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    かみすき

    @kamisuki0_0

    gnsn トマ蛍 綾人蛍 ゼン蛍 白蛍
    str ンデ星(SUN星)

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    かみすき

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    文字を書く癖をつけたくてちまちま書いたもののまとめです

    ##お料理

    蛍ちゃんとお料理 Day1 to 10Day1 活力にゃんこ飯

    寝子からの依頼を受けて久々に訪れた神社では、相変わらずたくさんの猫たちがのびのびと過ごしていた。
    ふわふわもふもふ、とっても良い。そんなことを考えながらリンゴを一口齧った蛍を見て、もふもふがなぁん、と鳴いた。

    「もしかして、食べ物が欲しいんじゃないのか?」
    「パイモンじゃないのに、そんなことある?」
    「あるかもしれないだろ!」

    パイモンに急かされるまま拵えたご飯を置けば、猫たちがわらわらと集まってきた。ああもう取り合わないで、こっちにも置くから。

    「ほらな! やっぱりお腹が空いてたんだ」
    「そうみたい。よくわかったね」
    「見てたら、なんだかオイラもお腹が空いてきたぞ……」
    「じゃあ、お昼にはちょっと早いけどご飯の時間にしよっか」

    神社には料理鍋がない。器具を求めて洞天へと帰れば、ふんわり優しい匂いが漂っていて、それにつられて覗いた厨房にはトーマがいた。

    「おかえり。そろそろ帰ってくると思って、ちょっと借りてるよ」
    「いい匂いだな! 何してるんだ?」
    「だしを取ってたんだ。今は鰹節のだしがらをふりかけにしてて、もうご飯の蒸らしも終わる頃だ。そら」
    「わあ、うまそうだな! 早く食べたいぞ!」
    「こら、落ち着いて」
    「ハハッ、元気があっていいじゃないか」
    「トーマ、私にも手伝わせて」

    ぐらぐら沸いたお湯に卵を入れて、隣で新鮮な獣肉を焼いていく。じゅうじゅう、お腹が空く音。
    土鍋の中でつやつや光るご飯からは甘い香りが漂っている。底から返してほぐせば、一層香りが強くなった。
    白いままのご飯と、トーマが作ったふりかけを混ぜてほんのり茶色くなったご飯とをきれいに成形する。さらにふりかけで模様を足し、焼き目のついた獣肉を添えて。うん、ゆでたまごも綺麗にできてる。

    「すごい、猫だ」
    「活力にゃんこ飯! うまそうだな!」

    覗き込みながらきらきら目を輝かせたふたりに、こちらの顔もほころんだ。こうも喜んでくれると作りがいがある。

    「さあ、座って。ご飯にしよう!」




    Day2 黒背スズキの唐辛子煮込み

    キャサリンに報告を終えた蛍とパイモンは、よろよろと万民堂へと向かう。璃月の冒険者協会から依頼があると呼ばれたのはいいが、戦闘が続いてすっかり疲れ果てていた。

    「はう……お腹すいたな」
    「こんなに大変だと思わなかったね」
    「オイラ、もう、動けないぞ」
    「すぐそこだから、もうちょっと頑張って」

    パイモンは戦ってないじゃない、という言葉は飲み込んで。いつにもまして中身のない会話だけど、お互いに何か喋っていないとその場で倒れ込んで眠ってしまいそうだった。
    普段より3倍は遠く感じた万民堂。お疲れだねぇと言う卯師匠に、笑えているかもわからないながらなんとか笑顔を返し席につく。どっと力が抜けて、今にも落ちてきそうな瞼を気合いで持ち上げながらメニューを開いた。

    「旅人にパイモン! 久しぶり!」
    「香菱、久しぶりだね」
    「あれ? ふたりとも元気ない?」
    「オイラたちもうヘトヘトで、やっとここまで辿り着いたんだ」
    「何か元気が出そうなものある?」
    「それなら、私のとっておきを作っちゃおうかな!」

    シャラシャラと鈴を鳴らしながら竈へと駆けていく香菱と入れ替わるように、グゥオパァーが現れる。身体を揺らして何かを伝えようとしているみたいだけど、疲労困憊の私たちの目の前で、そんな、反復してゆらゆら揺れると……その……もう、目が……。

    じゅわあ、と大きく響いた音にはっと顔を上げると、同じように飛び起きたパイモンと目が合う。グゥオパァーは手足をばたばた動かして、なんだか困っているみたい。ごめん寝ちゃって。少しだけ冴えた頭でグゥオパァーを観察するけど、やっぱり訴えたいことはわからなかった。

    「いい匂いがしてきたな」
    「香辛料かな? 璃月料理、って感じだね」

    グゥオパァーがくるりと向きを変えたと思ったら、香菱の元に駆け寄る。それを目で追えば、香菱の元気いっぱいな笑顔。お待たせ! の声と共に運ばれてきたのは黒背スズキの唐辛子煮込みで、得意料理だって言ってたっけ。

    「もう待ちきれないぞ! いただきます!」

    ほっぺが落ちそうだともちもちの頬を支えるパイモンと、それを見て嬉しそうに微笑む香菱。私からもおいしいと伝えれば、もっともっと笑顔になる。ぴょこぴょこ跳ねるグゥオパァーも、嬉しいのかもしれない。
    誰かと一緒に食べるご飯は、本当に本当に、幸せだなあ。




    Day3 緋櫻天ぷら

    今日は時間があるから、少し手のかかるものを作ろうかな。そう思って食材庫を覗いてみれば、大量に購入しておいたエビのむき身を見つけた。これもそろそろ食べなくちゃ。
    取り出したむき身と睨み合いながらメニューに迷う。パイモンに食べたいものを聞いたら、うまいもの! と返されてしまった。参考にならないよ。
    他の食材。調味料の棚。いろいろとヒントを探していれば、綾人さんから貰った岩塩が目に入る。ちょっといいヤツなんです、おいしいですよ、とのことだったけれど、そういえばまだ食べてないな。エビとおいしい塩。
    なら、天ぷらしかない! しかも天ぷらを揚げるコツは、この間トーマに習ったばかりだ。

    何を揚げようか。エビと、スミレウリと緋櫻毬は稲妻じゃ定番らしい。キノコもいいかも。とり天もおいしいって聞いた。あとは玉ねぎとか、タケノコとか?
    食べたいままに食材を揃えたら、かなりの量になってしまった。

    エビは腹の筋を切って開くと真っ直ぐ揚がるんだって。他も一口大に切って、あとは天ぷらの衣。冷たい水を使うのが大事! って、トーマが繰り返し言ってた。小麦粉のダマが残るくらいにさっと混ぜて、油を温める。衣を落としてすぐに底から浮いてくるくらいが適温。
    食材に打ち粉をして、衣をまとわせる。油の中に落とせば、じゅわじゅわと大きな泡が弾けた。これが小さくなって、ぴちぴちと高い音がしたら揚げ上がり。

    おお。アドバイス通りに揚げたらとても綺麗にできた。嬉しい。打ち粉、衣、油に入れる。泡が小さくなったら上げて、また次の打ち粉。

    「パイモーン! 天ぷら食べよー!」
    「天ぷら! 食べる食べる!」

    大きな声で呼びかければ、聞こえた返事と間を置かずにパイモンが文字通り飛んできた。

    「はいこれ、貰った塩ね。ここで食べよう」
    「うわあ、揚げたて! いいのか?」
    「全部揚げてると冷めちゃうから、お行儀悪いかもしれないけど食べちゃおう」
    「やったー! いただきます!」

    いただきます。一口齧れば、さく、といい音がした。キノコの香りと、ぷりっとした食感。これは大成功だろう。いただき物の岩塩も、細かな違いこそわからないけど、おいしい。あ、緋櫻毬にはこの塩がよく合うな。
    パイモンは小さな口いっぱいに頬張って幸せそうだ。空になるとすぐに次をぱくり、んまいんまい! といい食べっぷり。そんな様子を眺めていればとり天が揚がるころだ。熱いから気をつけてね。エビを油に入れてから、食べ頃になったタケノコを一口。揚げたての天ぷらはさくさくで最高。
    今度はもっと人を呼んで、揚げたて天ぷら立食パーティーなんていいかもな。




    Day4 シャワルマサンド

    お肉。お肉が食べたい。
    スメールの冒険者協会は周りに飲食店が多く、いろんな食べ物の匂いが風にのって届く。そして今日はお肉が焼けるいい匂い。スパイスの香りも刺激になって、蛍はすっかりお肉の気分にさせられていた。
    それは隣の小さな相棒も例外ではないようで、夕食はどうする? と聞けば肉! と元気に返ってきた。

    きっとこの匂いはランバド酒場から。うきうきした気持ちから思わず跳ねて歩きそうになるのをどうにか堪える。どうしてお肉ってこんなに嬉しくなるんだろう。
    酒場につけば、みんな蛍とパイモンのように匂いに誘われたのだろう、いつもより混雑していた。なんとか空いていた席はなんと回転するお肉の真横! 嗅覚も視覚も刺激されて、ついにお腹がきゅううと鳴った。
    注文は、もちろんシャワルマサンド。そりゃこのお肉を見てしまえばね。オーブンで一気に焼き上げられた生地で、薄く切り取ったお肉を野菜やソースと一緒に包めば完成。このソースが大好きなのだけれど、どうやってもここの味には追いつけない。何か隠し味があるのかな。
    あっと言う間に出てきた料理はとってもいい匂いで、向かいのパイモンは急いで手を合わせてかぶりついていた。負けじと蛍も手を付ける。

    「いただきます」
    「うまーい! 肉は柔らかいし、スパイスとさっぱりしたソースの相性もバツグンだ!」
    「うん、おいしい」
    「これじゃあっと言う間に食べ終わっちゃうぞ……。オイラの分は二皿頼んでおいて正解だったな!」
    「もっとゆっくり食べなよ」

    誰も取ったりしないから、と言ったのは聞こえているのかどうか。蛍よりよっぽど小さい口とお腹なのに、一瞬で吸い込まれていく。ご飯を食べるパイモンはほっぺたをぱんぱんにしながらなにより幸せそうな顔をするから、その顔が見たくておいしいものを食べさせたくなってしまう。蛍は食べないのか? って聞かれることも多いけど、君のその表情でお腹いっぱいになれるんだよ。

    「うぅ、そんなにずっと見られると食べにくいぞ」
    「ごめんごめん、気にしないで」

    くすりと漏れてしまった音をどう受け取ったのか、膨れていた頬をさらに大きくして拗ねている。むすりとした顔でもシャワルマサンドを齧ることは忘れないらしい。その味のおかげか眉間のしわがちょっとだけ緩んで、三口齧る頃にはすっかりにこにこ顔。そうだね、おいしいね。やっぱりお肉はみんなを幸せにする。
    さあ、食べ終わったパイモンに狙われる前に食べちゃわなくっちゃ。




    Day5 三色団子

    綾華に借りていた本を返そうと社奉行を訪れたのだけれど、本人は出かけていて不在。トーマは強風で落ちた大量の枯れ葉の片付けに忙しいらしく、綾人さんは大量の書類に囲まれていた。
    お嬢ならもうすぐ帰るだろうから待ってて、とあてがわれた部屋。静かな空間にのんびり暖かい陽が差し込んで、パイモンはすっかり眠っている。
    つまり。誰にも構ってもらえなくて暇なのだ。
    頬杖をついてぱらぱらと本をめくっているのだけど、これも飽きてしまった。つまんないな、と唇を尖らせても咎めてくれる人もいない。パイモンの真似をして大の字に転がってみたけれど、今日に限って眠気もこない。
    綾華を待っている以上出かけることもできないし、さてどうしようか。何度時計を見たって数分しか経っていない。もうすぐ3時。小腹空いたな、と漏らした声は畳に吸われていった。
    ……あ、じゃあ何か作ればいいじゃない!
    思わずばっと飛び起きてしまったけどパイモンは起きてない、大丈夫。そっと襖を閉めて廊下をぱたぱた進む。途中、庭にいたトーマに厨房貸して! と声をかけることも忘れずに。
    トーマの顔を見たらお団子が食べたくなっちゃったな。幸い、材料は全て持っているし、ここの厨房は何度も借りているから大丈夫。勝手知ったるなんとやら。ボウルとお鍋と……社奉行には調理器具がたくさんあって羨ましいなあ。
    生地は耳たぶくらいのかたさにするんだったな、以前パイモンの耳たぶで確認していたら触りすぎだって怒られたな、なんて考えていたら、なんだかすごい量になってしまった。いっぱい作ったらみんな食べてくれるかな?
    こねた生地をまとめて、3つに分けて、色をつけて。小さくちぎってころころと丸く整える。

    「いたいた。何を作ってるんだい?」
    「おや、お団子ですか」
    「トーマ! 綾人さんも!」

    3時といえばおやつの時間、なんだとか。社奉行ではこの時間に休憩を取る人も多いらしく、それに合わせてお茶を淹れに来たトーマと、取りに来た綾人さん。
    赤玉が一個多くなっちゃったの、なんて入り口に立つふたりと会話していれば、そのすき間からもうひとつ頭が覗いた。

    「綾華だ! おかえりなさい!」
    「ただいま戻りました。賑やかでしたので立ち寄ってみたのですが、旅人さんがいらしていたのですね」
    「綾華もお団子食べない? いっぱいできちゃったの」
    「是非! いただきます!」

    荷物を片付けて参ります、と立ち去った綾華と入れ替わるように、今度は白い頭が現れる。

    「あ、蛍! オイラを置いて何してるんだよ! ……わあ、お団子か!」
    「おはよう。茹で上がったら串に刺すの手伝ってくれる?」

    小さい身体はトーマと綾人さんの間をすり抜けて鍋を覗き込む。手をたたいて喜ぶパイモンは本当に甘いものに目がないね。ぽこぽこ浮いてきたお団子を、目を輝かせながら見ている。
    オレも手伝うよ、でしたら私も、なんて名乗り出てくれるから、戻ってきた綾華も加わってついに厨房はぎゅうぎゅうになってしまった。そうだ、余った赤玉はこっそりパイモンの口に入れちゃおっか。




    Day6 お肉と野菜のシチュー

    ここ最近は風が冷たい日が続いている。
    のんびり歩いていると耳までぴりぴりとするし、高いところを飛ぶパイモンはさらに影響を受けやすいみたいで、蛍を風除けに進むことが増えた。小さな手足が冷えているのは蛍としても心苦しい。
    厨房は冷えるから部屋で待っててって言ったのに。ぶるぶる震えながらかまどの前を占領するパイモンを横目で見ながら、さてどうしたものかと頭を悩ませていた。
    しかも、数日後にはさらに冷え込みが強くなるんだとか。トーマに教えてもらった編み物で手袋は作ったけれど、それじゃきっと追いつかないだろう。

    「お待たせ、熱いから気をつけて」
    「ココア! ありがとうな!」

    かくいう蛍も冷えているようで、コップの温かさに指先がじんじんと反応する。
    寒さについては雪国の人に聞くのが一番だと思ったけれど、こんなときに限ってタルタリヤは探しても探しても見つからない。忙しいのだろうか。何してるんだろう。

    「夜ご飯はスープとか、身体が温まるものにしようね」
    「うぅ、外にも持っていけたらいいのにな」
    「パイモン天才だ。それいいね。持っていこう」
    「オイラが天才なのは当然だよな」

    少し元気になったのか、ふんす、とドヤ顔が返ってきた。温かい食べ物を持って歩くことは考えなかったけど、とてもいいアイデアだ。

    「明日、スープジャーを買いに行こう」
    「オイラ、お肉と野菜のシチューが食べたいぞ!」
    「いいね。ぽかぽかになるもんね」

    じゃあ、今のうちにたくさん作っておこう。せっかくかまどの火も入っているし。
    余っている野菜も入れてしまえば、具だくさんでお腹も満足のシチューが作れる。外で食べるなら具は小さく刻んだ方がいいかも。おいしいものへの期待を含んだ視線をびしばし感じながら調理をすすめる。

    「お肉いっぱい入れてくれ!」
    「はいはい。あ、つまみ食いはだめだよ」
    「や、やらないぞ」

    刻んだ野菜とたっぷりのお水を注いで火にかければ、あとは煮えるのを待つだけ。
    だいぶ暖まった室内でパイモンごとブランケットにくるまる。座った椅子がぎち、と鳴った。冷えたり温まったりでねじが緩んでいるのかも。今度直さなくちゃ。

    「蛍はあったかいな」
    「パイモンもね」

    空になったコップを洗うのはあとで。今はこの最高の仲間と、おいしいシチューの出来上がりを待つのだ。




    Day7 雨林サラダ

    しゃく、しゃく、しゃく。

    厨房に響く音を聞きながら、蛍はぼんやり遠くを見つめていた。たまにあわわ、なんて声が飛んでくる。

    「蛍、ミントはどこにあるんだ?」
    「足元の棚の右下、かごの中。……ごめんね、いいんだよパイモン。作り置きならあるし」
    「いいや、今日はオイラがやるぞ! だからそこで座っててくれ!」

    うーん。危なっかしい手つきを見ているのも心配というか。元はといえば、蛍のせいではあるのだが。いつもより少し身体が重くて、ちょっと頑張れないな、と思っただけ。今日はご飯作らなくていい? と聞いてしまったから。よっぽど酷い顔でもしていたんだろうか。
    小さいキッチンバサミを駆使しながら真剣な顔で葉を刻むパイモンのやる気を無下にもできなくて、こうして見守ることにしたのだけれど。パイモンにすべてお任せしていますよ、みたいな顔で本を広げてはいる。でも、うわわ、とか、ふぬぬ、とか、そういう声が聞こえるたびに不安になってしまってまったく進んでいない。大きな声で あ! とだけ放たれたときはさすがに腰が浮いた。

    じっとレシピを眺めたと思ったら、はさみを動かす。雨林サラダにそんな複雑な手順なんてあったか、と言いたいのをぐっと我慢する。ぽろぽろと葉が足元に落ちていくのも今は見ないふり。口を挟めば邪魔するなと怒られるし、必死なパイモンにはお喋りの余裕もない。

    スメールローズとミントを端に寄せて、あとはザイトゥン桃のカットだけ。レシピ通りならスライスやくし切りだけど、はさみじゃちょっと難しいかも。でも包丁は使わせないよ、と約束したから、それ以外の道具でどうにかするしかないね。
    本に隠れながら、頭を抱えてしまったパイモンを盗み見る。写真を撮りたいけれど、ばれたらそれはもうぷんぷんに怒ってしまうだろうから。
    それにしても。頑張ってくれる様子を見ていたらなんだか元気が出てきた。今ならニンジンとお肉のハニーソテーも余裕で作れちゃいそうだ。

    ついにレシピ通りを諦めたのか、ザイトゥン桃を小さく刻み始めた。果汁が手首まで垂れている。……口を挟まない、がまんがまん。
    どんどん細かくなってきて、切るにも難しい大きさの実が残る。どうするのかと観察していればすっと口の中に吸い込まれていった。

    「あ」
    「ななななななんだよ」
    「食べたでしょ」
    「た、食べてないぞ」
    「口開けてごらん」
    「それは……ちょっと待ってな」

    喋りながらももごもごと動く口。観念しろー! と頬をむにむに解せば、でへへーだなんて誤魔化す。かわいいふりしてもだめだよ、もう。

    「私も早くパイモンのご飯食べたいよ」
    「は! そうだった! 今盛り付けるから待ってろ!」

    うん、わかった、と返事はしたけれど、ありつけるのはいつになるだろう。葉っぱを切るのには一時間半かかったんだ。




    Day8 腌篤鮮

    大量の新鮮な獣肉を抱えて洞天へと戻る頃には、タケノコを茹でた鍋もだいぶ冷めていた。アク抜きを済ませてゆで汁に漬けておけば、あと数日は楽しめるのだ。明日からは何を作ろうかとわくわくしながら皮を剥いて保存容器に詰める。
    今日のメニューはすでに決めていた。鍾離先生の話を聞いていたら食べたくなってしまったから。作りやすくアレンジされたレシピじゃ、彼が作るものには敵わないけれど。
    まずはお肉を軽く下茹で。一口大に切ったら焼き目をつける。じゅうじゅうぱちぱち。音につられてパイモンがやってきた。

    「何作ってるんだ?」
    「腌篤鮮だよ。はい、あーん」

    わざわざ小さく切り分けておいたお肉をふたりでつまみ食い。これもお料理の楽しいところだよね。
    ハムと焼いたお肉、それからタケノコをお鍋に入れて、鶏だしスープはかぶるまで。弱火にかけて、あとはじっくり煮込むだけ。時間はかかるけれど、それだけの価値がある美味しさだ。厨房に残るお肉の香ばしい匂いを胸いっぱいに吸い込みながら完成を待つ。

    「残りのタケノコはどうしようか。若竹煮もいいよね」
    「オイラ、炊き込みご飯が食べたいぞ!」
    「いいね、食べたい。お醤油合うもんなあ」
    「はっ、待てよ、ただ焼いてお醤油をつけるだけでもいいんじゃないか」
    「バターで焼いちゃう?」
    「わー! そんなの絶対おいしいじゃないか!」

    タケノコ、もっとたくさん必要だったかも。どんどんアイデアが出てくるから、メモしておかないと忘れてしまいそうだ。
    ときおり蓋をちょっとだけ持ち上げて様子を確認しては、湯気と一緒にこぼれる匂いに食欲が刺激される。これだけでご飯食べられそう。
    まだか? とふよふよ飛びながら急かすパイモンを宥めるけれど、実は蛍の方ももう食べたくて仕方がない。時間がかかるからなかなか作れなくて今日になってしまったけれど、鍾離先生と腌篤鮮の話をしたのは先週のことだ。勝手にお預けをくらった気分でいたから、待ちきれなくてうずうずしてしまう。

    「もうちょっと我慢だよ。もっとおいしくなるからね」
    「おいしいもののためならオイラ、頑張るぞ」

    結局30秒後にはまだか? と言い始めたけれど。
    だんだんと飽きてきたパイモンに七聖召喚の練習に付き合ってもらってこれで5回目。そろそろ完成でいいんじゃないだろうか。
    机の上片付けてくれる、と声をかければ、あっと言う間に仕舞われていく。七聖召喚片付け大会があったらパイモン選手は優勝候補だよ。
    食べる前からほっぺたが落ちそう、だなんて言うパイモンは、すでに鍋に釘付けだ。じゃあ今から蓋を開けるから、ちゃんとほっぺた支えておいてね。





    Day9 ローズシュリカンド

    ぐ、と目が覚める感覚に、持ち上がらないまぶたをこする。

    「蛍、起きろ起きろー!」

    揺さぶられる感覚になんだなんだと目を開ける。胸部が重い。早いよ。カーテンから漏れる光はまだそんなに強くない。

    「おはよう蛍! ヨーグルト見に行こうぜ!」

    とりあえず、おはようと返した声はかすかすだ。何かが喉にひっかかってるみたいな。水が欲しい。
    蛍の上に乗ったパイモンは掛け布団を捲りあげて腕を引く。なんで今日はそんなに早く起きてるの。それにまだ起こされるような時間じゃないよ。
    暴れる小さな身体をぎゅうぎゅうに抱きしめて再び目を閉じれば、さっきよりくぐもった声がおい! と呼ぶ。もう、冗談だよ。おかげで目は覚めてる。

    「どうしたの」
    「やーっと起きたか! 昨日仕込んだヨーグルトを見に行こうぜ!」
    「私そのために起こされたの?」

    パイモンを解放すれば、くるくる宙を舞って急かされた。ひとりで見たらよかったじゃない。いやだめだ、一瞬で全部食べちゃうかも。
    スメールで出会った行商人に勧められた、ヨーグルトの種菌。牛乳と混ぜて一晩置いておけばヨーグルトができるよ、と聞いて案の定パイモンが食いついた。まあパイモンの自由研究ってことで、と買った種菌は昨晩さっそく混ぜられていた。今は保冷バッグの中で温まっているはずだ。
    鼻歌を歌いながら弾むように動いてはくるりと1回転する相棒についていく。パイモンは朝から元気だな、開ききっていない目でよたよた歩く蛍とは大違い。
    厨房の隅にあるバッグから保存容器を取り出せば中身がとろっと動く。おお。

    「で、できてる! 蛍、ヨーグルトだ!」
    「うん、いい感じ。さっそく食べてみる?」
    「おう!」

    スメールで出会ったヨーグルトなら、スメール式の食べ方を。お砂糖を混ぜたら、スメールローズとナッツを添える。とっても簡単だけど見栄えがするなんて、なんちゃってシェフとしてはありがたい。

    「いただきます」
    「オイラが作ったヨーグルト、よく味わってくれよな!」
    「ん、おいしくできてる。さすがパイモンだね」
    「うまー! いくらでも食べられるな」

    まだあったよな、でも今食べたらなくなっちゃうし、なんてぶつぶつ言いながらもどんどん食べすすめるものだから、あっと言う間にお皿はからっぽで、ぐぎゅぎゅ、と葛藤している。出た、パイモンの鳴き声。

    「できたヨーグルトをちょっと取っておいて牛乳と混ぜれば、またヨーグルトが作れるんだって」
    「それホントか! 無限に作れるじゃないか!」
    「他の菌も混ざるかもしれないから、3回くらいが限界みたいだけど」
    「じゃあとりあえずもう1回は作れるんだな! なら、今食べちゃおうっと」

    ヨーグルトを皿にこんもりと盛ったと思ったら、砂糖やナッツと共に差し出された。いやここまできたら自分で飾り付けたらいいじゃない。




    Day10 パティサラプリン


    突然お菓子作りをしたくなることがある。目的は作ることであって、食べたいわけじゃないのだ。そうやって作りすぎても、この食いしん坊な相棒がいれば大丈夫。

    鍋に入れた夕暮れの実とラズベリーにはお砂糖をまぶす。パイモンがミントゼリーをちゅるちゅると食べる横に置かせてもらおう。

    「これはなんだ?」
    「あとで加熱してジャムにするよ」

    ほえー、なんてゆるい返事。食べるのに忙しくって返事をしている場合じゃないのかも。
    こんなにたくさん、しかもいろんなものが食べられるなんて夢のようだな! と小躍りしながらぺろりと平らげる様子を見ていると、こっちもどんどん楽しくなってきてあれこれ作ってしまう。ビュッフェの存在を知ったら、パイモンは一体どんなリアクションを見せてくれるのだろう。見られていないのをいいことに、ひとりでにやにやと想像してしまう。

    さて、次は。
    パティサラとスメールローズを絞ると、鮮やかな色がじわりと滲む。かぐわしい花の香り。摘みたてだからか強く感じる。せっかくならお砂糖を少なめにして香りを楽しむのもいいかもしれないなあ。
    あ、残りのお花は砂糖漬けにしたらきっとおいしい。絞った半分は牛乳と合わせれば、淡い紫色がとっても綺麗だ。
    いけない、ゼラチンをふやかすのを忘れていたけど、でも大丈夫。急な待ち時間は、余っている卵黄を卵焼きにしてしまおう。甘いものをたくさん食べるならしょっぱいものも挟まないとね。
    卵を焼けば、甘ったるい匂いでいっぱいの厨房も少しだけすっきりした気がする。

    「卵黄だけだと、やっぱりちょっと固くなっちゃうね」
    「そうか? これもおいしいじゃないか!」

    おいしいならいいけど。卵は難しいね。
    ゼラチンももうよさそう。温めすぎには注意して、まずは牛乳と合わせた方に溶かしたゼラチンを混ぜたら器に注いで冷やし固める。ジャムをくつくつと煮ながら待っていよう。二層にするのはちょっと手間だけど、見た目が一気にきらびやかになる。

    いつの間にか杏仁豆腐まで食べていたパイモンは、そろそろお腹いっぱいになってきたみたい。何種類食べたっけ。

    「ところでお前、なんで瓶なんか煮てるんだ?」
    「消毒してるの。ジャムを詰めて保存しておきたいから」
    「この前ヨーグルトを作ったときは消毒液をシュシュッとかけたよな。いろんな方法があるんだな」

    ジャムの保存は熱さが肝なのだ。まだ熱いジャムを、これまた熱い瓶に入れて蓋をする。

    「これを一瞬緩めればシュッて音がするの。それが空気が抜けた音」
    「で、またすぐ締めるんだな」
    「そう。熱いけどやってみる?」
    「……おお!」

    パティサラプリンの二層目を流し入れる横で、パイモンのお手伝いタイム。本当は瓶ごとまた加熱する方がいいみたいだけど、きっとパイモンがすぐ食べちゃうからこれで。

    「そのパティサラプリンにジャムをかけたら、おいしいと思うか?」
    「ええ、合うかなあ」
    「甘いものに甘いものなら合うだろ! やってみてもいいか?」

    パイモンがやりたいならいいけど、さすがに合わないんじゃないかな。
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