったりとした時間が流れていた。子供向けのコーナーへと進んで気になった表紙の絵本を手に取る。数冊目の本へ手を伸ばしながら、元いた時代で子供に読み聞かせをしたことを思いだした。子供むけの物語とは大概の場合は夢や希望を集めたファンタジーであり想像力を掻き立てるものである。ふと脳裏をよぎった過去の情景に仄暗さを感じてファルガーは手元の絵本を棚に戻した。

    エントランスへ向かいながら時間を確認しようとスマホを取り出せば「傘持って行った?」と浮奇からメッセージが届いていた。外に出て上を見上げると家を出る時には曇りだった空が今にも降り出しそうな色に変わっている。急ぎ足で帰れば自宅までは大丈夫だろうと途中で傘を買わずに歩いたが、期待を裏切るように小雨が降り出したおかげで家に着く頃には頭からつま先までしっとりと濡れていた。

    「ふーふーちゃん、やっぱり傘なかったの?言ってくれれば迎えに行ったのに。」
    「そんなに強くは降らないだろうと思ったんだ。」

    玄関を開ければ待ち構えていたかのようにバスタオルを持った浮奇に捕まり、小言を言われながら髪を拭かれる。

    「早くシャワーを浴びて体を温めてきて!」

    そんなに騒ぐほどずぶ濡れたわけでもないのにとは思いつつ素直にシャワーを頭から被った。絵本や帰り道を思い出しながら思ったよりも冷えていた身体を温めていると物語のテーマが浮かんで、ファルガーはさっそく取り掛かろうと早々にシャワーを出る。適当に髪を拭きながら自室へ戻ろうとすれば予想していたかのように待ち構えていた浮奇に「ちゃんと髪を乾かして」と小言を投げられながらドライヤーを手に追いかけられ乾かされ「水分も取って」と暖かい紅茶を手渡された。全く世話焼きな恋人である。

    漸く自室へ戻ったファルガーは、ハチミツを溶かしてあるのか優しい甘さの紅茶を飲みながら改めてペンを握った。どういう方向にしようと少し仄暗い要素が入ってきてしまうのはご愛嬌だ。人間が書く以上は作者ごとに癖があるのは必然だろう。浮奇も分かってて頼んでいるのだろうと開き直ってしまえば、後は丁寧に言葉を並べるだけだった。





    あるところに、施設で暮らす男の子がいました
    男の子は夜に窓から星を眺めるのが好きでした

    ある夜、いつものように空を見上げていると
    どこからか声が聞こえてきます

    「星のチカラで願いを叶えましょう」

    不思議な声が言いました

    「いっしょに星を見るともだちが欲しい」

    男の子はそう願いました

    不思議な声はそれきり聞こえず
    男の子は眠ってしまいました

    次の日は朝からしとしと雨が降っていて
    男の子は星の見えない空を眺めていました

    ぽつりぽつりと落ちる雨粒が
    窓にあたってぴちょん、と跳ねます

    男の子が窓をじっと見ていると
    きらりと雨粒が光りました

    男の子は窓を開けて身を乗り出しました
    手を伸ばしてうけとめた雨粒は
    小さな宝石のように輝いています

    きらきらと光る雨粒を見て男の子は
    こっそりと施設を抜け出しました

    降り注ぐ雨粒が男の子の両手を
    いっぱいに満たした頃に
    また不思議な声を聞きました

    「星のチカラで願いを叶えましょう」

    すると手の中の雨粒の輝きが強くなり
    男の子をまばゆい程の光が包みました

    ぎゅっと瞑った目を開けると
    そこはラベンダーの花畑でした

    あたりは日暮れに近い黄昏れ時で
    やわらかな風が横を通り過ぎて行きます

    男の子が景色に見とれていると
    手の中の雨粒がふわりと浮きました

    宝石のように輝きながらゆらゆらと形を変えて
    くらげのような生き物へと変わります

    頭の上のたまごが落ちそうになって
    男の子は慌てて戻してあげました

    ふわりふわりと浮くそれは
    嬉しそうに声を上げて
    男の子の周りを楽しそうに泳ぎます

    「ともだちになってくれる?」

    男の子は不思議な生き物に尋ねます

    不思議な生き物は
    じっとこちらを見つめてから
    男の子の頬へ擦り寄りました

    「ありがとう、うれしい」

    あたたかい気持ちでいっぱいになって
    男の子の胸がぽかぽかとしました

    自由に泳ぎ回っていた不思議な生き物が
    動きを止めて男の子の手の中を見つめます

    そして、きらきら光る雨粒に触れました

    男の子の手の中の雨粒が
    ふわりと次々に浮かんで
    ゆらゆらと形を変えていきます

    くらげの姿をしたたくさんの生き物が
    男の子の周りを泳ぎ回りました

    「みんな、ともだちになってくれるの?」

    男の子が尋ねると不思議な生き物たちは
    うなずいて声を上げます

    「ありがとう!」

    少しひとみが潤んだ男の子へ
    不思議な生き物たちは
    空を見るように伝えました

    黄昏れ時だった空はすっかり陽が落ちて
    あたりには澄んだ星空が広がっています

    手を伸ばせば届きそうなほどに
    星が近く見えました

    大きな星や小さな星
    それぞれが一生懸命に輝いて
    男の子を照らしています

    「お星様からの贈り物だね」

    男の子は不思議な生き物を
    ぎゅっと抱きしめます

    「みんな大好きだよ!」

    男の子は不思議な生き物たちといつまでも
    綺麗な夜空を見上げていました

    おしまい






    物語を読み終えた浮奇が鼻を啜る。途中から溢れてきた涙を何とか耐えたつもりだったが、声は震えていなかっただろうか。

    「ごめんね、寝かしつけるつもりだったんだけど。ちょっと感情的になっちゃって。」

    涙を拭ってコメント欄を確認すると、泣いているstargazersのエモートや浮奇を撫でるエモートで溢れかえっている。

    「みんなと楽しみたくて手元に届いてから今日まで読まなかったんだ。でもこんなに泣くなら先に読んでおけばよかった。」

    ずっとティッシュで拭っているのに次々と溢れる雫は止まることを知らず、浮奇の頬はまだ濡れたままだ。寝かしつけたかったのであって泣かせたかったわけではないのだけれど。浮奇は物語の作者を想ってまた涙を溢す。

    「こんな素敵な物語を書いてくれた作者さんに感謝しないと。ねぇ、配信見てるんでしょ?顔見せな、ビッチ。」

    泣かされた悔しさとたっぷりの愛を込めて呼びかければ、ファルガーが壁から覗く顔文字をコメントに送ってきた。「ふーちゃん!」「OMG」「本当に!?」予想外の人物にコメント欄が阿鼻叫喚するのを眺めて浮奇は声を上げて笑った。

    「実はこの物語は、ふーふーちゃが書いてくれたんだ。だから余計に感情的になっちゃったんだけどね。ふーふーちゃん、素敵な物語をありがとう。」

    ファルガーと二人でハートを持つお決まりのものに混じって、涙したり驚いたりと様々なエモートがコメント欄を彩る。スーパーチャットと共に「余計に眠れなくなった!」とコメントを残されて思わず吹き出す。

    「気が済むまで泣いたら疲れてよく眠れるかも。でもちゃんと目が腫れないようにケアしてから寝てね。」

    最初に想像していた朗読配信とは少し違った形にはなったが、ある意味で自分らしい配信になったと思う。しっかりと泣いたせいでまだ治らない鼻声のままで、浮奇はコメント欄へ終わりを告げた。

    「みんなが少しでも楽しんでくれてたなら嬉しいな。聞いてくれてありがとう。またね、ばばーい。」




    エンディングのハミングを終えた浮奇は、足早にファルガーの部屋へと向かう。やや乱暴にドアを開ければ来ることを予想していたのか、浮奇の配信を閉じたファルガーが笑って迎えてくれた。

    「泣かせないでよ。」
    「まさか泣くとは思わなくて。」

    躊躇いもなくファルガーの膝の上に座った浮奇は、感情のままいつもより強く抱きついた。自然と腕が腰に回されれば慣れ親しんだ体温に安心感を覚えてようやく肩の力が抜ける。

    「あのね、ふーふーちゃん。」

    呼吸を落ち着かせてから、浮奇は少し身体を離してファルガーの手を取った。好きなようにさせてくれる手のひらを自分の胸に当てる。

    「たくさん泣いたけど、ここがすごくあったかい。」

    浮奇はまだ少し潤む瞳でファルガーを真っ直ぐに見つめた。

    「ふーふーちゃんの言葉は、誰かを幸せにできるんだよ。」

    伝えたい想いがしっかりと届くように言葉を紡げば、グレーの瞳が僅かに見開かれる。

    「...俺に物語を書かせたのはそれが理由か?」
    「本当はふーふーちゃんの物語を読んでみんなを喜ばせて、ほらね?ってするつもりだった。だから俺まで泣くほどの物語を書いてくれたのは嬉しい誤算だったよ。」

    ファルガーはゆるく首を横に振って両腕を上げた。

    「お前には敵わないな、うきき。」
    「へへ、ご褒美をくれてもいいよ。」
    「ご褒美を貰うのは俺の方だろう?心温まる話を書いたんだから。」
    「それもそうだね、何が良いの?べいびぃ。」

    首を傾げて問い掛ければ、ファルガーがおもむろに浮奇の手を取る。予想もつかずされるがままの浮奇の手の甲を恭しく持ち上げて、そっと口付けを落とした。

    「俺と、この先の物語を一緒に紡いでくれるか?」




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    途綺*

    DONE🔮🐑//貴方を護る星空の祈り

    少し疲れて夢見が悪くなった🐑の話。「君の知らない真夜中の攻防(https://poipiku.com/6922981/8317869.html)」の対になるイメージで書きましたが、未読でも単体で読めます。
    人間にはそれぞれ活動するのに適した時間帯があるのだと、ファルガーが教えてくれたのはいつのことだっただろう。朝が得意な人もいれば、夜の方が頭が働きやすい人もいる。だからそんなに気にすることはないと、頭を撫でてくれたのを覚えている。あぁそうだ、あれは二人で暮らし始めて一ヶ月が経った頃だった。お互いに二人で暮らすことには慣れてきたのに、全くもって彼と同じ生活リズムを送れないことを悩んでいた。今になって考えれば些細なことだと笑えるけれど、当時は酷く思い悩んで色んな人に相談して、見兼ねたファルガーが声を掛けて「心地よくいられること」をお互いに最優先に生活しようと決めたのだった。




    そんなやり取りから数ヶ月。いつも通り深夜に寝室へ向かった浮奇は、すっかり寝入っている愛おしいひとの隣へ潜り込もうとベッドへ近づいた。静かにマットレスへ膝を付いて起こしていないことを確認しようと向けた視線の先で、眉を顰めて時折呼吸を詰めるファルガーを捉える。
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