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    まもり

    @mamorignsn

    原神NL・BL小説置き場。

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    まもり

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    万葉サンド。
    偽物と本物の違いに笑ってください。
    おまけで「蛍がふたり」もあるよ!

    #万蛍

    万葉がふたりおはようのキス。

    好きな人の口づけで目覚める……どんな感覚なんだろう。
    バッサバッサと魔物を薙ぎ倒してきた私だが、密かに憧れる気持ちがあった。これでも一応女の子だし。

    (……けど)

    ここは稲妻のとある山林。やむを得ず野宿をした次の日の朝──何やら唇に柔らかい感触があり、私は瞼を開けた。……そこには。

    「蛍、おはよう」

    私に覆い被さる形で心底嬉しそうに笑う万葉がいた。眠気まなこが嫌でも覚めてきて……。

    「あはは!寝ぼけているでござるか?……ならばもう一度起こそう」

    ちょっぴり意地の悪い笑み。今、もう一度と言ったか?一体何を?あれ、そんなに顔を寄せたら唇が触れてしまう……。

    「っわあああ!」

    凄まじい勢いで突き飛ばしてしまった。草の中にどさりと落ちる万葉。はあはあ喘ぎながら身を起こす私。

    (さ、さっきの、感触)

    見事な突っ張り、などとふざけたことを言いつつ彼が腰をさすって起き上がっている。
    ……おはようのキス。いやそりゃ夢見ては、いたけれど。

    (ファ、ファーストキスすらまだなのに)

    こんな刺激的な展開は聞いていない!




    「……それで、さ」
    「うむ!」

    取り敢えず落ち着いてきたところで、彼を問い詰めねばと腕組みしたのだが。

    「なんで」
    「蛍〜」
    「あんな」
    「ふふっ……」
    「こと」
    「あたたかい」

    したの、言いかけて噴火してしまった。

    「というか、離して!」
    「嫌でござる」

    即答。
    話し合いが始まる前からおもいっきりハグされてしまっている私。それはもう、むぎゅう〜っと。じたばたしてみるが見た目以上に力持ちらしく全然引っぺがせない。

    「蛍ー」
    「わわ、こら……!」

    頬ずりまでされた。ふわふわだ……じゃなくて!

    「か、万葉ってこういう人だったっけ!?なんかキャラ違くないっ?」
    「気のせいでござる」

    そうなのか?まあ確かに可愛らしい一面を持った少年ではあるが……こんなにもベタベタしたがるタイプだったろうか?

    (だけど、実際目の前にいるのは万葉そのもの……)

    どこからどう見ても本人だ。

    「難しいことなど考えずとも良い」
    「う、うん……?」
    「拙者はお主を愛しているのだ、それだけで十分であろう?」
    「!?!?」

    待て待て待て!さらりととんでもないことを言われたぞ!?
    生まれてこのかた恋愛に縁のなかった私だ、いきなり展開を進めないでいただきたい。なに?ちょいちょい野宿という名の夜を共にしてきたけどあれが伏線だったの?釣りの話で盛り上がった記憶しか……。

    ("食いついてくるのを焦らず待つのが好き"ってそんな深い意味があったの?)

    絶対違うと思う。釣りを汚すのは脳内であってもやめておこう。
    しょうもないことを考えていると万葉が体重を乗せてきて、そのままドサリと押し倒されてしまった。

    「ちょ……」
    「お主も拙者が好きであろう?」
    「す、好きじゃない!や、友達としては好きだけど!」
    「友人に顔を赤らめるのか?」

    小さくほくそ笑まれた。
    うそ、赤くなってるの?私。うそだ、鏡、鏡持ってきて。さっきから何このピンクなムードは?万葉の元素爆発にこんなバリエーションあったっけ。
    彼の手がゆっくりと太ももに触れて──心臓が爆散する寸前。

    「そこまでだ」

    聞きなれた声。
    二人して右に視線をやると驚愕の人物がそこに。

    「え!?か、かか、万葉!?」

    氷のような眼差しで、もう一人の楓原万葉が立っていたのだった。





    (ど、どういうこと)

    立ち上がったはいいものの相変わらず私にくっついているデレデレな万葉。そして目の前には、背後に魔偶剣鬼が顕現している絶対零度の万葉。脳みそのキャパシティが限界突破した。

    「な、なんで二人?」
    「蛍ー、拙者が本物でござるよ?」
    「いや、拙者こそが本物」
    「わかんないって!」

    理解が追いつかない。整理する為にも、目覚ましチューをしてきた方を"万葉A"、後から現れた方を"万葉B"とする。

    「ぶ、分身できたの?万葉」
    「そのような術は心得ておらぬ」
    「拙者はできるぞ、見たいでござるか?」
    「いやどっち!?」

    完全に見た目は同じだ、本気で判別不可能。
    どうしたらいいのかわからず困っていると万葉AがBに対して口を開いた。

    「いい加減立ち去ってはくれぬか?気味の悪い冗談はやめてくれ」

    バチリ。
    火花が飛び散った。
    万葉Bが長い溜息をつき刀を抜く。

    「手荒な真似はしたくないが、正体を暴く必要があるようだな。……少しばかり痛いぞ?」

    正体?思わず万葉Aを見ると私の視線に気付いて更に強く抱きしめてきた。なんか一瞬舌打ちしなかった?空耳かな?

    「蛍、拙者が本物でござる。お主ならわかってくれるであろう?」
    「えぇ……」
    「あのような目をする男が拙者な筈なかろう」

    そう言われ居合抜きの構えをした万葉Bを見る。氷神とはこんな感じだろうかと思うくらいには怖かった。

    「た……確かに、普段の万葉じゃないね」

    万葉Bの周囲に雷が落ちた……ように見えた。無表情なのに「心外だ」と言わんばかりの顔。万葉Aが極めて明るい声ではしゃぐ。

    「拙者の方が好きか?」
    「えっと……うん、まあ。朗らかな方が、好きだね」

    瞬間。
    万葉AがBに視線を移して、鼻で笑った。そして。

    (ひ……ひええ!)

    ほんの僅か、万葉Bが明らかにイラッ…とした表情に。すぐさま冷静さを取り戻してはいて見間違いかと思ったくらい。なんだか気温が下がった気がする。実はどちらの彼も本物ではないのでは?
    ダラダラと汗を流して怯えていると万葉Bが浅く息を吐きこう言った。

    「埒が明かぬ。手っ取り早い方法でいこう」

    くっついたままキョトンとする私たち。腰に手を添え、万葉Bが続ける。

    「本物しか知り得ぬことを話せば良いでござる。判定を下すのは蛍だ」

    なるほど確かに。彼の名案に感心した。心なしか万葉Aが身を固くしたような。「まずは拙者から」とBが喋りだす。

    「死兆星号での航海中、虹色に光る魚を釣り上げたでござる」
    「ああ!釣ってたね。あれはすごかった」

    嵐を乗り越えようやく凪いだ海に意気揚々と竿を振りかぶった彼。仕留めたのは世にも奇妙なお魚さん。当然皆はしゃいだのだが、流石に食すのはもったいないと最終的に逃がしてあげた。
    早くも懐かしい記憶に和んでいると、万葉Bが私にしがみついているAを見下ろして言った。

    「お主も船上での思い出を聞かせてはくれぬか?勿論語れるな?」

    な、なんか、圧が凄まじいぞ?
    万葉Aに視線を移す。顔色が悪い、これはもしや。
    「あなたが偽物?」そう問おうとした時。

    「っ……拙者が本物でござる!」
    「わ!?」

    一層力を込めてムギュッとされた。ちょ、ちょっと苦しい。

    「決まりだな」

    万葉Bが話にならないとでも言いたげに首を横に振る。しかし。

    「蛍が拙者を万葉と認識してくれたのだ!」
    「え?え?」

    さっきから支離滅裂だ。子供みたいにゴネだした万葉Aを困惑して見る。すると私の服をきゅうと掴んで、

    「先程……寝ているお主に触れたら、その手を握って拙者の名を呼んでくれたでござる。少しだけ、笑って……」

    は?
    予期せぬ暴露に硬直した。え、いきなり何言ってくれてんの?
    即座に噴き上がってきた羞恥心で赤面する。「拙者の夢を見ていたのか?」、追い討ちをかけられ口をぱくぱくした。もういいから黙って!
    不意に万葉Bと目が合った。

    「ほう……?」
    「いや興味もたないで!?」

    あんなにご機嫌ナナメだったのに俄然乗り気な様子の彼にツッコミを入れる。駄目だ、一刻も早くこの話を終わらせないと旅人としての威厳がなくなる。元からあるのかは別として。

    「と、ともかく!あなたは本物だけが分かる話とやらはできないんだね?」

    万葉Aに言うと、むぐ…と黙り込み視線を彷徨わせ始めた。確定か、どうしてくれよう。そう考えた瞬間、突如万葉Aが抜刀してBに襲いかかった。あまりの急展開に思考が停止する。

    「ちょ……っ」

    応戦する万葉B。ドコスカバキ。わけも分からぬまま大乱闘が始まり舞い上がった砂埃にゲホゲホと咳き込む。目が痛い。いけない、止めなくては。彼ほどの強者相手に割って入れるか不安になりつつ駆け寄ったところで、

    「って、よわっ!!」

    万葉が万葉を地面に押さえつけている。もはや理解不能な光景だがどうやら秒速で決着がついたらしい。悪あがきをして暴れた万葉の頭を万葉が鞘でべしべし叩いた。こらこら!

    「そ、そこまでしなくても!大丈夫?」

    刀身でやらない辺り理性と優しさが見えはしたが痛くないなんてことはないだろう。倒れている万葉を抱き寄せて頭を撫でてやる。唸っていた、まあそうなるだろうな。
    たんこぶができていないか確認していると勝者・万葉が片眉を上げて言った。

    「何故そちらを庇う?」
    「庇ってるわけじゃ……」

    そもそも砂埃のせいで偽物がどちらなのか分からなくなったのだ。強い方が本物だと信じたいが確信はもてないし……困りはてて、ふと違和感を覚えた。

    (あれ……?こっちは……)

    敗者・万葉を観察する私。この勘は当たっている気がした。もっとよく確認したいと彼に顔を近づけて、

    「きゃ!?」

    縋るように手を握られ驚く。上目遣いで見つめられた。

    「拙者を守ってくれたでござるか?やはり蛍は優しい……大好きだ」
    「っ……」

    ドストレートな言葉にボッと顔が火照る。こんな至近距離で言われて動揺しない人がいるか?私が恋愛初心者だからなのか?
    ドギマギしているともう一人の万葉が「偽物らしい台詞だ」としゃがんで膝をつき、空いている方の手を握ってきた。

    「え?」
    「お主は確かに優しい……そこは同意だが」

    静かな声と手のあたたかさに心臓が高鳴る。
    すっ…とこちらに視線が流れてきて。

    「蛍が身を挺す必要はないでござる。……拙者がお主を守り抜くのだから」

    手の甲に、そっとキスを落とされた。

    「〜っ!!」

    伏せた睫毛の綺麗さに……一瞬だけ触れた唇の柔らかさに、身体中の血液が沸騰するかと思った。
    そんな私を見て彼が微笑した。

    「──我こそが本物」

    ぷつんと、糸が切れる音。

    (なんなの?ねぇ、だから……)

    私、恋愛初心者なんだって!
    叫びたい、本当はめちゃくちゃ叫びたい。だが恥ずかしさでイカレた声帯では何も。
    右に左に忙しなく目を動かす。驚異的な顔面の近さ。なんで照れないのあなた達。
    両手に花ならぬ両手に万葉。バクバクバク、なにこの音?私の心臓?
    更に距離を詰められて、両の耳に万葉の囁き声が。

    「大好きだ、蛍」
    「分かってくれぬのなら……分からせて進ぜよう」
    「あ……あう」
    「口づけても……良いか?」
    「どのように教えてほしい?……言ってみろ」

    終わった。
    私、ここで力尽きるんだ。だって一生分働かせちゃったもん。何をって?心臓だよ。
    偽物、本物、どうでもいい。どーでもいい!
    腰に……鎖骨に、指が触れて、

    「っ……もうはなしてーーー!」

    竜巻をぶっ放してしまった。
    空中に打ち上げられ落下する二人。ぜーはーぜーはー息を吸ってその様を見やった。旅人なめるな。
    やり過ぎた気はしなくもないと、呼吸を整えてから歩み寄る。思わずギョッとした。

    「なっ……!」

    片方の万葉がキツネになっていたのだ。目を回して大の字に倒れている。かなり間抜け。しゃがんでじっくり見てみたがやはりキツネだ。
    絶句していると、ちゃんと人間の姿を保っている方の彼が私の隣に同じくしゃがんだ。

    「お主が先日助けた狐でござる」
    「え……ああ!」

    思い出した、万葉と五日間ほど冒険した時のことだ。そういえば田んぼに頭ごと突っ込んでジタバタしていたのを救出したな……どういう状況だったのかはさて置き、

    「気付いてたんだ?」
    「狐が人を化かすのは有名な話。あの後ずっと拙者たちを尾けてきていたでござる、相当お主に懐いたのだろう」

    そこも分かっていたのか。きっと足音を聞き取っていたに違いない、伊達に耳の良さに自信がある訳ではないようだ。
    脱帽する思いでいると万葉がキツネをツンツンしながらどこか面白くなさそうな表情を見せてきた。

    「下手にも程がある変化……どう考えても拙者ではなかろうに」

    若干の気まずさに頬をかく私。それはそうだが……。

    「実はね、途中でなんとなく偽物が分かったの」
    「ほう?何故だ」
    「……匂い」

    「ふむ?」、万葉が一度瞬きをした。
    上手くは言えないのだけれど、彼から視線を逸らさず話しだす。

    「万葉はね、花の香りがするの。一応……この子からも植物っぽい匂いはした。でも、なんか違ったんだよね、木の葉みたいな感じというか」

    そこまで言って相槌が全くなかったものなので、ハッとして焦る私。ま、まずい。

    「ご、ごめん!気持ち悪かった?匂い覚えてるとか…」

    やらかした、そう思って必死に取り繕って……無意識に声がフェードアウトしていった。

    (え……?)

    もはや彼はこちらを見ていない。自身の膝に手をのせて、そこに顎を預けていて。ちょこんとしたその姿が可愛いなと思い……照れ隠しなのだろうかと、気付いた。
    少しだけ色づいた頬。僅かに緩んだ口元。
    すごく……すごく、嬉しそうで。

    「っ……」

    さっきみたいな甘い言葉なんか言われてなどいないのに、鼓動が速まっていく。

    (か、顔、熱い)

    この感情の正体は何なのだ?
    それが分かるのは──また別のお話。




    「にしてもさぁ」
    「どうした?」

    未だお腹を晒して気絶しているキツネを恨めしく見ながら口を開いた。情けない奴め、だから田んぼに落ちたのか?

    「人生初のキスがキツネかぁ」

    決して忘れた訳ではない。寧ろ鮮明に覚えている。溜息をついて言うと、

    「今……なんと?」
    「今朝、この子にチューされて起きたの。まぁ動物だしノーカウント……え?」

    ゆらりと、おどろおどろしい空気を纏った万葉が立ち上がった。目が……据わっている。

    「えーと……万葉?」

    返事はなく、代わりに刀を抜く音が響いた。ターゲットは勿論──


    彼の本気を久々に見た。そんなことを思ってすぐ、私は持ちうる全ての力を使って尊い命をひとつ救ったのだった。





    おまけ・「蛍がふたり」

    ※ここではラブラブカップル設定です。




    大好きな万葉とお泊まり(野宿)デート中。
    就寝用の服に着替えて満面の笑みで帰ってくるとそこには。

    「万葉、キスしよ〜!」
    「はは、今日は甘えたがりなのだな」

    私の姿をした何かに抱きしめられている万葉がいた。

    「な、なにその女ーーーっ!」

    思わず大ボリュームで叫ぶ。目をパチクリさせた二人がこちらを見た。彼が如何にも楽しそうに私と偽物へ交互に視線を巡らせる。

    「ほう?これはこれは……拙者の夢の中か?」
    「どんな夢見てるの!?っ、いいから離れて!」

    ずんずん歩み寄りベリッと引き剥がしてやった、ざまあみろ。というか、近くで見たらますます私だな!?
    流石に鳥肌が立ちつつも偽物を睨みつける。すると彼女が口を尖らせ不機嫌オーラむんむんで喋った。

    「邪魔しないで、あっち行って」
    「はああ!?こっちの台詞なんだけど!誰あなた!?」
    「蛍」
    「蛍は私!」

    がるるるる、野生化して火花を散らす私たち。恋人がすぐそこにいるという事実をすっかり忘れて女の戦いをおっ始めてしまう。あーだこーだと言い合いをしている最中、万葉の制止する声が聞こえた気がしたが女同士の凄まじい口喧嘩の前には無力だ。

    「いい加減にして!」
    「あなたこそ!」

    怒鳴ったところで偽物に掴みかかられた。こいつ、遂に手を出してきたか!上等、こちとら歴戦の強者だぞと拳を握ると。

    「えーん、こわーい!万葉ぁ、たすけて〜!」
    「なっ……」

    白々しく泣き真似をしだす偽物。こ、この女!!
    私は悪くない、分かってくれるよね?そう思って彼を見ると苦笑いされた。ショック過ぎる。違う、暴力女じゃないもん……。
    幻滅されたのではと項垂れる私を見兼ねたのか、万葉が助け舟を出してくれた。

    「ふむ……ならばこうしよう」

    二人で彼の言葉を待つ。

    「先に拙者を抱きしめた方が本物でござる」

    邪気の欠片もない笑顔。いや、彼女の身として察した。下心を隠して内心薄笑いしていると。なにこの舟、溺れさせる気満々じゃん!

    (だ、だって)

    我ながら思うが自分は永遠の恋愛初心者なのだ。ハグなんて、万葉からしか……。
    既に赤面してまごついていると、偽物が凄まじいスピードで駆け出した。

    「あっ……!」

    叫んだ時にはもう手遅れで。

    「私が本物だね!」

    彼に抱きついて褒美を待ちわびる彼女の姿が。
    見たくなさ過ぎた光景と負けた絶望感で石になる私。……ところが。

    「よしよし──捕まえた」

    偽物をいい子いい子する万葉の表情が、優しい微笑から含みのある笑みに……ガラリと、変わった。そして、笑顔のまま目にも留まらぬ速さの手刀を繰り出す。

    (ひ、ひい……っ!)

    ガックリと気を失う彼女。瞬間、ボワンと煙が上がり。

    「ええ!?」

    なんと、偽物がタヌキになってしまった。だらしなく舌を出して万葉に抱っこされている。化かされていたのか。それにしてもまだ腹が立つ、すっぽり彼の腕の中ではないか!

    「万葉……どうして偽物だと」
    「む?」

    タヌキの耳を引っ張ったり尻尾を揉んだりしながら、彼がにっこり笑った。

    「蛍にできる筈があるまい。現に顔を赤らめて一歩も動けずにいた」

    何でもかんでも、理解っていると。その上。

    「実は最初から見抜いていたでござる」
    「は!?」
    「すまぬ、妬かせてみたかったのだ」
    「っ……!」

    嬉しいやら悔しいやら恥ずかしいやらで悶絶寸前の私。そんな様子に気付いたのか万葉が歩み寄ってくる。そして目の前で止まり、とどめを放ってきた。

    「それにしても誠にお主は奥手だな、そこが可愛らしくもあるが……。たまには大胆に攻めてきても良いのだぞ?」

    今度は、隠しもしない薄笑いで。
    至近距離で見下ろされた私は、まさか今夜そうせざるを得ないような状況に追い込むつもりではと心底不安になる。キスですら自分からは一回しかしていないのに。しかもほっぺ。

    (でも、でも……)

    万葉だし。
    やけに説得力のある言葉がポンと出てくる。突如降って湧いた非常事態に、タヌキが目覚めたら「今日だけ一緒にいてあげてもいいよ」と伝える決心をした。
    大喜びするタヌキと……ちょっぴり残念そうにする万葉。
    そんな姿が容易に思い浮かんで笑ってしまう私なのだった。
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