「……明かりを消して欲しい」
いつの間にかノースディンの使い魔は居らず、二人きりの寝室。
寝台の上で押し倒されて、体をまさぐられ裾から入り込んだ手に過敏にびくりと震えてしまい、その居た堪れなさから絞り出した言葉は、あまりに間抜けで悪手だったと、要望通り照明を落とされたことで、クラージィは即座に気が付いた。
けして忘れてなどいなかったが、この体はとうに吸血鬼に変じており、先ほどよりも当然のことながらあたりを見渡せる。
壁紙や床材、照明器具や小物類に至るまで、この屋敷の主であるノースディンが拘って誂えたのであろう、品の好い調度品で揃えられている。
普段ならば寛げるはずの彼の趣向が凝らされた屋敷が、今は居心地の悪さしか感じられない。床など気にしたことが無かったというのに、クラージィは無意味に絨毯を見下ろしその織り糸を数えてしまいそうになる。
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